◇98 爆速で謎解き
Nightの異常性を垣間見ましょう。
「この石柱、なにかな?」
「謎解きってことは、解くしかないってこと?」
「それは任意だろ。とは言え……ん?」
Nightは石柱に触れた。とりあえず調べようとした。
けれど触れた瞬間に異変が起きる。
石柱が眩く輝き出すと、ポワンとメッセージが宙に表示される。
〔副賞GETチャンス!:暗号を解け〕
難易度:X 挑戦回数:1回 制限時間:10秒
——制限時間内に石柱の暗号を解け。最初に解いたプレイヤー1名に副賞を与える——
「なるほど、そう言うことか」
あまりにも簡潔かつシンプルな説明だった。
私達はポカンとする中、Nightだけは笑みを浮かべる。
「なにこれ、難易度Xだよ?」
「あはは、解けるかなー?」
「解けるかどうかは知らない。とは言え、一つだけ分かっていることがある」
「「分かっていることって?」-?」
私達はNightの言葉に耳を傾けた。
首を捻ると、Nightは当たり前のことをさもカッコつけて答えた。
「解けばいいんだ。解けば誰も文句は言わない」
「「それが無理なんだよ!」-!」
私もフェルノもNightに怒りを向けた。
剥き出しにした刃は否応なくNightを襲う。
もちろん、Nightはそんなことじゃ動じない。
淡々と笑みを浮かべ、石柱に触れた。ヒントを探しているみたいだ。
「とりあえずヒントは無さそうだな」
「ヒント無し?」
「少し待て、ネットで情報を漁る」
Nightはゲーム内からインターネットにアクセスした。
広大な海を一人で航海する。
ドンドン深みに嵌っていき、無限の電子海をさすらってみる。
「解けるかな?」
「解けるでしょ、Nightなら」
「私もそう思うけど、流石にヒントが無いとね」
「うんうん、多分ね。でも、ヒント無しで解いたら化物だよね。異常だよね。多分、テレビとか出れないよねー」
「Nightはバラエティに出る性格じゃないと思うけど」
私とフェルノは勝手なことを言った。
もしも、もしもの話だ。ヒントも無しにこんな謎解きを成功させたら、単純にインチキだとかやらせを疑われる。
もちろんそんなこと無くても、演者もスタッフもみんなドン引きだ。
最悪の空気になると予想ができてしまう、そんな想像を働かせて待っていると、電子の海からNightは帰って来る。
「どうだった、Night?」
「ダメだな。そもそも石柱らしい情報が無い。恐らく、誰も発見していないもの。もしくは運営が秘匿しているもの。どちらかだろうな」
「そ、そんな」
それじゃあヒント無しでこの謎を解かないといけない。
そんなのやる前から結果は見えている。
絶対に解ける訳が無い。なにせ何を解くとか、何をするとか、全く書いていない。
ルールも分からないし、目的も分からない。何もしない訳にも行かず、謎だけが延々と膨らむ。
「とりあえず分かっていることは、天板に飲み仕掛けがあると言うことだ」
「天板って、これ?」
「そうだ。恐らく触れた瞬間に作動するんだろうが、この右上部の球体。コレを回転させ、左下部に何らかのアクションが起きれば成功だな」
「そんなアバウトなー」
「そうだな。とは言え、解けない謎では無いだろう」
「「解けない謎だよ!」」
Nightがなんで自信あり気なのかは分からない。
私もフェルノもNightを止めるように見つめる。
しかしNightは早速なぞ解きを開始……はせず、頭の中で整える。
「とりあえず、この部分をこうして……」
「Night?」
「石柱の中を想像すると……」
「おーい」
「球体をどの角度、どの方向、どのくらいの強さで回転させれば……」
「Nightさーん、おーい」
私達はNightのパーソナルスペースに声を掛ける。
ひたすら言葉でノックするけれど、まるで反応が無い。
目を瞑ったまま自分の世界に閉じこもると、私達は孤立した。
「ダメだー。全然声が届かないよー」
「うん。これじゃあ私達がなにもできない」
「うーん、とりあえず触ってみる?」
「それいいかも。よーし、まずは私からねー。行くぞー、それっ」
暇になったから私達はぶっつけ本番で謎を解く。
まずはフェルノの挑戦。私は隣で見ていると、球体に触れた瞬間タイマーが起動した。
「は、始まったよ!」
「こういうにはとにかく回転させて……か、軽い?」
「えっ、金庫とかって重みがあるんじゃないの?」
