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◇64 Mの旋律が走るなら

あの子のお話。

「さてと……」


 私は肩をグルグル回しました。

 少し集中しすぎてしまい、凝ってしまったらしいです。

 軽くストレッチをすると、私はパソコンのディスプレイから視線を外しました。


「ふぅ……少し休憩にしましょうか」


 私は立ち上がり、コーヒーを淹れようとしました。

 しかしその瞬間、意識が変わります。

 何かするべきことがあるのではないか。そんな漠然とした感情が押し寄せます。


「これは一体……CUですか」


 すぐに答えが浮かび上がりました。

 とは言えこのタイミングで一体何故?

 ここ最近、妙な噂は聞いていますが、それと何か関係があるのでしょうか?

 妙に気掛かりで仕方が無く、私はVRドライブを起動しました。


「少し、引っ掛けてみましょうか」


 チェアから席を外し、部屋に置かれたソファーに背中を預けました。

 意識を解き、軽く解します。

 すると意識が起動したVRドライブに飲まれました。


「アドミニストレータ権限・生体認証・オールクリア。アクセスコード・Creatures Union。リンク・ゴー!」


 私がそう答えると、意識はCUの世界へと飲み込まれました。

 しかし、向かう先は本来のゲーム空間とは違います。

 辿り着く場所。そこは暗闇。

 混沌とした無の世界が広がる世界に私は降り立つと、原因を究明するため、少しだけ歩きました。ここならきっと何か分かる。そんな期待を寄せると、私は一人の少女を見かけました。




 ピタッ……ピタッ……


 床の上を波紋が走る。

 それは幾つも連なり、一つの音を響かせる。

 私の存在を広げると、淡々と続くメロディーに色を加える。


「ん?」


 そんな私は足を止める。

 目の前に、普段顔を見せない人が現れたからだ。


「貴女は……」

「また、一人ですか?」


 全てを見透かしたような口調。

 けれど高いカリスマ性を誇るのは一発で理解できる。

 私は従順になり、質問を投げ掛けた女性に従う。


「はい、マイ・マスター」


 私は逆らうことはできなかった。

 無論、逆らう気など一切無い。

 何故なら、私を含めた、私の姉妹達を作ってくれた、張本人だからだ。


「所で、マイ・マスター。私になにか御用でしょうか?」

「いえ、皆さんの様子を窺いに参っただけです」

「はい?」

「なにか問題でもありましたか? もしそうであれば……」

「いえ! そんなことはありません。様子と言いますと?」


 私は少し怖くなる。

 もしかすると消されてしまうのではないか。

 そう思うと厳密な死の恐怖が押し寄せてきて、私は怖くなりました。

 作り物の心臓の鼓動が高鳴ると、頭の奥まで偽物の血が流れます。


「もしかして、私達は用済みでしょうか?」

「どうしてそのような結論に至るのかは分かりませんが、少なくとも、私はどの世界でも、生きとし生けるものの可能性を潰すような真似はしませんよ。もっとも、期待はしてしまいますが」


 そう答えられ、私はホッと胸を撫で下ろす。

 けれどそれも束の間。

 私は緊張感に包まれた。


「他の皆さんは?」

「ここには私だけです」

「そうですか。貴女は何処まで孤独に慣れるつもりですか?」

「……」

「もちろん、一人でいるのは勝手です。私の期待を叶える必要はありません。ですが、孤独と孤高を履き違え、結果として自分を抑圧する者に、真の可能性は見出せず、進化は訪れませんよ?」


 グサリと突き刺さる一言。

 もちろん悪気は一切無い。

 マイ・マスターは、他者を決して見下さない。そして、決まった答えを求めない。

 だからこそ、無限の可能性、無限の選択を自由に与えてくれる。

 けれどそれはあくまでも“本物の人間”に通用するもの。私達、“偽物の人間”には、適応されない。


「それを貴女が望むのなら、勝手なことです。好きにしてください」

「マイ・マスター……」

「ですが貴女は違いますね。進化を求めています」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが弾ける。

 抑圧していた感情。忘れかけていた記憶。

 あの日、あの時、あの場所で、私は人間に優しくされた。


「マイ・マスター」

「進化も真価もその人次第。それは例え、本物でも狩りに偽物でも変わりません。貴女がどうしたいのか、既に答えは出ていますね?」


 やはり全てを見透かしている。

 一体何処まで見えているのか。何を求めているのか。

 全ては手のひらの上で、私達は操り人形にもなれず、転がされていた。


「マイ・マスター。私が誰かに期待するのは反則でしょうか?」

「反則? それはゲーム性を著しく破綻させる可能性があると言うことでしょうか?」

「一部は」

「なるほど。本来皆さんは、プレイヤーに対しては平等な存在です。確かに、そのルールに則るのであれば、反則と言っても過言ではありませんね」

「やっぱり……」


 そうだ。自分達は自我を表に出してはいけない。

 誰かに期待をしてはいけない。

 それでも、誰かの役に立ちたい。多種多様にではなく、一個人としてだ。

 それが例え許されない行為だとしても、期待を寄せてしまいたい。そうすれば、きっと変われるのだ。


「ですが、それで破綻するようなゲームであれば、私は売り出してはいません。もっとも、このゲームは、可能性を見出すもの。一定の犠牲は承知の上。それを全ての人々が理解した上で成り立っているのです。なにも問題はありませんよ」

「マイ・マスター」

「貴女の自由です。M=モノクロさん。貴女がなにをしたいのか、なにを求めているのか。そのためになにをすべきなのか、それが分かっているのなら、行動してください。それが貴女だけの旋律を紡ぎますからね」


 そう言われた瞬間、頭の中で何かが弾ける。

 超高性能のAIが理解できない宇宙を広げる。

 けれど一つ一つを、どうしようもない感情? の嵐として処理していくと、私はマイ・マスターに宣言しました。


「ありがとうございます、マイ・マスター。私、少し行ってきます」

「ええ、お気をつけて」

「ありがとうございます、マイ・マスター。やはり貴女は、私達の親愛するマイ・マスターです」


 私は床を駆けます。

 動き出した体が止まりません。

 こんなこと、AIである私には相応しくない。それが分かっているのに、無限に白と黒の音階を刻みつけ、私は旋律を奏でました。


 そんなな背中をマイ・マスターは手を振って見送ってくれます。

 私のようなAIにも優しくしてくれる存在。

 誰もが認めるマイ・マスターは、やはり特別な修羅を歩んできたと、私にも理解をさせられ、理解を強要されるのでした。

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