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【45】
青いバラが綺麗な色合いだけれど、マティが言う様に、エスコート相手の色を纏うのは基本よね。
すごく悩んだけれども、最終的に緑のバラを選ぶことにした。
「青じゃなくて、緑のバラを頂けるかしら?」
「え?」
わたくしが青色のを選ばなかったのが意外なのか、受付の男性は、驚いて軽く目をしばたたかせて、こちらを見つめてきた。
……確かにわたくしは青色が好きだけれど、そこまで驚くのは、少々大袈裟なのではなくて?
「あ、あの……こちらの青いバラは、本当に希少な種で、ここまでの色合いになるのは珍しい事でして……。青色の方がよろしいのではないでしょうか? ドレスにもきっと映え」
「おい」
「ひっ」
「義姉さまが緑がいいと言ってるんだから、つべこべ言わずに緑のバラをもってこい」
「は、はい!! お待ちくださいご用意いたします!!」
「ちょっとマティ」
きつい口調にマティを咎めれば、マティは分かりやすい位にムスッとした表情になって唇を尖らせる。
「だって義姉さまが僕の色を纏ってくれるって決めてくれたのに、青色を勧めてくるもんだから……。」
この子、こんなぶすくれた表情なんてするのね。家だとどちらかというと取り澄ましたイメージだったからちょっとビックリだわ。
「わたくしが緑色を選んだの、そんなに嬉しかったの?」
「!……、エ、エスコート相手の色を選ぶのは基本的な事でしょ」
「ふふ、そうね。そういう事にしておきましょうか」
受付のは人が持ってきてくれた緑のバラを受け取り、胸に飾ると、わたくしたちは会場へと入っていった。
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【46】
ベルツ男爵令嬢の突然の叫びに、ただでさえ静かだったこの会場が、水を打ったように静かになる。
「リ、リーリア……? その資料集? とやらは?」
「キリルもキリルだわ!! なんでそんな影が王様にいるなんて教えてくれなかったのよ!」
「え? でも影を使うなんてよほどの事がない限り不要だし、リーリアかわ王妃になれば影の事だって勿論王妃教育て教わる事だぞ……?」
「そうじゃなくて!! 先に知っておきたかったのに!」
「な、んでだ……?」
「そんなのがいるって知ってたら、わたしもっと上手く立ち回ったもん! 悪役令嬢からイジメられてる証拠とか、きちんと誰にもバレない様に作るくらい考えたのに!! 信じらんない!」
「っ……!」
自分でこれ以上なく、自白と言うか自爆してしまってるけれども、彼女は気が付いてないわね。 やっぱり彼女も転生者だったのか。うん、予想はしてたし、むしろ「ですよねーお約束ですよねー」だけれど。
わたくしの事よりも、殿下が割と本気で泣きそうな顔になってるわ。
まぁ、信じていた人がガッツリ嘘でした!
って公衆の面前に向けて言ったようなものだものね。仕方ないけれど。
「あんたもあんたよ!! あんたもどうせ転生者なんでしょ!! クソッ、キリルも他の攻略対象達も好感度MAXのルートだったから、物語の強制力でも働いてるのかなって思って、それなら大丈夫かなと思ってたのに!」
殿下を詰ってるかと思えば、わたくしに今度は言いたい放題叫び出して来た。
あぁ、逆ハーエンド狙ってたのね。
「キリル!! 私の事好きなら、あの悪役令嬢を早く殺すなり薬漬けにするなり、性奴隷なりして売り飛ばすなりしてよ!」
「リ……リア……」
隠す気が無くなったのか、ベルツ男爵令嬢もとい、ヒロイン転生者の彼女は、殿下に噛みつかんばかりに叫び出した。
相当ショックだったのか、殿下が瞳を見開いて固まってしまっている。
清純可憐な少女と思っていた所に、そうでは無いと言わんばかりの本性を見せられたのは同情するけれども。
まあ、そもそも殿下が浮気をしなければ良かっただけなのですよね。
「殿下」
「トルデリーゼ……」
あら、その呼び方久しぶりね。何の感情も沸かないけれど。
「わたくしからは、この場でこれ以上申し上げる事はございません。また、ベルツ男爵令嬢の行動についても、ハッキリさせる気はございません。全ては明日、陛下の御前で、全てハッキリしますでしょう?」
「うるさいうるさい! 何が陛下の御前でー、よ! アンタみたいな悪役令嬢は、わたしの手の平で、シナリオ通りに躍らせられてなさいよ!!」
ベルツ男爵令嬢が叫ぶと、殿下をドンッと押し退けてて離れると、隠し持っていたドス黒いナイフをスカートの裾から取り出し、私目掛けて向かって来た。
え、刃物を隠し持っていたの?
そんな流れになるとは思わなかったので、わたくしもビックリしてしまう。
周囲からは悲鳴が上がるが、すぐに会場の護衛騎士がベルツ男爵令嬢に近付くと、剣でナイフを弾いたと同時に、帯刀していた剣の柄頭の部分をお腹にくらわせる。
ドスッといい音がしたので、かなり強く当てたようで、ベルツ男爵令嬢も「ぐへぁっ」という、女の子が出すには中々厳しいくぐもった声を上げると、そのままバタリと倒れてしまった。胃の中のものを吐き出さく事なく気を失ったのは不幸中の幸いかしらね。
「お怪我はございませんか」
「……えぇ、わたくしは近寄られただけでしたから、怪我などは問題ございませんわ」
「畏まりました。殿下。男爵令嬢は、気を失っておりますし、こちらの侯爵令嬢への殺人未遂もあるため、私はこのまま彼女を連行させて頂きます。失礼致します」
そう言うと、騎士の人は、ベルツ男爵令嬢を米俵の様に肩に担ぎ、会場を後にした。
「リ、リーリア……」
殿下が呆然としたまま、彼女の名を呟く。
「殿下。婚約諸々、全ては明日、陛下と王妃陛下の御前にてお話しましょう」
「ま、待ってくれ、トル」
「皆々様、せっかくの卒業パーティだと言うのに、場を汚してしまった事、心よりお詫び申し上げます。私どもはこのまま退場致します。ごきげんよう」
殿下の言葉を振り切る様に、こちらを見ていた会場の方々へお詫びを告げた。
そうして、わたくしはカーテシーをして皆様への挨拶を済ませ会場を後にした。
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