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◇55 メタクロの森

早速強化しました。

 スタットを出て、あれから一時間。

 全然目的地に辿り着けない。


「はぁはぁはぁはぁ……」


 Nightは息を切らしていた。

 きっとこんなに長い距離を歩くのに慣れていないんだ。


 もちろん普通なら、こんなペースで一時間も歩かない。

 なにせ、先頭を切るのは……


「ふんふふーん、ふふんふーん、ふーんふふーん」


 フェルノだった。

 しかも鼻歌まで交えている。

 腕もブンブン振っていて、もはや徒歩なのに、競歩みたいな速度だった。


「フェルノ、ちょっと速くない?」

「えー、なに言ってるのさー」

「なにって、ちょっと速いよ。Nightが完全にバテてるよ」


 私はNightのことを気遣った。

 なにせ、Nightは全身から汗を流している。

 マントもインベントリの中に放り込まれ、さっきから水を飲むことさえ億劫になっていた。


「このままじゃ熱中症になっちゃうよ!」

「お、おい、余計な、ことは、言うな……」

「でも……」

「いいから黙っていろ。ったく、どうしてこんなに日に限って、馬車が一台も使えないんだ」


 私達の目的地までは、直線距離で二十キロある。

 本当は馬車を使っていく距離らしい。

 にもかかわらず、今日みたいな日に限って、馬車が一台も無かった。

 完全に誤算で、Nightは愕然としていた。


 こんな偶然があるのだろうか?

 Nightは何かの陰謀にさえ思ってしまった。

 だけど目の前のことは変らない。そう、依頼書に書かれていた期限、おまけにミーNaさんの言葉。


「まさか、他にもこの依頼を受けていた人がいたなんてね」

「あー、クソッ。最悪だ」


 強豪相手(ライバル)の登場に、私達も負けられなかった。

 いや、本当は一日でも開ければ変わった筈だ。それこそ、数時間でも変わった筈。

 だけど、今日、しかも今の時間と、運の悪いタイミング。

 もはやフェルノの好奇心も止められず、私達は、徒歩で行くことになってしまった。


「まさか受けることになっちゃうなんて……」

「おまけに依頼を途中棄権する場合、違約金が発生するとは……銀行か」

「あはは、シビアっていうか、リアルだよね……」


 もはや言葉も出ない。

 だって私達は歩いている。

 今からスタットに戻るなんて現実的じゃなかった。


「このままログアウトしちゃう?」

「バカか。そんなことしても変わらないぞ。街に戻されるだけだ」

「だよね。それじゃあ……」

「Go Go L‘ets Go!」


 フェルノに腕を引かれた。

 私は慣れっこだから大丈夫だけど、Nightはもはや顔面蒼白。

 熱中症手前の状態に、私は「頑張れ」と声を掛けることも憚られた。


「Night!」

「な、なんだ?」

「もうちょっとだから。ねっ」


 私は色々迷った。

 だけど反感を買いそうで、言葉を選んだ。

 超高速で脳を回し、言葉の壁を這いつくばる。

 そんな中で出たのは、もはや言葉でもない、吐息。擬音みたいな何かが出ると、Nightは何か察してくれたようだ。


 そんな過酷な状況の中、私達は目的地に向かう。

 そう、この先には憩いの場……にもならない森が待っている。

 そう、今回の標的、メタクロベアーの待つ、メタクロの森がある。



「あっ、見えて来たよ!」


 私達はあの苦行を乗り越えた。

 視線の先、ようやく見えて来たのは、深い森。

 何処か色黒い樹木の肌と葉っぱが、モクモクと茂っていた。


「ようやくか……」

「あはは、よかったねー。やったと着いたー」


 Nightは酷くグッタリしていた。

 フェルノに最後背負われることになり、マントが直射日光を遮る。

 一階帰った方がいいレベルだけど、ここまで来たからには突入あるのみだ。


「急ごうね。他の人達よりも、先にメタクロベアーを倒さないと」

「私の努力が無駄になる」

「結局、三十分は私が背負ってたけどねー」

「「余計なことは言わない」言うな」


 今はそんな話をする場じゃない。

 流石に私も怒ると、ここまでの一時間三十分の道のりを受け入れた。


「それで、なんだけど……」

「どうしようか?」


 森の入口に辿り着いた私達。

 そこで待っていたのは、何処までも色黒の森。

 影とかそんなレベルじゃない。とにかく暗かった。


「なんだか怖いくらい暗くない?」

「メタクロの森は、普通の木々は生えていない。混雑した森らしいからな」

「「混雑?」」


 一体何が混雑しているんだろう。

 もはやそれさえ分からないけれど、一歩足を踏み入れた瞬間、私達は薄っすらとした冷気を感じ取る。これはあれだ、金属系の奴で、暑い日に机の脚を触ると、ひんやりしていて気持ちが良い奴に似ている。


「なんだか涼しいねー」

「それがこの森の特徴だ。フェルノ、軽く木の表面を叩いてみろ」

「うーん、やってみるよー。それっ、痛い!?」


 フェルノはNightに言われるがまま、近くに生えていた気を殴る。

 拳を軽く作って、コツンと叩く。

 すると拳から腕に掛けて、強い衝撃が加わった。

 表情がぎこちなくて、本気で痛がっている。


「ふぇ、フェルノ大丈夫!?」

「大丈夫大丈夫―。だけど、これなに? 硬くない、痛くない?」

「当り前だ。この森の木々は、硬すぎて伐採できないからな」


 そう言うと、Nightは短剣を取り出す。

 木の表面に刃を押し込むと、ギィギィギィと、鉄板を引っ掻く様な音が鳴った。


「ううっ、この音嫌い―」

「もしかして、メタクロの森の、“メタ”って、メタルのメタ?」

「正解だ。その証拠に……それっ」


 Nightは木の表面を剥がした。

 樹皮が剥がされ、中身が露出する。

 虫がビッシリで気持ち悪いことを想像するけれど、実際には、何も付いていないし、樹液も出て来なかった。


「うわぁ、黒い」

「本当だー。鉄板みたい」


 真っ黒で少し冷たい。

 完全に鉄板のようで、鉄板を丸く筒みたいにした木が、そこら中に生えているのと大差ない。

 そんな事実が伝わるも、「だからなに?」としか言えない私とフェルノ。

 それに対して、Nightはこの森の恐ろしさに、いち早く気が付く。


「メタクロの森。思った以上に、面倒だな」

「そうなの、Night?」

「二人は気が付かないのか? この森に住んでいる、メタクロベアー。もしもこの森の性質をそのまま引き継いでいるとすれば……いや、その顔を見て伝わった」

「「どういうこと!?」」


 Nightは面倒そうに言葉を噤む。

 途中で話止めると、私達の顔を見て呆れる。

 一体何が言いたかったのかな? 私は意識を切り替えようとするけど、なんだか嫌な予感がしたので、そこで留めてしまい、メタクロの森の恐ろしさを、後で実感した。

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