5
しばらくして、転校することになった。
学年が上がるタイミングでちょうどいいとお母さんは言ったけれど、何がいいのか本当にわからない。
転校したって、僕の気持ちも、いじめられた過去も変わるわけじゃない。
そして、アイツらから逃げられるわけでもなかった。
夢に出てくる。
嫌なほど追ってきて、苦しいほどに追い詰める。
そんな、夢。
大事なものを奪われて、苦しい、助けて。で終わる夢。
ただただ苦しい夢が僕の心を何回もえぐる。
死にたいな、と思ったのも一回だけではなかった。
そんな、ネガティブな日々を送っていたとき、ユメミライからお知らせが届いた。
それは面接、第三審査と続く審査のお知らせだった。
面接は一人で行かなきゃいけないこと。
第三審査は2日間続くこと。
その他必要事項が淡々と述べられたプリントだった。
そして、お詫びの手紙も入っていた。
ツユキさんへ
この度は申し訳ありませんでした。
まさかいじめで出された書類だとは思わず、審査を通してしまったこと、深くお詫び申し上げます。
ですが、書類に書かれた「歌い手が大好き」だということと「クラスでは静かなほう」というのは誇るべきことでもあると思いますし、実際歌い手やアイドルになるにはその職業を「大好き」であったほうが良いし、「静かなほう」というのも個性が出ていて素晴らしいと思います。
もし、面接が嫌ならば来なくていいです。
でも、挑戦したらツユキさんの素晴らしい部分を認めてくれるファンの皆様、およびこれからメンバーになる皆様がいるはずです。
挑戦してみませんか。
ユメミライ始動プロジェクトリーダー、音瀬詩月
別に、挑戦しないわけではなかった。
こんな手紙をもらいたいわけでも。
自分自身で決めていくことだと思っていたし、始動グループが謝ることでもない。
でも。
嬉しかった。僕を認めてくれるメンバーやファンができるかもしれないことが。
挑戦して見る価値がある。
そう思って改めて挑戦することに決めた。
それを決めたら早かった。
すぐに面接の日が来て、合格して、第三審査の日まで来てしまった。
1日目は、ひとりぼっちだった。
周りが少しづつグループ化していく中、一人というのはひどく寂しい。
でも、コミュ障の僕が喋りかけれるわけでも、逆に話してくれるわけでもなかった。
こんなんじゃ、誰も認めてくれてないのと一緒だと思った。
結局は見つけてもらえないのだから。