【63】【64】【65】
【63】
翌朝は、朝早くからパーティの支度の準備。
通常のパーティであれば早くてもお昼過ぎ位から支度するので十分に間に合うのだけれども、今日は卒業パーティという事もあって、どこの家もばっちり装いを整えてくる。
当然我が家も侯爵家の威信にかけて……という訳ではないけれど、それでも侯爵家として恥ずかしくない装いをするためにも、朝からの支度になっているわよね。
侍女の皆は夜寝れたのかしら……。
香油を使った湯浴みやマッサージ、髪型やメイクなどをひたすら時間を掛けて仕上げていく。
侍女達もここぞとばかりに、腕によりをかけて仕上げてくれている。
ここまでで、気が付いたらお昼をすぎていたので、軽く食べられるもので食事を済ませてからドレスの着付けに入ったんだけれど。
「お嬢様、ドレスへのお着替えが終わりましたら、会場へと向かう事になりますが……その……殿下は何時ごろお迎えにいらっしゃるのでしょうか?」
侍女が一人恐る恐るわたくしに、殿下が迎えに来る時間を訪ねてくるのに、わたくしは軽く困った様に笑みを浮かべた。
通常であれば、何日も前に何時に婚約者の家へ伺い、エスコートする手筈を決める流れだものね。
当然わたくしには、殿下からそういった連絡なんてものはいっさいない。
エスコートの相手についてどう伝えてものかしら……。
一人で会場に行く事を伝える ⇒【48】へ進む
マティアスがエスコートすると伝える ⇒【74】へ進む
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【64】
「マティ」
「うん、義姉さま。はい、これ」
わたくしは徐に、マティに預けていた書類を受け取った。
「こちらの書類ですが、わたくしのこの半年間のスケジュール、わたくしが誰と何をしたかなどの行動をした事が全て記載されております」
「えっ」
「なっ!」
「さて、まずは教科書を破られた先週の件ですが。そもそも先週も先月もわたくしは学園に登園しておりません。王妃陛下や宰相様等とお会いして執務にずっと携わっておりましたもの。ベルツ男爵令嬢、わたくしがどのようにして、あなたをの教科書を破り、池へと突き落としたと言うのでしょうか」
「え、あの、それは……!」
「デタラメを言うな! どうせそんなの捏造した書類なのだろう!!」
「王妃陛下や宰相様にご確認して頂いて結構です。陛下にもご相談済みですし」
「父上に、だと……!?」
陛下の名前に、殿下があからさまに焦り、真っ青になる。
相談を既にしていると思わなかったのでしょうね。
「陛下には元々、殿下が執務をわたくしに押し付けて来る事などで、父からご相談をさせて頂いておりましたわ。それに加えて、ベルツ男爵令嬢と浮気をされているという、王太子としての自覚の無さを憂いて、陛下主体のもとで、わたくしと殿下と、ベルツ男爵令嬢に、王家の影を付けられる事をされをましたわ」
「な、影を、付けた……!?」
殿下が真っ青を通り越して真っ白になって行く。
影の方は陛下の命以外は聞かない。
まだ王太子である殿下にも、当然影の方に命じる権限は無いし、また影の方の職務への忠実さを知っているからこそ、わたくし達三人に付けられていたと言う事実が、もう言い逃れも言い訳も利かないのだと言う事を分かってるのでしょう。
「えぇ、ですから、わたくし達のここ数ヶ月の行動を、全て影の方々は把握されております。築一陛下にもご報告されております。わたくし達が誰と会い、どんな会話をし、どんな行動をしてきたのか。逆に誰に何を言われ、どんな事を言われてきたのかも」
「くっ……!!」
殿下があからさまに焦りだした。
自分がわたくしに何を言ってきたか、してきたかを分かっているからこそ、焦っているのだろうけれど。
ニッコリ。
わたくしは、柔らかく笑みを浮かべ、軽く首を傾げて手を頬に当てる。
