【38】【39】【40】【41】
【38】
書斎の時計が17時の鐘の音を告げて、その音に本の世界から現実へと意識が戻ってきた。
もう17時になっていたのね。
「少しだけのつもりが、だいぶ時間が経っていたのね」
このまま読書を続けるのも悪くないけれど、そろそろ夕食の時間だし、明日は、朝からパーティの支度で大わらわだものね。
部屋に戻るとしましょう。
「うん、久し振りにのんびりとした一日だったわ」
わたくしはグーッと伸びをすると、本を書棚にもどすと、そのまま書斎を後にした。
⇒【63】へ進む
ꕤ.。✼••⋅⋅⊱∘┈┈┈┈•>✾<•┈┈┈┈∘⊰⋅⋅••✼。.ꕤ
【39】
「楽しそうに弾いてたのに、邪魔しちゃった?」
「ううん、大丈夫よ。手慰みに弾いてただけだから」
「そうなの? 良かった」
安心したようにホッと息を吐いてから、マティは、手にしていたバイオリンのケースからバイオリンを取り出した。
「あら、マティも弾きに来たの? わたくしは大分弾いたし、退散するわね」
「え、退散しないていいよ! 折角なんだし、一緒に演奏しない? 最近は義姉さま忙しくて、それどころじゃなかったでしょ?」
ニコリと、やや不敵な笑みを浮かべながら、マティはバイオリンを構える。
マティアスはバイオリン、わたくしはピアノで、前はよく一緒に演奏していたものね。お妃教育が始まってからは、家で楽しんで弾く、なんて時間はほとんどなくなってしまったけれど。
「今日は予定ないんでしょ? それともピアノの腕、なまっちゃった?」
「もう、そんな訳ないじゃない! お妃教育で時間取られたからと言っても、ピアノに触れる時間が全く無かった訳ではないのよ?」
「じゃ、いいじゃない。久し振りにさ。どう?」
口調は強気に聞こえるけれど、わたくしを見上げながら言うその言葉から、わたくしと演奏をしたいというのが伝わってきて。マティは、こうやって見上げながらのおねだりが上手いのよね。わたくしが弱いだけとも言うけれど。
でも、わたくしも一緒に演奏するのは嫌いじゃないし、むしろとても好き、それにマティとの演奏なんて随分久し振りだったし、その提案に乗る事にした。
「そうね、久し振りに何曲か、一緒に演奏しましょうか」
「うん、義姉さま!!」
そう言って、マティは嬉しそうにニパッとした笑みを浮かべてくれた。
そうして、わたくしはピアノを、マティはバイオリンでの二人で奏でる演奏をしばらく堪能した。
⇒【58】へ進む
ꕤ.。✼••⋅⋅⊱∘┈┈┈┈•>✾<•┈┈┈┈∘⊰⋅⋅••✼。.ꕤ
【40】
書斎の時計が15時の鐘の音を告げて、その音に本の世界から現実へと意識が戻ってきた。
もう15時になっていたのね。
「少しだけのつもりが、だいぶ時間が経っていたのね」
このまま読書を続けるのもわるくないけれど、他の場所に行くことにしようかしら。
どうしましょう。
庭園へ花を見に行く ⇒【42】へ進む
演奏室でピアノを弾く ⇒【53】へ進む
お父様の執務室へ行く ⇒【52】へ進む
ꕤ.。✼••⋅⋅⊱∘┈┈┈┈•>✾<•┈┈┈┈∘⊰⋅⋅••✼。.ꕤ
【41】
「トルデリーゼ・ルントシュテット!! 私は第一王子たるキリルの名に於いて、貴様との婚約を破棄するとここで宣言する! 貴様の様な性格がドブのように濁って腐りきったような者が、私の婚約者など、不釣り合いにも程がある!!」
突然の殿下の婚約破棄宣言に、周囲は先程以上にざわつきを見せ始める。
大半は困惑した囁きや、わたくしへの憐れみの眼差しが殆どのようね。
「そして私はこちらの、マリーリア・ベルツ嬢と、新たに婚約をすることをここに誓う!!」
マリーリア男爵令嬢の腰に手を回しながらそう宣誓する殿下の姿。
婚約破棄を叫んだと思ったら、その場ですぐに、別の女性と婚約をするとの叫びに、卒業生も在校生も、教師や演奏されてた楽団の皆様や、給仕をされていた方々までも。
全員が全員何を見せられてるのか聞かされてるのか理解出来ないと言わんばかりに、ポカンとした顔になって、殿下達を見つめた。
「殿下」
わたくしはカーテシーの状態から、静かにスッと姿勢を戻し、殿下を静かに見つめた。
「この婚約は王家と我が家でわたくし達がまだ幼い頃にとりきめたものです。陛下や王妃陛下はご承知なのでしょうか?」
「ハッ! 私ももう学園を卒業し、これからは陛下である父の跡を継いでいき、後々には王となるのだからな! 何も問題あるまい!」
いや、問題ありまくりですが?
