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◇71 <ワーウルフ>は強い

この戦い、本当に強い……怖いのは。

 狼男が目の前に居た。

 その正体はもちろんリボルグさん。

 全身を茶色の毛に覆い、鋭い牙と爪を立てていた。


「リボルグさんって、狼男だったんですか?」

「狼男? 俺の種族は<ワーウルフ>だ」

「<ワーウルフ>」


 正直、狼男になったくらいじゃ、私もビビらない。

 もっと強いモンスターと戦ってきた経験だ。

 けれどリボルグさんから放たれるそれは、単なる威圧じゃない。

 狩人の目をしていて、私のことを狙っていた。


「まずは手始めだ」

「えっ、消えた!?」


リボルグさんの姿が消える。

目を離したつもりは一切ない。

にもかかわらず、私の目の前から姿を消すと、左側から視線を感じた。


「そこっ! がっ」


私は声を上げてしまった。

頭が軽く脳震盪を起こしたみたいにフラフラする。

視線に気が付き、なんとか対処したつもりだったけど、それでも追い付けない。

一発入れる前に私の方が殴り飛ばされえると、体がよろけてしまった。


「「アキラ!?」」

「「「嬢ちゃん!」」」


Nightとフェルノ悲鳴が聞こえた。

観客の声援も飛び交っている。

私は何とか立ち上がると、蟀谷を押さえ、リボルグさんを捉える。


「なるほどな。俺のスピードについて来やがるか」

「今のって、<ワーウルフ>の特徴ですか?」

「だったらなんだ?」

「よかったです。このくらいなら、なんとか追い付けそうです」


 私はリボルグさんの意表を突く。

 本当は、今のスピードに飲み込まれて、戦意を喪失していてもおかしくない。

 だけど私はまだ追える。まだ付いて行ける。そう確信すると、【キメラハント】を駆使した。


「行きます! 【キメラハント】+【灰爪】」


 私は【キメラハント】を使った。

 グレーウルフの能力、【灰爪】で武装すると、まずはリーチを取る。

 リボルグさんは私の爪が一気に変化し、人間離れした長さにまで伸びると、流石にビックリしている。


「な、なんだ、その爪?」

「驚いてる暇は無いですよ。えいっ!」

「ふん、甘いな。その程度の攻撃避けられ……えっ?」


 リボルグさんは驚いていた。

 私とリボルグさんとの間にはそれなりに距離ができていた。

 もちろん、並の一歩じゃ埋まらない。けれどそれはあくまでも並の一歩だ。


 私はリボルグさんとの間を一気に詰める。

 しかもたった一歩で半分以上縮めると、まるで瞬間移動したみたいに見えた筈だ。


「な、なんだ、あれ?」

「今、なにが起きた?」

「あの子、どうやって移動したの? なにかのスキル? それともスキルで作ったアイテム?」


 困惑が加速していく。

 誰も見たことが無い動きに、Nightは唖然とし、フェルノは親指を立てている。

 脇目に確認し、私はこの気を逃すまいと、リボルグさんに爪を立てた。


「届いた!」

「あ、甘いな……本当は使う気無かったが、【スクラッチ】!」


 私の爪は確かにリボルグさんに届いた。

 丁度顎を掠めると、確実にHPを削る。

 このまま一気に突き刺して終わらせてしまおう。なんて考えに至った私だけど、それを阻むように、リボルグさんはスキルを使う。固有スキルだ。


「すくら? ひゃん」


 私は恐怖心を感じ取り、リボルグさんと距離を取る。

 否、距離を取ったのではない。無理やり距離を取らされたのだ。


「なにが起きたの?」


 気が付くと、リボルグさんとの間に、二十メートル近い距離が開いている。

 にもかかわらず、その事実を受け入れることができない。

 なにせ私は避けたつもりはない。むしろ攻めたつもりだった。

 一瞬の攻防でここまでの差が生まれるなんてありえず、私は頭を抱える。


「危なかったぜ」

「なにしたんですか、リボルグさん」


 リボルグさんは冷汗を掻いていた。

 ダラダラと、茶色の狼の毛を伝い、汗がテカって見える。

 私はリボルグさんになにをしたのか訊ねた。

 もちろん教えてくれる筈ないのだが、不意にリボルグさんの指先が気になり、目が止まってしまう。


「リボルグさんのあの手……赤黒い?」


 リボルグさんの右手と左手、両方の手の指先が赤黒く捻じれていた。

