サンソン牧師、シャルルの生誕の地に降り立つ
サンソン神父はシャルルが生まれた地に向かう。
荷馬車の従者に「ほら、あそこの森の中に村があるんだ」と言われて、森を見る。森と言うより林のように見える。
「ここら辺では治癒の森さ。この森にいた聖霊が子どもの病を治したとおとぎ話で言われているんだ。まあ、万病に効くヨフギが大量に生えるから、そう言われているんだろうけど」
「ここら辺ではヨフギを大量に栽培をしていたんでしょうか?」
「よく知っているな。この地のヨフギは最高級品と言われているから、大量に栽培しようと、ここを治めていた貴族は考えたんだけどな……」
「あまり売れなかった」
「そうだな。ヨフギに頼らなくても医療は大きく発展していたし、あまり使わなくなったからな。この葉も」
「多分、それだけではないでしょうね」
「ん? 他にも理由はあるってんのかい? 神父さん」
「小麦のように平地で栽培しても、恐らく良く育たないでしょう。ヨフギは森の奥深くでひっそりと育ちます。つまり暗いところで無いとうまく育たないのでしょう」
小ぶりで生育の悪そうな薄緑色のヨフギを見ながらサンソン神父は従者に話す。それを聞いて従者は「知らなかった」と呟いた。
「あんまり悪口を言ってはいけないんだけど、ここを治めていた前の当主はいろんなことをやって失敗ばっかりしていたんですよ」
「その方はレッティアさんでしょうか?」
「ええ、そうです。どこかの貴族がこの商売を成功させたから真似ると言った感じで、手広く商売していたんですよ。平民の人間でもヤバいって分かるのに……」
「そのレッティアさん、亡くなられたんですよね。階段から突き飛ばされて」
「ええ、そうです。今は息子さんがここの領地を守っています。と言っても、ほとんど来ないのですが……」
しばらく従者とサンソン神父は話さず、カポカポと馬の足音だけが聞こえるだけだった。
やがて森の中の村へと入って行った。
「ほう、結構暗いですね」
サンソン神父が驚くくらい森の中は静かで暗かった。春の陽気を隠すように木々が空を覆い隠しているので、肌寒かった。童話に出てくるような森の中の村なのに、どうしようもなく陰鬱な気持ちになって行くとサンソン神父は思った。
思わずサンソン神父がもう一度、「暗いですね」と呟くと、従者は陰鬱な表情で「これでもマシになった方ですよ」と返した。
「昔はもっと深い森の中にあったんですが、あのヨフギ栽培をするために森を切ったんですよ。だけど森の中でも高級なヨフギも手に入らなくなってしまった。多分、森を切ってはいけなかったんでしょうね」
「なるほど」
「もう間もなく着きます」
そう言うと森が開けて、小規模な村が現れた。
そうして従者は「ようこそ、治癒の森へ」と力なく言った。