確かに殿下は立太子されてますが、だからってそんな独裁者的な発言を今からしたら、殿下の派閥にいる貴族達が「この人の下にいて大丈夫なのか」みたいに思われてしまいますが。
案の定、パーティに参加されていた生徒の親御さん達の中には、今のやり取りだけで、眉をしかめていたり、既に伝令を飛ばそうとしている人も見受けられる。
陛下にしても、あの自分にも人にも厳しい陛下の耳に入られた日には、大変な未来が待っていると思わないのかしら……。
まぁ、そんな事気が付いてもない、考えてもないのでしょうけれども。
「殿下、まずは陛」
「まず権限がどうこうよりも!! 貴様は学園にいた時、リーリアを陰でずっと虐めていたのだろ! この陰湿な性悪女め!」
「わたし……本当に辛くて……でも私は平民の出ですし、仕方ない事なのですと……」
わたくしの発言を遮り、あらぬ罪を着せようとし、更には会ってもいない令嬢は、わたくしにいじめられたとポロポロと涙をこぼし始めてきて。
「あぁリーリア、そなたは何も悪くない! 私がもっと早くに婚約を破棄し、アイツを処刑なり国外追放なりして処分していれば、これほど悲しませずに済んだものを……!」
「キリル様……!!」
……。
…………。
………………。
二人共愛称で呼び合い見つめ合うと、周囲の視線なぞ気にする事なく、ヒシッと抱き合う。
前世の小説やマンガでよく見た、断罪劇中の中に突如始まる三文芝居。
読んでた分には「来た来たー!」位のテンプレ展開で笑ってたけれども、あれは関わりない第三者だから出来るのねと、よーーく分かるわ。
何を見せられてるのかしら。と言う気持ちと。
うわ、ウザッ。空気読みなさい貴方方。と言う気持ちと。
その他にも色々な冷めた目で見るだけの状況に、巻き込まれた側のわたくしは今すぐ邸に帰ってしまいたくなっている。が、そこはなんとか耐える事にして。
わたくしは扇で口元を隠し、ハーッと一つ息を吐いた。
今、殿下の口から出た【処刑】【追放】【処分】、これはマズい発言なのを、わたくし含め、周りの人達は判っている。
これは殿下が王になったら、自分達も同じ目に合う可能性があるからだ。
生徒や先生方は真っ青だし、来賓の方々や一部生徒の親御さんは、生徒を連れて静かに退場しようとまでしている。
自分で自分の首を絞めた事に気が付いてない殿下はまだ、抱き合っていた。……まだやってたのね。
とりあえず、このままではどうにもならないしと、わたくしは話を進める事にした。
⇒【77】へ進む
ꕤ.。✼••⋅⋅⊱∘┈┈┈┈•>✾<•┈┈┈┈∘⊰⋅⋅••✼。.ꕤ




