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【35】 ─庭園 9時─
庭園へ出てみると、フワリと風に乗って、柔らかく花の香りが運ばれてくるのが分かる。
バラの優雅な香りに、思わずフフッと笑みが零れてしまうわ。
バラの花以外にも、他の花々も草木も、丁寧に手入れされているのが目に入り、庭師が丁寧に仕事をしているのが伝わってくる。
そのままゆっくり庭を散策していると、ガゼボのある所までたどり着いた。
「お嬢様。よろしければお茶をおもちしましょうか」
「えぇ、お願い。少し歩いたから、何か飲みたいなと思っていたの」
「かしこまりました」
ミアが屋敷に戻って、ローズティーの用意をしてくれる。
彼女の淹れるローズティーは美味しいのよね。香り高くて、お茶も渋みがなくて、お茶菓子にあって最高なのよね。
そうしてゆっくりとガゼボで過ごしていたら、庭師のトムがお昼休憩にはいるのか、道具を片付けている。
そうか、そろそろ11時なのね。
ずいぶん、ここでゆっくっりしちゃったわね、そろそろ散歩に戻ろうかしら。
空になったカップを静かに戻すと、私はガゼボを後にした。
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【36】
会場に入ると、わたくしのエスコートをしてるのが、殿下ではない事に、周囲からざわつきの声が上がる。
中には殿下と男爵令嬢の流した、根も葉もない噂を信じてる人達からは、ニヤニヤとした侮蔑の表情を向けてくる人もいたけれども、わたくしが意に介さず堂々としているのに圧されたのか、こちらに近寄っては来なかった。
それでも近寄ってくる馬鹿な人とか、少しはいる者だと思っていたので、これには正直拍子抜けした感があるわ。
「案外、皆こっちに来て、何か言おうとかする人っていないものなのね」
わたくしの言葉に、マティが耐え切れなくなったのか、フハッと噴出した。
「義姉さまが、これだけ堂々と会場入りしていれば、普通は近づいてこないんじゃないかな。
そもそも、侯爵家に対してそんな無礼な対応をした日にはどうなるかなんて、火を見るより明らかなんだし。その勇気があれば、喧嘩吹っ掛けてきてみなよって話なんだよね。
ま、義姉さまに何かされる前に、売られた喧嘩は僕が搬送料込みのお値段で買ってあげるけれどね」
……マティがどす黒い笑みを浮かべながら、どす黒いオーラを振りまいて歩いてるから、誰も近づいて来ないのではなくて……?
うん、そこは突っ込まないでおきましょう。わたくし、何も見なかった何も見なかった。
会場内に入って暫くはマティと共に、同級生と話したり軽食を口にしていたりしていたのだけれど。
「おや、マティアス君じゃないか」
「あ、デューラー先生。お疲れ様です」
マティがペコリと頭を下げる、デューラー先生と呼ばれた人は、わたくし達の学年の副主任であって、魔術学の教諭でもあるお方だ。
マティは選択科目でこの魔術学を取っているので、学年は違えども先生とは顔見知りだ。
先生がマティの治癒魔術の強さを気に入ってしまい、しょっちゅう実験やら怪我人の治療などに、連れまわしていたりもする。
まあマティ自体が魔術学に興味があるので、先生に連れ回されるのはむしろ喜んでるぽいから、いいのだけれど。
「ちょうど良かった! さっき、卒業パーティの準備中に大道具が棚から落ちて何人かケガしちゃった人が出てね、回復術士の先生たちも手伝ってくれてるんだけど、マティアス君も手伝ってくれないかな」
マティアスの回復呪文の効果は、他の人よりも高いので重宝されるから、助っ人要因にされるのよね。
「え……先生。その……流石に今日は……」
「いいえ、マティ。行ってきなさい」
「義姉さま? だって……」
本音を言えば、そりゃ隣にいてくれる方が、断罪イベントの時に心強いけれど。それでも回復術士だけでなく、マティを呼ぶ程にはケガした人がいる以上、それを聞いたら、放ってはおけないわ。
「デューラー先生。マティがいれば、そんなにお時間はかかりませんでしょうか?」
「そうだね。彼の魔力で回復効果の強さなら、そんなに時間は掛からないよ」
「だそうよ、マティ。わたくしは会場内で待ってるから、行ってらっしゃい」
「義姉さま……」
事実、何人か他の教員の方もバタバタ会場を出て行っているから、助けは他にもいる方がいいのは間違いないわ。
マティは残りたい気持ちはあるけど、同じ方を気になる様に見てもいるから、手伝いにも行きたいのでしょうし。
「じゃ、頑張って回復術掛けまくってくるから、義姉様ちゃんとここにいてよね!」
「えぇ、大丈夫よ。行ってらっしゃい」
うん、と強く頷くとマティは、デューラー先生に着いていく形で会場を後にした。
「…………」
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【37】
目を閉じてからどれ位経ったのか。数分とも数十分とも感じ取れる。
息が乱れ体を動かすのもキツイ中で、ドアノブが静かに回る音に気が付いて、視線だけをそちらに動かした。
扉が音もなく開くと同時に、三人の男が、足音を立てずに部屋へと侵入してきた。頭巾の様なもので顔を隠しており、目だけが僅かに見える程度の姿に、正体が誰かなど分かるわけもなく。
息苦しく呼吸をつく中、男達は私に近づき、ソファに横たわったままのわたくしを見下ろしてきた。
「バラの毒が効いているようだな」
ボソリと呟いた言葉に、わたくしは瞳を見開く。
バラ……バラですって……!?
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