3:新たな日常の始まり
「うわぁ……!」
リリナは、大広間の豪華な食卓を前に、思わず声を上げた。目の前に並べられた数々の料理は、どれも見たこともないほど美しく、まるで絵画のように精巧に飾り付けられていた。黄金色のパン、ふわふわのスクランブルエッグ、彩り豊かな野菜の盛り合わせ──まるで宴会でも開かれるかのような豪華な朝食だった。
「えっと……これ、全部食べてもいいの……?」
リリナは、目をキラキラと輝かせながら、父親に尋ねた。彼女の父、アルノード侯爵は、笑みを浮かべながら「もちろんだ」と頷く。
「リリナ、お前はまだ子供だ。好きなだけ食べていいのだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、リリナの目はさらに輝いた。
──こんな豪華な朝食、今まで見たことない!
彼女は思わず手を伸ばし、目の前にある果物の山からひとつを取り上げた。
しかし、次の瞬間――
「リリナ様、お待ちください!」
メイドのセリアが、さっと駆け寄ってきて、リリナの手元にスプーンを差し出した。
「その果物は魔法で強化されておりますので、直接手で触れると危険です。まずはスプーンで少しずつお召し上がりください。」
「あ、そうなの?!」
リリナは慌ててスプーンを握りしめ、少し困惑した表情を浮かべた。
──まさか、果物にまで魔法が……?
彼女は内心で驚きながらも、言われた通りにスプーンを使い、果物を口に運んだ。甘くてジューシーな果物の味が口いっぱいに広がり、思わず頬が緩む。
「……おいしい……!」
彼女は笑顔を浮かべながら、再び食事に集中し始めた。けれども、心の中ではいくつもの疑問が浮かんでいた。
──この世界の魔法って、本当にどこにでも使われてるんだ……。果物にさえ魔法が……すごい……!
その時、彼女の母親が静かに口を開いた。
「リリナ、今日はお兄様と一緒に馬術の練習をする予定です。お城の庭で準備が整っていますから、食事が終わったら行ってらっしゃい。」
「えっ、馬術!?わたしが……?」
リリナは驚きの声を上げた。馬なんて、日本では動物園でしか見たことがないし、ましてや乗るなんて考えたこともなかった。──どうしよう、どうしよう! 彼女は内心で焦りながら、頭の中で次々に不安が募っていく。
──こんな貴族っぽいこと、わたしにできるのかな……?
ふと、前世の自分が蘇る。日本では忙しさに追われる毎日、乗馬なんて優雅な趣味とは無縁だった自分を思い出し、リリナは頭を抱えた。
「……馬、乗ったことない……」
彼女は小さな声で呟きながら、困惑した表情を浮かべる。これから始まる異世界の貴族生活は、彼女にとって未知の冒険だ。だけど、そんな不安を抱えながらも、リリナは微かな期待を抱いていた。
──もしかしたら、この世界ではわたしももっと立派になれるかもしれない……?
その後、食事を終えたリリナは、城の庭へと向かうことにした。広大な庭園には美しい花々が咲き乱れ、空は青く澄んでいる。彼女は、青々とした芝生の上をゆっくりと歩きながら、周囲の景色を見渡していた。
ふいに、白く輝く優雅な姿の馬が目に入った。リリナはその美しさに息を呑む。
「うわ……すごい……!」
彼女は馬にゆっくりと近づき、目を輝かせながらその背中を見上げた。しかし、次の瞬間――
「リリナ様、もし乗馬にご不安があれば、補助魔法をお使いになりますか?」
いとこのジェラルドが、にこやかに声をかけてきた。彼は薄い金髪をさらりと靡かせ、優雅な笑顔を浮かべていた。
「えっ、補助魔法?」
リリナはジェラルドの提案に一瞬驚いたが、すぐに頷いた。
「……うん、お願い!」
ジェラルドは小さく笑い、手を掲げて魔法の呪文を唱え始めた。彼の指先から淡い光が溢れ出し、それがリリナの身体を優しく包み込んだ。
「これで安心だよ、リリナ。最初は誰でも怖いからね。」
彼の言葉に励まされ、リリナはゆっくりと馬に乗り込んだ。彼女の心臓はドキドキと高鳴っていたが、身体は不思議と軽く、魔法の力によって安定していることを感じた。
馬術の練習が終わる頃には、リリナの顔には笑顔が広がっていた。馬に乗ることは最初こそ怖かったが、ジェラルドの助けと魔法のおかげで、楽しむ余裕が生まれてきた。
彼女はふと、前世での忙しさを思い出し、この新しい生活がいかに自由で楽しいかを感じた。
──この世界での生活は、わたしにとって新しい冒険だ……!