島津の偉丈夫
第5話。暴走する馬にまたがり、ユーリは鹿児島の絶景の中、駆けていく!
誰か止めてくれる人はいないのか?!
ブルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!
俺以上に感情的になった黒鹿毛は、手綱を思いっきり引っ張っても全然止まらず、俺は振り落とされないようにしがみつくしかなかった。
パカッパカッパカッパカッ!!!
止めるのを諦めて、俺は辺りを見回す。関東生まれ関東育ちだから、鹿児島県は初めてだ。目の前には小さな山脈が連なっている。遠く見える景色のどこかに、桜島もあるんだろうか。
大地は黒々としていて、場所によっては灰色だ。火山灰が堆積しているのかもしれない。
ふぅー。
動揺はしたが、初めて乗る馬は、なんか気持ちがいいな。
青空の下に広がるこの壮大な大自然は、まったく見覚えはないが、辺りに生えている草木を見て、心が感じている。
――帰ってきたんだな、日本に。
日本の草木、日本の大地、日本の空気。死んでから20年ぶりに感じている。
――いいな。これで温泉に入れりゃ最高なんだけどな。
「わい!待ちやんせ!!!!!」
大地が震えるような大声がした。声でわかる。戦国武将の、かなり強い人の声に違いない。
雷のようなよく通る大声の主は、俺の後方にいる。
手綱をよく握りながら、おそるおそる振り返ると、眉毛のごく太い和服?の偉丈夫が、俺の乗る馬よりも一回り大きな立派な黒毛の馬を駆け、槍を携えて追ってきた。生のサムライだ!ちょんまげ!!!
「わいはバテレンじゃな!?ないごて馬を駆くっ!?止まりやんせ!!!!!!!!」
方言のなまりがきついが、大声のおかげで聞き取れた。お前バテレンだな、止まれ。と言った気がする。
「助けてください!!馬が勝手に走っちゃってるんです!止まりたいけど止まらなくて!!」
日本人相手なので、日本語で叫ぶと、偉丈夫が驚いた。
「ほぁ~たまがった!わい、こっちん言葉が話せっとな?わかった。おいが助けてやっ!」
筋骨隆々とした偉丈夫が、ウィヤァアア!!!と吼えると、黒い巨馬は、俺と黒鹿毛を全速力で追い越した。
ええ?
俺がびっくりしていると、だいぶ距離を取ったところで、サムライは馬から飛び降り、俺達の進行方向に立ちふさがった。
「ええええええええええええええ!!!!!危ないって!!!はねちゃうはねちゃう!!!!」
俺が絶叫すると、豪快に偉丈夫は笑う。
「心配すっなぁあああ!!!!!おいは馬ん扱いは慣れちょい!!!!」
「噓でしょおおおおおどいてええええ!!!!!!!」
「こんがんたれえええええ!!!!!!!!!!!!!止まらんにゃ殺して食うてやっど!!!!!」
偉丈夫は、そう咆哮すると、槍を構えて、こちらを睨みつけた。
凄い。
一瞬で殺気が届いてきた。この人と戦ったら殺される。
俺のいた日本に、こんな怖い人いなかった。これが日本の侍か。
黒鹿毛も感じ取ったのか、鼻先が偉丈夫にぶつかるかぶつからないか寸前で急停止した。
そして、サムライを自分より上と認めたのか、深々と頭を下げる。
「うん。おじがらせて悪かったな。よしよし、むぜぇ子じゃ」
黒鹿毛が偉丈夫にすり寄り、頭を撫でてやる。
「助けてくれてありがとうございました!あの、あなたは?」
「おいは島津義弘。領主・義久ん弟じゃ」
「シマヅヨシヒロ?え?島津義弘さんですか!?戦国大名の!?」
つまり薩摩(鹿児島)のトップじゃね!?領主って聞こえたけど、ん?義久んおとっじょ?ん?わかんない!!
「はっはっはっはっはっ!おもしてかバテレンじゃな!こっちん言葉を流暢に話せっなんて。興味がわいてきた。少し、おいんお気に入りん場所に行きもはんか?」
「お気に入りの場所?」
「ここを五里ほど北上していっと、『伊作温泉』ちゅう、おい達が隠しちょっ温泉があっど」
「え」
え。今、何て。
「今、温泉て?」
「ああ、申し訳なか。バテレンは温泉を知らんなあ?温泉ちゅ~たぁ……」
「行きたいです温泉!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
死んでも行きたかったんです!!温泉!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
後世『鬼島津』と称される豪傑・島津義弘!彼との出会いにより、ユーリはいよいよ念願の温泉へ!?
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