7:提示されるもの
カフェでのひとときを楽しんだ後、リリナとアレクシスは再び町の通りに出た。カフェの中の静けさとは対照的に、外では市場の活気が戻り、人々が行き交い、さまざまな商品を売り買いしている。リリナはカフェで飲んだ魔法ティーのおかげで、心も身体も軽やかだった。
「ねえ、アレク、もう少しこの町を見て回りたいな。ほかに何か面白いものがあるかもしれないし……」
リリナの目は好奇心で輝いていた。アレクシスは少し驚いたように彼女を見つめたが、すぐに微笑んでうなずいた。
「いいよ。君がそうしたいなら、もう少し探検しようか。今日は君の初めての町歩きだし、いろんなことを知ってほしい。」
アレクシスの言葉に、リリナは嬉しそうに頷いた。
二人が歩いていくと、通りの向こうに賑やかな集まりが見えた。近づいてみると、それは大きな露店だった。そこには、魔法で作られたさまざまなアイテムが並べられており、リリナは思わず足を止めた。
「これ、全部魔法で作られてるの……?」
リリナは目を丸くして商品を眺めた。透明なガラスのような器は、中に淡い光が揺れており、まるで星空が閉じ込められているかのようだ。別の棚には、小さな動物の形をしたランプが並び、それぞれが微かに光を放っている。
「見て、アレク。これ、すごくかわいい!」
リリナは興奮気味にランプを手に取った。その瞬間、ランプの中の光がパッと明るくなり、リリナの手の中で輝いた。
「わぁ!すごい……!」
「そのランプは、持ち主の気分に応じて光が変わるんだよ。嬉しい時は明るく、落ち込んでいる時は淡くなる。感情に応じて変化する魔法だ。」
アレクシスが説明すると、リリナは感嘆の声を上げた。
「魔法って本当に不思議……こんな素敵なものが普通にあるなんて、日本では考えられない……」
リリナは心の中で前世を思い返しながら、今自分が立っているこの異世界がいかに特別な場所であるかを再確認していた。
その後、リリナたちはさらに町を歩き、様々な店を訪れた。宝石店や魔法具専門店、古書店など、彼女の興味を引く場所が次々に現れた。彼女はそのすべてを目を輝かせて見て回り、まるで冒険をしているかのような気分になっていた。
「リリナ、君がこんなに興奮している姿を見るのは久しぶりだな。」
アレクシスは笑いながら、妹の楽しそうな姿を見守っていた。
「だって、こんなにたくさんの面白いものがあるんだもん!もう、全部見たくて仕方ないよ!」
リリナは目を輝かせ、まだまだ見て回りたいという気持ちを抑えきれなかった。
その時、ふいにリリナの目に入ったのは、通りの端にある小さな店だった。他の店よりも少し古びた外観で、扉には木製の看板がかかっていた。「フォーチュン・ウィスパー」と書かれたその看板には、小さな鈴が彫り込まれていた。
「なんだろう、あの店……?」
リリナは自然とその店に引き寄せられるように歩き始めた。
「リリナ、あの店に興味があるのかい?」
アレクシスが後ろから声をかけたが、リリナは彼に答える前に店の前に到着していた。彼女はそっと扉を押し開け、中を覗き込んだ。
店内は小さく、薄暗かった。天井からは低く吊るされたランプが優しい光を放ち、棚には古い書物や謎めいたアイテムが並んでいた。店の奥には、一人の老婦人が座っており、穏やかな笑みを浮かべてリリナを見つめていた。
「いらっしゃい……お嬢さん。今日は何をお探しですか?」
リリナはその言葉に驚き、少し戸惑いながらも前に進んだ。店の中の不思議な雰囲気に圧倒されつつも、彼女は何か引き寄せられるものを感じていた。
「特に何かを探しているわけではないんですけど……この店に、なんだか惹かれて……」
リリナがそう答えると、老婦人はにこやかに頷いた。
「それでいいんですよ。私の店に訪れる方は、皆さん何かを求めて来られます。時には、無意識にでも……ね。」
老婦人はゆっくりと立ち上がり、リリナの方に歩み寄った。
「お嬢さん、あなたには……特別な運命が待っていますね。」
「……え?」
リリナは不思議そうに老婦人を見つめた。
「あなたの未来には、たくさんの道が用意されています。どれを選ぶかは、あなた次第。ですが、きっとあなたは人々を助ける存在になるでしょう。」
その言葉を聞いた瞬間、リリナの胸の中にかすかに何かが引っかかった。
──人を助ける……?
彼女は前世で医者として過ごしてきた日々を思い出し、再びその使命感が胸に広がった。
「あなたの過去は、今もあなたを導いています。でも、恐れないでください。あなたは、この世界でも人を助ける力を持っているのです。」
老婦人の言葉に、リリナは何も言えずに立ち尽くしていた。しかし、彼女の胸の中に静かに灯されたものは、確かに存在していた。
リリナが店を後にする時、彼女は自分の中に生まれた小さな決意を感じていた。この世界で何ができるのか、どう生きていくのか。まだ答えは出ていないが、少しずつその道が見えてきたような気がした。
「さぁ、帰ろうか。」
アレクシスの声で我に返り、リリナはうなずいた。彼女の新しい冒険は、まだ始まったばかりだった。