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「まさか起きたら、もう色々終わっているなんてわ思いもよらなかったわ……」
朝食の後、マティが昨日の事で報告あるよと言うから、東屋でお茶をしながら話を聞く事にしたのだけれど。
卒業パーティから帰宅して、わたくしが眠った後、お父様とマティは改めて、殿下が企んでいた、わたくしへの多数の冤罪の証拠、昨夜の殺されかけた証拠、それに暗殺者が依頼人は殿下と男爵令嬢だと簡単に口を割った事などを、諸々纏めると、そのまま王城へと向かい(一応先触れは出したみたい)、陛下に提出されたらしい。
マティは眠れたのかしら……。
婚約破棄だけでなく、殺されそうになった事も含めて、お父様とマティは、かなり怒り心頭だったみたいで、その勢いのまま陛下に直訴をされたとの事。
学園内だけの事だけでなく、暗殺の件は流石に陛下も擁護はこれ以上出来なかったようで。
わたくしと殿下の婚約解消が、昨日の深夜のうちに行われたというから、さらに驚いた。
お父様、仕事が早すぎませんこと?
まさか寝ている間にそこまで話を進められているとは、流石に思わなかったわ。
それだけかと思えば、ビックリな事に、殿下側の有責と言うのもあり、陛下は、殿下の王太子を取り消して、代わって第二王子であるシュテファン殿下が立太子をにすると決められたとの事。
また、キリル殿下は最低でも向こう五年は辺境で、一兵士として魔物と戦う事になるらしい。手柄を立てない限りは王都へ戻る事を許さないとか、あの軟弱ヘタレ殿下には、いい薬だろう。
お父様が言うには、現辺境伯は、陛下の学生時代からの親友らしく、殿下の横暴我儘三昧は通じないだろうとの事。
完全に放り出す訳でなく、親友の方のいる地に送る所は、陛下の親としての優しさなのかしら。
それと男爵令嬢だけれども。
冤罪を仕掛けたこと、上級貴族の暗殺を企んだ事、王配を狙った事などで、それはもう、彼女一人の罪では当然すまなくて。
お家は断絶。親類縁者は、全て平民落ち。
更に彼女は、片脚の腱を切らされた上で、戒律の厳しい極寒の北の地の修道院に行かされたらしいわ。
下手に国外に追放して、他国に迷惑掛ける可能性も無いとは言えなかったからと、それなら、簡単に逃げれない様に、片脚だけ腱を切って、修道院での奉仕活動をずっとさせる事になったそう。
確かに片足が上手く歩けないなら、脱走してもすぐに遠くには行けないし、見付かっても逃げ切るのは難しいものね。
両足だと、今度は労働させるのにも難しくなるし。
それと怪我をしても病気に罹っても、手当もされないらしい。 ……中々エグいと言うか、容赦が無いと言うか。
地味にキツい罰だわ。
頑張って生き抜いてねとしか、わたくしからは言えないけれども。
「義姉さまは甘いよ。義姉さまを殺そうとしたんだから、これくらいで済んだのは可愛い方じゃない」
二人の処罰についての報告を聞いていたマティはマティで、容赦の無い言葉を呟いた。
「貴方も大概容赦ないわねえ」
「じゃあ聞くけどさ」
口に残っていたクッキーを紅茶で飲み干すと、マティは言葉を続けた。
「逆に僕が同じ目に合ったとしたら、義姉さまはどうする?」
「……」
マティの言葉に、紅茶を飲もうとしていた手がピタリと止まる。
確かにマティが、わたくしの様に冤罪や婚約破棄を、衆人環視の中でされる可能性があったとしたら……。
そうね、同じ様に容赦ない報復をするでしょうね。それがマティでなく、お父様やお母様だったとしても。
わたくしの反応に満足したのか、にこーっと目尻を下げる迄の笑みを浮かべる。
「ね? だからあの二人への罰は、大袈裟でも何でも無いんだよ」
うんうんと頷き、マティは再び皿の上のクッキーを手に取り口にした。
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【32】 ※第三者視点
「バッカモーーン!!!」
トルデリーゼと第一王子の卒業パーティでの婚約破棄騒ぎの日の夜、すぐにこの国の陛下と王妃陛下、すなわちキリル王子の父親である国王陛下と母親である王妃陛下に呼び出しをされる事となり、国王陛下の大きな大きなどなり声が、王城に響き渡った。
