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クリスマスイブに神は子羊を救済します

俺は江原(えはら)友貴(ともたか)。29歳彼女なし。ブラック企業の営業職を4年続けている社畜サラリーマンです。

突然ですが、あれは大雪警報が出た2023年の12月24日の夜のことでした。

労働基準法を知らない弊社の無能上司の命令で、この日は地獄の61連勤目。

おかげでこの日、オレは路上でぶっ倒れました。

――恋人はトナカイ~

――クリスマスが今宵もまいります~

――雪はお昼過ぎに雨へと変わるだろうWowwow~

ぐるぐるする頭の中、カオスなクリスマスソングが流れています。

いいよな、世間は幸せいっぱいのクリスマスイブ。

神様、ここに不幸な子羊がいますよ。助けてください。

しんしんと降り積もる雪を払う力もなく、俺の身体からはどんどん体温が抜けていきました。

寒いな。寒い。寒くてつらい。寒すぎる。さぶい。さみぃ。寒さで感覚が。

起き上がらない俺を助ける神様も通行人もいなかった。

ま、クリスマスイブだもんな。みんな恋人と楽しい夜を過ごしてるに決まってる。

眠いな。

あー。まじ眠くなってきた。

うん。このまま寝ちゃうか。

風邪ひいてもいいや。

寝て、ちょっとでも体力回復したらコンビニによって酒でも買おう。

はぁ。

身体全体が眠りにつこうとしている。寒いのは変わらない。

そうだ、会社辞めよう。退職代行でも使おう。

そしたら温泉に行きたいなぁ。

いつか行こうと思って本屋で買った、「この日本の名湯がすごい!」みたいな旅行ガイドブックのことを思い出した。

温泉いいよなぁ。

温かいし、生きてるって実感が沸くっていうか。

そうだ、会社を辞めたら、まず温泉に行こう。日本全国、温泉巡り。最高じゃん。

――温かい湯船に浸かって、うまい酒飲んで、幸せな時間を過ごすんだ。


うん。それがいいや。


2023年、23時59分。俺は真っ白い雪の中で永遠の眠りについた。


*************************************


神様いねえのかよ!!!!!!!!!!!!!!!!


死んじゃったんだ俺!かわいそすぎだろ俺!!


そう思った矢先、目の前に大きなルーレットが現れた。そこには「過去(外国)」「過去(日本)」「現代やりなおし」「未来」「異世界」など、いくつかのマス目があり、真ん中には≪転生≫という文字がピカピカと、LEDライトで光っていた。


「なんだこれ?」

「今カラ、江原君ノ転生先ヲ決メルンダヨ!!!」

「うそ!???」


目の前には、イバラの冠を頭につけた、十字架を背負った外国人のイケメンおじさん。立派なあごひげと、凛々しい眉毛。女性のように長い髪をしたそのイケオジを、俺は、いや世界中の人は知っている。



「もしかしてキリs」

「YES!!!!」


食い気味に返事をされた。すげえ、神様of神様じゃん。


「なんでイエ、いや神様が?てか、なんでルーレット?」

「江原君サッキ言ッテタジャン、助ケテッテ。ダカラ、救済措置ヨ」

「いやいや!!それなら遅いです!もう死にました!」

「江原君、ウチハ死後ニ救済スル系ノ宗教ヨ?チナミニ仏教ノ救済ダッタラ、転生デキナイカラネ?」

「すみません、自分宗教まったく詳しくなくて」

「神様ノ前デ、ソレ言ウ!?マジウケルネ笑 江原君正直者ダカラ、神ハ赦シマス」

「さすがの神対応!!で、なんでルーレットなんです?」

「悪い、片言めんどいから日本語吹き替え版にするな?(CV.大塚明夫)」

「そんなことできるんですか!?」

「俺、神だから」

「流石っす!声渋いっす!!」

「で、なんでルーレットか?だったな。ルーレットは完全に趣味だ」

「まさかの!」

「今から江原君には、ダーツを投げてもらう。ルーレットの刺さったマスが、君の転生先だ」

「え!」


改めてじっくりルーレットのマス目を見る。

「過去(外国)」「過去(日本)」「現代やりなおし」「未来」「異世界」「虫」「パジェロ」「たわし」


「絶対に嫌な選択肢がいくつかあるんですけど!」

「言っとくけど、そこはガチでいくから。神はいつでも試練を与えるから」

「俺の次の人生がかかってるんですよ!」


どこからともなく、天使たちが現れて、パ・ジェ・ロ!パ・ジェ・ロ!と騒ぎ出す。ちなみにわからない人に説明しておくと、パジェロというのは、乗り心地抜群の高級国産車だ。


ふぅ~。


呼吸をととのえる。


目の前では高速回転するルーレット。まわりには応援なのか、人の不幸を願ってるのかわからない天使たちとイケオジジーザスおじさん。


うっし。

やるしかない。

自分を信じて、俺はダーツを思いっきり投げた。


――どうせなら、死に際に夢見た、温かい温泉に浸かれる人生をこの手に!


ブスッ!!!




「OH!運命だな江原君!」

「え?」


ダーツが刺さったのは。






「過去(外国)」だった。







「うそでしょ!?海外ってこと!?」

「ん~、せっかくだし、次の人生は俺のことをもっと勉強して、他の人にも広めてみてくれ」

「はい?」


そう言うと、神であるイケオジは僕の手をぎゅっと掴んだ。


「迷える江原君、新たな世界で幸せな人生を送りなさい。俺はずっと見ているぞ。ジーザスパワー!!解・放・☆!!!」


神の言葉と共に、俺は一本の光となり、この世の物理法則を無視して、過去へ転生したのでした。


――温泉入れないじゃ―――――――――ん!!!!!!


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