 まるでプログラムのバグみたいに、風景が歪んで見える。

 他は何も変わらないのに、リボルグさんの指先だけが、臆の景色を上手く映し出せていないのだ。


「リボルグさんのその手、なにか秘密があるんですか?」

「俺の手? ああ、気が付いたか」

「はい、誰だって気が付きますよ。もしかしなくても、その手が……えっ!?」


 私はリボルグさんに真実を問う。

 するとリボルグさんはニヤリと笑みを浮かべると、両腕を振るう。

 空間を赤黒く染まった指先の爪で引き裂くと、私の目の前にはリボルグさんが、目と鼻の先に現れた。


「勘が鋭いな。そうだ、俺のスキルは、“両腕の爪で引き裂いた空間を削り取る”。その名も、【スクラッチ】だ」

「【スクラッチ】。よくある強スキル!?」

「そうだ。ただし、種族スキルと併用が条件だけどな!」


 リボルグさんは膝蹴りを繰り出した。

 あまりにも至近距離で避けるなんて絶対に無理。

 私もお腹に力を入れたけど、それでも痛くて、口から唾を吐き出した。


「げほっ!」

「どうした? この程度で終わりか?」

「ま、まだ……まだです」


 私は何とか立ち直る。

 リボルグさんは意外だったのか、目を丸くしている。


「おい、お前。まだやるのか? 流石にこれ以上は……」

「まだ、です。まだ私は負けないです!」


 膝蹴りまでしてくるなら、私も覚悟を見せた。

 リボルグさんが我に返っている今こそ、私の勝つ好機。

 威圧する目でリボルグさんを睨み付けると、動揺を誘った。


「な、なんだその目! やろうってのか」

「もちろんです。私だって、ただではやられませんからねっ!」


 リボルグさんに詰め寄った。

 今度は【スクラッチ】も使われない。

 至近距離という絶好のチャンスを決して逃さず、私は前に踏み込むと、リボルグさんの顔に向かって拳を向けた。


「痛いので、歯を食いしばってくださいね」

「な、なんだお前。なにをする気だ、ゔへっ!」


 私はリボルグさんの左頬に、全体重を乗せた一発を叩き込む。

 まさに渾身の一撃で、リボルグさんの体に攻撃がダイレクトに伝わる。

 上部のHPも大きく削れると、下のMPも私の時と違って何故か削れていた。


(なんで私の攻撃の時だけ、MPが削れてるのかな? 変なの……まあ、いっか)


 もちろん私はこんなものでは止まらない。

 左頬にかけた拳を今度は首筋を添うように撫でる。

 そのまま左肺から心臓、更に鳩尾にかけて、回転を加え乍ら殴りつけると、流石のリボルグさんも膝を付き、地面に伏せて立てなくなった。


「あっ……ああ……がっ……な、なにを……おえっ、い、痛い。全然、全然収まらねぇ」


 リボルグさんは地面に伏せると、ピクピク体を捩じっていた。

 本気で痛がっているので、周りの人達も心配する。

 目が見開き、口から赤が混じった泡を吐くと、【狼男化】も解けてしまい、成人男性が仰向けで倒れていた。


神桜(かみざくら)って言うお母さんから教わったとっておきの技です。普通の人が真似してもできなくて……できるだけ加減はしたんですけど、大丈夫ですか?」


 リボルグさんに声を掛けた私だったけど、リボルグさんは気絶していた。

 HPは残っているのに、MP? の方が〇になっている。

 なにが起きたのか分からないが、もしかして勝ったのかもしれない。

 私は「リボルグさん?」と声を掛けるも、リボルグさんの姿は目の前から消えてしまい、代わりにアナウンスが入った。


——PvP・スタンダード・ルール。MPブレイクにより、対戦者:リボルグは強制ログアウトされました。よって……Winner:アキラ!!——


 盛大なアナウンスが私の勝利を祝ってくれる。

 これぞ勝利のファンファーレ……って感じの雰囲気じゃない。

 しっとりした、なんとも言えない冷たい空気が流れると、私は頬を掻く。


「えっと、私の勝ちでいいのかな?」


 もしかしてみんな引いてるのかな?

 こんな予定じゃなかったんだけど、歓声が異様に少ない。

 私は気恥ずかしさに駆られると、今すぐここから逃げ出したくて、全身をモジモジさせてしまった。とは言え勝ったのは私、誇っても……無理だった。

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