第4話 まだ、こわいけど
夜風が少しだけ強くなった。
遥は、駿のまっすぐな瞳から目をそらせなかった。
「──遥!」
その一言に込められた想いが、胸に直接届いていた。
今までの誰よりも、まっすぐで、やさしくて。
信じたくなる。信じたい。
でも...
「……ありがとう」
遥はゆっくりと口を開いた。
震えそうな声を、何とか押し殺すようにして。
「駿さんの気持ち、すごくうれしかった。こんなふうに、ちゃんと向き合ってくれる人……はじめてかもしれない」
駿は微笑んで、小さくうなずいた。
急かすことも、言葉を重ねることもせず、ただ見守っている。
だからこそ、遥は言わなきゃと思った。
「でも……今すぐに、ちゃんと“好き”って言える自信が、まだなくて……ごめんなさい」
「ううん、謝らないで。正直に言ってくれてありがとう」
駿の声は、少しも責めていなかった。
それが、逆に泣きたくなるほど、あたたかかった。
「私……昔、ひどく裏切られたことがあって」
「……うん」
「また傷つくのが怖いって、どこかでまだ思ってる。駿さんにそんなつもりないってわかってるのに、心が勝手に……ブレーキかけちゃうの」
その言葉に、駿はそっと視線を落とした。
そして、静かに言った。
「それでも、俺は待つよ。遥が“怖くなくなる日”が来るなら、その日まで、ちゃんと隣にいる」
遥は目を潤ませながら、笑った。
小さく、でも確かに笑ってうなずいた。
「……ありがとう、駿さん」
「“駿”でいいよ。呼んでくれたら、またちょっと嬉しくなるから」
「……じゃあ、次、頑張ってみる」
その夜、二人は付き合ってはいなかった。
でも確かに、心の距離は近づいていた。
一歩ずつでいい。
遥の中に、そんな想いが静かに芽生えはじめていた。




