◇56 メタクロベアーはFランクじゃない!
このモンスターはヤバい。
私達はメタクロの森を歩き回る。
奥に行けば奥に行くほど、空気も冷たくて、ひんやりとしている。
もちろんそれだけじゃない。
真っ黒な木がたくさん並んでいて、影も濃くなっている。
何処か恐ろしさを醸し出していると、差し込む陽射しすら、霞んでしまう。
そんな中でも私達は警戒しながら周囲を見回す。
一応モンスターが出てくる雰囲気は何処にもなく、虫も鳥も居ない。
不気味なくらい静かな森だ。
私達の声だけが、森の中を木霊する。
「あーあ、早く出て来ないかなー」
「そう焦るな。そのうち出遭う」
「根拠はー?」
「これだけ無防備かつ、柔らかい肉が歩いているんだ。肉食動物にとって、格好の餌だろ」
「あはは、それじゃあ私達が囮ってことだよね。嬉しくないな」
気持ちの良い会話は何処にもなかった。
むしろ悍ましい会話になっていて、私達自身が、餌となっている。
完全な囮作戦で、いつメタクロベアーに出遭っても決しておかしくは無かった。
「そう言えば、Nightはメタクロベアー相手に、作戦はあるの?」
「ん? そうだな。クマを追い払う方法として、まずは撃退スプレーなどのような、化学薬品を使うのが一般的だろう」
「そんなの持ってないよ?」
「当り前だ。他にはクマから距離を取る。それもできなければ、より大きく見せ威圧する。音を立てたり、目を逸らさなかったり、とにかくクマよりも強いことを覚えさせる。それが今後にも役に立つ適解だな」
Nightは一般的なクマ対策を教えてくれた。
凄くためになるけど、実践できる気がしない。
ましてや今回の相手は、日本に生息しているような、クマじゃない。
攻撃的で凶暴な、メタクロベアーだった。
「えー、そんなの役に立たないよ」
「だろうな。だからこそ念入りな……」
Nightはフェルノのボヤきにも、しっかりと対応する。
真面目だなと思いつつ、直後、空気を震わす声がした。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然悲鳴が聞こえて来た。
メタクロの森を震わし、草木がガサゴソと揺れる。
「い、今のなに!?」
「悲鳴だな。向こうからか」
突然聞こえてきた悲鳴の先。
メタクロの森の奥の方で、そこから聞こえたと言うことは、それだけ切羽詰まっていたのだろう。
心の底、お腹の奥から出て来た断末魔は、私達の行動を急かせる。
「みんな急ごう」
私は誰よりも先に号令を出して走り出していた。
その機敏な動きに目を丸めたのか、Nightは驚いてしまう。
「な、なんだ、アキラの動きは。たまに面倒な好奇心はあったが……分からない」
「あはは、アキラはいざって時は、誰よりも動ける子だからねー」
「それは一種の才能だな。とは言え、他人にあまり関わり過ぎれば、痛い目を見るぞ」
「それもアキラの良い所でしょー。あれこそ、本当に必要な正義感でしょ?」
「……そうかもな」
Nightとフェルノは何か話し込んでいた。
もしかして私の悪口かな?
ムッとしつつも、今は何も言いだせない。
とにかく助けに行かないと。何となく浮かび上がった、正義感が突き動かして、私は誰よりも先に走り抜けた。
「こっちから聞こえた筈なんだけど、あれ?」
とにかく私は走った。
けれど悲鳴が聞こえたのは一瞬だけ。
もう手遅れかもしれない上に、完全に道を迷ってしまった。
「どうしよう」
「落ち着け、アキラ」
そこにNightとフェルノが声を駆ける。
無事に追い付いたようで、Nightは息を切らしながら、アキラの腕を掴む。
「悲鳴の方向は間違っていない」
「それじゃあ!」
「とは言え、助かったとは言えないな。恐らく、手遅れだろう」
「えっ、手遅れ!?」
根拠は無い。けれど、Nightの言葉は常に的を射る。
青ざめる私に、残念なことを言った。
そう、濁すことも無くハッキリとだ。
「いいか、メタクロベアーで無いとして、まず間違いなく無傷では済まない。なんの対策もしていなければ尚のことだ」
「でも、対策していたら?」
「それならここまでの道中で、なにかしらのアクションがある筈だ。けれどなにも無かっただろ。恐らく、山や森に対する知識が無いんだろうな」
知識は武器だ。Nightはそう言いたい。
私もフェルノもそのおかげで助けられてきた。
まさに、Nightにしかできない戦い方だけど、ほんの少しも知識が無ければ、メタクロベアー相手に逃げ切るのは、まず絶望的だった。
「でもさー、まだ可能性はあるんじゃない?」
「もちろん残されている。とは言え、ここから私達ができることは……ん?」
「「どうしたの、Night?」」
急にNightは口をつぐむ。
何かあるのか、視線が一点を見つめる。
私とフェルノも視線を追う。
すると薮の奥、黒ずんだ木々が群生していた。
「なーんだ、ただの木だ」
「お前にはそう見えるのか?」
「えー、なにか意味あり気―? よいしょっと、別に変な所は無さそう……うわぁ!?」
フェルノは【吸炎竜化】を部分的に解放。
腕だけ竜の姿に変えると、柴刈りでもするみたいに、薮を掻き分けた。
誰よりも先に木に近付く。
樹皮が黒くなっていて、相変わらず硬い。
けれどフェルノは大したことない様子だったけれど、すぐに態度を一変させた。
「どうしたの、フェルノ!? うわぁ」
私もフェルノに続いた。
一体何があるんだろう? キョロキョロ見回すと、樹皮の一部が剥がれている。
否、“削り取られている”んだ。
「ど、どういうこと。しかもこの跡、爪みたい」
「そうだな。爪痕だ」
「えー、でもこの木、すっごく硬いよ? それにこんなハッキリとした爪痕、一体どんなモンスターの仕業……って、まさか!?」
フェルノは気が付いてしまった。
もちろん、私も気が付いた。
こんな凶暴な爪痕を残すなんて真似、一つしか答えが出ない。
「そうだな、これが私達の狙いの奴だ」
「「メタクロベアー、怖いね」ヤバッ」
もはやこんなのFランクのレベルじゃない。
私は、接敵したら切り裂かれるんじゃないかと思った。
だけどそんな感情が呼び寄せたのか、何処かで騒めいていた。
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