「でも殿下は、ベルツ男爵令嬢の言葉を信じていらっしゃるのでしょう? でしたら、影の方にわたくしとベルツ男爵令嬢がどこで会い、どんなやり取りが行われたのか、ベルツ男爵令嬢が一人の時に何をしているか、お伺いすればよろしいだけの事ですわ。影の方々はわたくしに忖度する必要は無いのですもの。きちんと伝えて頂けましょう?」
「……」
「あら、ベルツ男爵令嬢を信じていらっしゃらないとでも?」
「そ……んな事は、そんな訳がないだろう!! 私はリーリアを信じている! なぁ、リーリア!」
「……え、えぇ……」
「……リーリア…………?」
ベルツ男爵令嬢が殿下と目を合わさず、殿下が訝しむ表情になる。あらあら。
「ベルツ男爵令嬢も、わたくしが貴女をイジメたとそう仰るのでしたら、口だけではなく、しっかり証拠を揃えて、反論すればよろしいだけですのよ?」
「……」
「今度はだんまりを決め込まれるのですか?」
まぁ、王家の影に反論出来るレベルの材料なんて、まず無いのだけれども。
「……ぃ……」
「え?」
「うるさいうるさいうるさい!!! 何よその王家の影って!! そんなの設定資料集にだってなかったじゃないの!!」
⇒【28】へ
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【65】
体が重くて動かない。
逃げないとと思ってるのに。
そうこうしてる内に、目の前の男が腕を振り上げたかと思うと、わたくしの胸を目掛けて振り落とされた。
ダメ、殺される………!!!
動けないわたくしは、そのまま短剣が振り下ろされるのを見ているだけだったが。
突如、マティから受け取ったペンダントから強い光が放たれ、振り下ろした男の短剣を強く弾いた。
「なっ!」
男の手にした短剣は、落下音が絨毯に吸い込まれ、音もなく男の足下に落ちる。
……何? 何が起きたの……?
「義姉さま!!」
「マ……ティ…………?」
わたくしの、名前を呼ぶ、マティの、声がする。
何故………マティがここへ……?
エスコートは断ってしまったから、会場にはいないはずなのに……。
あぁ、でも助かる……、わたくしは殺されないんだ……。
マティの声を聞いたわたくしは、安心からか目尻から涙が流れ落ちた。
「クソッ……! 一体何が……!!」
「義姉さまに、近づくな!」
突然の短剣を弾かれた事で驚いていた暗殺者だが、すぐにまた依頼を遂行しようと、男の手がわたくしの首を締めようと近づく。
が、わたくしの首に触れるよりも先に、マティが炎の魔法を放ち、男の腕や顔があっという間に火に包まれた。
「ひっ、ぎゃああああああ!!!!!」
突然顔と腕が、火に包まれた事で男は大きな悲鳴を上げて、床に倒れ、本能的に火を消そうとしてるのか、ゴロゴロ左右に転がる。
その隙を逃さず、マティは腰の剣を抜くと、転がっている男の胸を目掛けて、剣を突き刺した。
「ぐ、ふっ……!」
胸を刺され口からも血を吐き出すと、男はそのままバタつくのが止まり静かになった。
ヒュー、ヒューと小さく息をしているから、死んではいないみたいだけど……。
「殺しはしないよ。話せるくらいには回復させてから、今回の事、洗いざらい情報は吐いてもらうからね」
ボソリとマティが、意識の無い男に向かって呟く。
あぁ、そうだった。マティは攻撃魔法や剣術も巧みだけど、本当は一番回復魔法が得意だものね。
……と、そんな事を色々考えられる余裕はもうギリギリだったのか、マティがこっちを向いた姿を目にして安心したのと、毒と殺されそうになって精神が限界だったのとで、わたくしはそのまま意識を失ってしまった。
「義姉さま、義姉さま……!」
わたくしを何度も呼ぶ、マティの声がどこか遠く、夢の中で聞いた様な気もするけれど、私の意識はゆるりと闇の中へと落ちた。
⇒【26】へ進む
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