シャルルのプロローグ
最後の、ようやく最後の行までついた。緊張が抜けそうになるのをこらえて、潰れかけた羽ペンの先を斜めに切る。これで書き味も良くなるだろう。
随分と夜更かしをしてしまった。またアンリに怒られるだろう。だがこの一行を書けば終わりだ。
最後の行を魔法の羽ペンをインクで付けて書きだす。ついにここまで来たんだ。これを書き終われれば……。
無罪が確定する、そう思って最後の行を書き終えた。
書き終わった羊皮紙をすべてまとめる。三百枚くらいあるので結構な厚さがあり、重みもある。これだけ私は書いたのだと思うと誇りと達成感が出てくる。
それを仮糸で綴る部分を縫って行く。
すべてを縫い終わって、羊皮紙の束に手を置く。
すると羊皮紙が輝きだした。良かった、成功している。いや、当然だ。私は清廉潔白の罪を犯していない人間だ。だからこの【法の書】の魔導書が完成できるに決まっている。だけどこうして成功をしているというのを見るとホッとする。
輝く羊皮紙に「写本者 シャルル」と呟くと輝きは失う。だが三百枚書いた羊皮紙一枚一枚には薄く魔力で【シャルル】名前が刻まれている。
そう、私はシャルル。前は貴族で下には家名があった。だけど勘当されて、ただのシャルルだ。
私は【法の書】を眺める。
聖なる書を写本すれば、罪が償われる。文字一つ一つに罪を消す力がある。その言葉を信じて書いてきた。
だけど、この書を写本していた時は償いなどなかった。
自分の無罪を証明するため。
ただ、それだけだった。
そう思った瞬間、私は床に倒れた。緊張の糸が切れたんだ。それから魔力も切れているだろう。まあ、いいか……。
私は目を閉じる。