シャルル、まだ過去の夢を見ている
病気が治って私は家に戻された時、新しいお母さんと私と一つ年下の妹 ノアがいた。どういう風の吹き回しで後妻を迎えたのか父の気持ちは一切わからなかった。兄が言うには私の病気が分からなかったのは、誰も私達を見る人間が居なかったから新しい母親を連れてきたと話していた。つまり私の体調管理が出来ないから来たんだとも言っていた。
新しい母親には子供もいて、私と腹違いの妹だと兄から教えてくれた。
元々、新しい母親は父の愛人だったようで私の母が亡くなった時、籍を入れようと考えていたのだが貴族じゃないと言う理由で断っていたらしい。
だが妹が生まれているって事は縁を切らずに、援助をし続けていたって事だろう。
父に愛人がいたことを私は知らなかったが、兄は知っていて籍を入れる前からあっていたようだ。
母親と腹違いの妹が来ていたが、私以上に家族と馴染んでいた。そして私の事は相変わらず誰も見てくれなかった。
いや、頑張って私も家族に馴染もうと思ったんだ。いつも以上に新しい母親へ話しかけていたのだが、全員が無関心だった。私を見る目で思うのだ、どうしてお前がここにいるんだ? と。
そう言う空気に耐えられず、私は結局打ち解けるのをやめた。そして自宅の屋敷近くにある教会によく行くようになった。写本をするためだ。
教会を取り仕切っているイグニ牧師やシスター達には随分とお世話になった。写本をする本の貸し出しどころか、専用の部屋も貸してくれた。それに応えようと私が写本をしたものはすべて教会に寄付をしていった。それからよく飴をもらっていた。これは教会に来た人達に渡していたけど、私にだけは多くもらっていたと思う。
私が家の中で孤立していった一方で、腹違いの妹 ノアは存在感を増していった。
「お兄様! お菓子が焼きあがりました!」
表情の乏しい私と比べるまでもなく、ノアはいつもニコニコと笑い表情をコロコロと変えていく。子供らしい子供と言う印象が強い。
楽しそうに笑う彼女の中心はいつも華やかで幸せそうだった。まるで本当の家族のように見えた。
だけどノアはなぜか私に対して敵愾心があった。家族から言われていたのだろうか? 私と関わるなとか。人がいる時は愛想の良い感じで私と会話をするが、誰もいない時は無視をする。
敵愾心を持つのは別によかったのだが、私がやっていない事を言っていない事を言うのをかなり困った。
「シャルル! お前、ノアに本当の家族じゃないって言ったそうだな?」
兄が血相変えて私の部屋に入ってきて、無理やり決めつけてきた。私が否定しても、兄も父は信じなかった。
「お前はノアに嫉妬しているんだろう?」
「お前とノアは違うんだ! 母親を殺したお前とは!」
「もう俺達に関わろうとするな!」
やってもいない事を言われて糾弾される私はこの家が嫌になってきてしまった。だから父に修道院に入れてほしいと頼んだが、許してくれなかった。
歩み寄る前に全員が私を拒否する。
嫌気がさして益々、教会で写本をする日々を過ごしていた。
そして私が十六歳になった時、あの事件が起こった。
その日も写本をしていたが集中が出来なくなり、水を飲もうと部屋を出た。私の部屋は二階でキッチンは一階だった。
階段を降りようとした時、階段下に父が倒れていた。
私が驚き「お父様?」と駆け寄ろうとした時、ノアの悲鳴が轟いた。
「いやあああああ! シャルルお姉さまがお父様を突き落とした!」