「影から報告も受けておるぞ。お主の身勝手な行動や、トルデリーゼ候爵令嬢へ公務を丸投げしていた事などもな。その上で勝手に婚約破棄を企み、しかも冤罪までかけるとは……」
怒りに青筋をピクピクさせながらも、それでも怒りを抑えようとしているのか、額に手を当てながら体をプルプル震わせている。
隣に座っている王妃殿下、キリルの母親も深く息を吐くと、扇を開いて目を据わらせ王子を見つめた。
「全く……トルデリーゼ嬢は王妃教育があるから、学園は三学年に上がってもら夏前に早めに単位を取得して卒業をし、以降は学園には通ってないでしょう? アナタは何を見てきていたの?」
「は、母上……」
言うまでもなく、ベルツ男爵令嬢とイチャコラしているだけであり、トルデリーゼに会う気が無かったキリルはトルデリーゼと会わない事になんの違和感を抱かなかったし、寧ろ姿が目に入らなくてせいせいしていた位だ。
「そこまで会わないなら、学園にいないと思わんのか。何でそんな状態で、件の男爵令嬢の言葉を鵜呑みに出来るのだお前は」
「父上……! し、しかし」
「しかしもカカシもない。トルデリーゼ嬢が王妃としてキリルを支えると、そう言ってずっと王妃教育を頑張って来てくれていたと言うのに……お前もフラフラしてはいるが、そんなトルデリーゼ嬢を見て、きちんと王たる者の意識を持ってくれると、そう思っていただけに……今回の件は心底失望したぞ。キリルよ」
いつもは多少の事であれば、諌める言葉はあれども、それ以上はキツく叱らないで来ていた国王が、聞いたこともない低さの声で呟くその言葉に。キリルはここに来て、自分は取り返しの付かない事を仕出かしたのかと、ようやく気が付く事になった。
最も、今頃気が付いた所で、全ては手遅れでしか無いのだが。
「お前には、国の王たる器は無い。立太子は取り消し、次男であるシュテファンに譲る事とする」
「お、お待ちください、父上!! シュテファンなんかに任せては……!」
「シュテファンはお前の三つ下だが、王家たる自覚を持ち、日々勤しんでおる。知らんのか、最近はお前の代わりに、視察に赴き外交もやっておるぞ」
「なん……ですって……」
「お前と違い、婚約者であるアデリナ・エーデルシュタイン嬢を大切にし、仲も睦まじいしの……。とはいえ、ルントシュテット家にも、エーデルシュタイン家にも、改めて儂から謝罪の場を設けねばだがな……」
こうなった以上、キリルを後継ぎとするのは、国民の反感を買うと判断した国王は、バッサリとキリルを切り捨てる事とした。
ここ最近、シュテファンもエーデルシュタイン侯爵令嬢も、より強く勉学に勤しんでいたとは聞いていたが、キリルを見て思う所があったのかもしれない。いわゆる反面教師と言うやつだろうか。
聡い子であったなと思いつつ、シュテファンが立太子となる事で、改めてシュテファンにはきちんと帝王学を、王太子妃殿下となる事になるエーデルシュタイン侯爵令嬢には、王太子妃教育をさせねばならない事には申し訳ないと思い、国王は一つ息を吐いた。
「キリル、お前には辺境にて、その甘え腐った性根を鍛え直してこい。向こうで何かしらの手柄を立てるまでは、王都に足を踏み入れる事は出来ないと思え」
「そ、んな……! 父上!! どうかお考え直しを……!!」
「辺境伯は、騎士道に厳しい奴だ。儂やルントシュテットの学生時代からの旧友でもある。厳しく躾けて貰うように頼んでおいてやる」
剣の稽古をサボっていたキリルにとって、辺境での騎士など、死を宣告された様なものだ。
キリルが、どんなに撤回を求めても、国王は首を縦に振ることはなく、キリルは翌日の昼には、辺境伯領へと、強制的に向かわされる事となった。
キリルが立太子を取り消され、辺境伯領へと送られた事は、一面の記事として王都を賑わせた。
そして、新たに立太子されたシュテファン殿下を国民が暖かく迎え入れたのは翌日の話である。
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