「全然重さも音も変わらない。分かんない、分かんないよー」
フェルノは謎解きの坩堝に落ちた。
全く謎を解くことができない。フェルノはあたふたしながら球体を回し続けると、タイマーが〇になってしまった。
「あーあ、終わっちゃったー」
「ダメだったね」
「うん。もう一回……は無理かー」
「そこは規定通りなんだ」
球体をクルクル回転させてみた。けれど二回目の挑戦はできない。
律義な設定、イカサマもバグもチートも使えない。
「私も挑戦してみていいかな?」
「どうぞー」
「それじゃあやってみるね。えーっと、この球体に触って」
私は挑戦してみることにした。
フェルノには避けて貰い、球体を触って動かしてみる。
確かに軽くて重みが無い。クルクル回しても反応が無く、タイマーが進んでいく中で、ちょっと変わったことをしてみる。
「一回押してみて……あっ、押し込めた」
「嘘っ!? きっとそれが正解だよ」
「うーん、なにか導けそうだけど、この先が……あっ」
「終わっちゃったねー」
私の挑戦は中途半端に終わってしまった。
たった十秒で解ける気がしない。
私はムッとしてしまうが、再挑戦はできないので、なんだか中途半端になる。
「はぁー。後はNightだけど……」
「よし、代われ」
「「Nightさん!」」
ついにNightが動く。頭の中で謎解きが完結したのか、私達を押し退けて石柱の前に建つ。
だけど本当に解けるのだろうか? 背中からは“任せて置け”オーラは出ている。
ビシバシ私達を威圧するも、ヒントも無しにたったの十秒で解ける気がしない。
「本当に解けるのかな?」
「信じて見るしかないよ。Nightなら」
「解けたぞ」
「「早っ!?」」
私とフェルノが喋っている間にNightは石柱の謎を解いていた。
あまりにも早い。所謂あれだ、爆速って奴だ。
私達は瞬きをする間もなく、一瞬のうちに謎を解いてしまったNightを絶句し、本当に解けたのか見てみる。
「本当に解けたの?」
「左下が光ってる!? どうやったのー」
「簡単な話だ。こんなもの、ヒント無しで解けるだろ」
「「いや、解けないけど」」
私とフェルノは完全に引いていた。
もはや人間技じゃない。完全にNightが異常だ。
二歩くらい後退りとすると、Nightはまるで気にしていなかったのか、とりあえず解いた謎の解説もしない。
「それで、副賞はなんだ。ん?」
台座の天面が突然光り出す。いや、光を放出し始める。
光の柱を作り出すと、ポワポワと泡のような粒子が溢れる。
その中には金色の鍵が浮かんでおり、Nightが手を伸ばすと、鍵が手の中に収まる。
「鍵、か?」
「これが副賞?」
「一体なんの鍵なのー?」
「さぁな。それに関してはなにも書いてない」
まさかの謎の鍵を手に入れてしまった。
Nightは鍵を手にしたものの、使い道が不明だ。
私とフェルノは首を捻ると、Nightは溜息を付く。
「まあいいか」
「まあいいかって、そんな適当な」
「使い道もいずれ分かるだろ。それより今はメダル集めだ」
「まあ、それもそうだけど……」
Nightは本来の目的に戻る。
その点はあまりにも淡々としていて、判断がとても速い。
私は絶句してしまうけど、それより絶句することになった。
「アキラ、お前が持っておけ」
「持っとけって。うわぁ、おっとっと……セーフ」
「アキラ、ナイスキャッチ」
「な、ナイスじゃないよ」
Nightは鍵を放り投げる。私は滑る岩場で何とか鍵を落とさずに済むと、胸を撫で下ろす。
何とか鍵を波に攫われずに私は万が一に備え、先にインベントリに放り込む。
「ちょっとNight。突然投げないでよ」
「私が持っていても意味が無いだろ。ギルマスのお前が持っておけ」
「そんな勝手な……」
「ほら、次行くぞ次」
「Night勝手だよ」
Nightは目的意識が強かった。
謎を解いた筈の張本人が鍵に興味が無い。もしかするともう気が付いているのかもしれない。
その真偽は分からないけれど、とにかくメダル集めに戻る。
私達もそんなNightを追いかけることにした。
けれどメダルはなかなか見当たらず、結局四日目はこれでお終い。
最終日に全て持ち越しになると、私達はラストスパートを決めた。
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