◇82 新イベントの準備
今回はアキラ以外のお話。
カタカタカタカタ!
キーボードを打ち込む音が響く。
今私のいるのは社長室です。
当然私以外は誰も居ないので、孤立した空間になっていました。
「ふぅ……暇ですね」
とは言え、私を慕ってついて来てくれた部下は大変優秀です。
他会社でも通用するような一線級の腕を持っています。
そのおかげか、私の仕事はほどんどなく、少々暇を持て余しました。
「皆さん速いですからね。私の仕事は……はい」
感心していると、突然腕時計型VRドライブが鳴り出した。
誰かからの連絡だと瞬時に判断し、私は音声で応答します。
すると最近声を聞いていなかった、副社長の声が聞こえました。
「社長~!」
「お疲れさまです、耶摩さん」
通話に出たのはやはり副社長でした。
名前は倉山耶摩さん。まだ二十代ですが、私を一に慕う優秀な女性です。
「どうしましたか、耶摩さん?」
「社長、とりあえず外交は済みましたけど……」
「お疲れさまです」
「お疲れさまじゃないですよ。どうして私なんですか!」
耶摩さんは如何やら怒っているようです。
と言いますか、自分では適任ではないと思い込んでいるみたいです。
「耶摩さん、貴女の実力は高いです。それに貴女にも人を惹き付ける魅力が備わっているではないですか」
「そんなこと無いですよ。社長のカリスマ性の前には全然……それに私は、社長にお願いされただけで……」
「とは言え、選ばれたのは貴女自身なんですから。頑張ってください、総理大臣」
私は少しだけ揶揄ってしまいました。
すると耶摩さんの疲労感絶大な発狂が、私の鼓膜を突き破りそうになります。
感情的にもなれ、それでいて利己的にもなれる。状況を一変させる話術を持ち、愛されるようなキャラ。それらが合いまったからこそ、耶摩さんは総理大臣になったんです。
私は誇りに思うと、少し嬉しくなる一方で、期待も大きく膨らみました。
「ところで、耶摩さんの愚痴はこれで終わりですか?」
「ぐ、愚痴じゃないですよ。本当に伝えたかったのは、新しい企画案です」
「企画案? うちはノルマ義務はありませんが?」
「そうじゃないですよ。この間、少し時間があったのでCUにログインして見たところ、金銭面で苦労しているプレイヤーが多くいたので、新しくイベントを考えてみました。時間が無かったので、簡潔なものになりますが、企画書を送りますね」
耶摩さんは仕事も早いのです。
すぐに企画書がVRドライブを通して送られると、私も時間効率優先で、企画書を一気読みました。
掛った時間は物の一分。
全ての情報を脳内処理すると、企画書を閉じます。
「ど、どうでしょうか?」
「いいですね、耶摩さん。もう少し、内容を詰め次第、実行してみましょうか」
「そ、即答ですか!?」
「ええ。なにか問題はありましたか?」
私は素晴らしい企画書にこれ以上の言葉は不要でした。
しかし当の本人は意外に思ったらしい。
そのせいか、少しだけ間を置くと、覇気のある声を出しました。
「ありがとうございます。お願いします!」
「こちらこそありがとうございます。それと耶摩さん」
「は、はい?」
「あまり無理をしないように。心身共に休めてくださいね。貴女も、私の大切な友人なのですから」
「……は、はい! 失礼します」
耶摩さんとの通話が切れてしまいました。
何か粗相をしてしまったのでしょうか?
耶摩さんの態度の急激な変化に驚きつつ、改めて企画書を読み直しました。
「この企画書、新イベントですか。これは面白くなりそうですね。早速、告知をしておきましょうか」
私の頭の中では既に想定が組まれていた。
故に、まだ企画段階で合っても、公式HPに載せる価値がある。
そう思った私は好奇心を刺激されると、新しい可能性に、胸を昂らせました。
カタカタカタカタ!
キーを打ち込む音が広い部屋に響いた。
真っ暗闇にした部屋で、私は一人、パソコンのディスプレイと向き合う。
「なにか無いだろうか?」
二つのキーボードと四つのディスプレイ。
それらを四つに分割した思考で巧みに使いこなしてみせた。
「とりあえず受注されていたものは、これで終わりだな」
左手で使うキーボードとディスプレイには、無数のコードが表示されている。
三日ほど前に依頼はあった仕事で、企業のプリグラムを、より強固にしたのだ。
AIが進歩している時代であっても、そのせいで様々な問題も出る。
例えば、本来動く筈のプログラムが、バグや不可によって勝手に改竄されることがあるのだ。
それを直すのも私の仕事。何よりも早い。
そのおかげか、そのせいか、引き受けたくもない依頼がたくさん入って来る。
本当に面倒に私は思っていた。
「はぁ、とは言え問題はこっちだな」
仕事の方は適当にやっても何とかなる。
けれど右手で使うキーボートとディスプレイに表示される、検索エンジンの中では、溜息を付く。
欲しい情報がネットの広大な海を探しても、なかなか見つからないのだ。
「とは言え、分かっていたことだな。ギルドホーム用の資金を集めるのは、長い時間と労力を掛けるもので……」
ギルドホームの購入は長い道のりだ。
私は分かっていたのだが、できる限り最短距離を進みたい。
しかしその手筈がなかなか整わない。
奥歯を噛み締めていると、不意に私は公式HPを訪れていた。
「初心に帰るか」
公式HPの情報は確実だ。
とは言え、公式が情報を唐突に漏らすなんて真似はしない。
そう思い避けていたのだが、一応覗いてはおく。
「どうせいい情報は……新着?」
早速クリックすると、“新着”と点滅していた。
一体何が新着なのか。恐らくは、修正が入っただけだろう。
私は軽く流すも、一応先を覗いておく。
「一体何が新着で……はっ?」
私は目を丸くする。
ポカンとし、一瞬意識が切り離される。
それもその筈、またとない機会が舞い込んだのだ。
「これは一体……あまりにも都合が良すぎる」
何かの陰謀さえ感じてしまう。
もしかすると、VRドライブを通して、情報を常に抜かれている?
いや、その可能性は大いにあるが、別に気には留めない。
何故なら最初の段階で、規約にサインをしているからだ。
とは言え、ここまでタイミングが完璧だと、少し不気味に感じる。
私は腕を組んで考え込むが、やはり魅力的な言葉に惹かれた。
〔新着:新イベント開催のお知らせ!〕
「新イベントか……なにか打開策に繋がればいいが」
私は未だソースが不明な中、とりあえずこのイベントのことを頭の片隅に留める。
もちろん信用しきったりはしない。
けれど公式運営がやることだ。なにか光が見えればいいと、私はほくそ笑んだ。
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