◇51 必要事項を書くだけなんだ
用紙に書くだけって、逆に怖くない?
いや、普通に怖いよね。
散々な目に遭ったけれど、ミーNaさんの活躍もあり、無事に収束した。
それと同時に、ギルド会館の中にあったガヤガヤが無くなる。
これもミーNaさんのおかげで、空気が締まって見えた。
「次の方、どうぞ」
私達の番だ。
色々あったけど、十分くらい待ったら、私達の番になった。
受付窓口の前に立つと、そこにはミーNaさんが居る。
完全にさっきの人と別人で、なんと切り出せばいいのか分からなかった。
「あっ、先程の方ですね。ギルドの登録でよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「それではこちらの用紙に必要事項の記入の上、再度提出してください」
そう言うと、ミーNaさんはトレイの上に、紙を置いていた。
これがギルド登録用の用紙らしい。
私達は受け取ると、ミーNaさんに手振りで指示される。
「あちらに設置された記載台に、ペンが用意されていますので、お使いください」
「ありがとうございます」
「それと、先程は大変でしたね。ご無事で何よりでした」
「あ、あはは。はい」
私は痛い所を突かれた。頭を掻きながら、フェルノと一緒に並んでいた。
だけどNightに肘を入れられる。
「余計なことを言うな」とでも言いた気で、私はゴクリと喉を鳴らすと、記載台へと向かった。
「はぁ、散々だったな」
「そうだね。でも、ミーNaさん強かったね」
「うんうん。並みのプレイヤーよりも強いんじゃない?」
「そういうAIを搭載されているんだろ。下手に機嫌を損ねさせるなよ」
「「うん」」
それはそれで痛いくらい伝わった。
流石に今の私じゃ、ミーNaさんには勝てない。
戦う気なんて最初から無いけど、ギルド登録を取り消されたら溜まったものじゃない。
私は気を引き締め胸を撫でると、記載台に立ち、置いてあったペンを取る。
「うわぁ、このペン変な形してる。羽ペンって奴?」
「昔の人が使ってた奴だ。結構凝ってるねー」
「世界観守ってて偉いよね」
「おい、それ私への皮肉だな」
「「そんなことないよ」-」
記載台に立ち、そこに置いてあるのは羽ペン。
私は初めて見たから少し興奮する。
なによりも世界観を守っていて、私はついついNightをボヤいていた。
「チッ、まあいい。とっとと記入するぞ」
「そうだね。また並ぶの大変だもんねー」
「うん。えっと、インクは……あれ、インクが無い? うわぁ!?」
私が代表して羽ペンを手にした。
だけどインクが何処にも無くて、キョロキョロする。
すると突然用意された用紙の記入欄が浮かび上がり、更に羽ペンの先に光が灯った。
「おお、最新式だな」
「どういうこと?」
困惑した私だった。だけどNightは見事にあっさりしている。
理解が追い付かない私だけど、とりあえず記入欄の部分に、羽ペンの先を持っていく。
するとインクも無しに文字が掛けそうで、ましてや直接書き込まなくても、宙に書くだけで良さそうだ。
「な、なにこれ?」
「どうやらコレは、空中に書いた文字を、自動的に起こしてくれる道具らしい」
「へぇー、ゲームだねー」
「そうだな。現実でも使われ始めているらしいが、流石はエルエスタ・コーポレーションだ」
Nightもフェルノも感心するだけ感心している。
そんな二人とは一線を画すのは私。
普通に凄すぎる技術に、改めて驚愕した。
「ファンタジーっていうより、SF?」
「ほら、アキラ。まずは名前名前!」
「そんなに押さないでよ……名前?」
フェルノに急かされる私。
ギュッギュッと抱きつかれて、これじゃあ文字も書けない。
そんな中、ふと言われた言葉。私は陽市に視線を戻すと、確かにまずは“ギルド名”と書かれていた。
「そんなの考えて無いよ」
私は何にも考えて無かった。と言うか、今初めて知った。
Nightとフェルノも考えていなかったらしい。顔にそう書いてある。
ポカンとする私。間延びした時間が流れると、とりあえず口を開く。
「二人共、どうしよう?」
「どうしようと言われても困るぞ」
「うーん、ギルド名でしょ? なにかいい名前無いかな?」
如何しようかな。
私は困ってしまうも、とりあえず、三人で考えることにした。
「うーん、とりあえず他の項目から埋める?」
「それがいいだろうな」
「他の項目って……“ギルドマスター”と“サブギルドマスター”の項目に諸々の事項……誰がやる?」
とりあえず、一旦名前は保留にした。
だって誰も良い名前が思い付いてない。
こういう書類って、一回提出したら、なかなか変更できない。
そんな気がしてしまい、私達は別の項目から埋めることにした。
「それじゃあ誰がギルドマスターをやるの?」
「「アキラだろ」アキラでしょ?」
なんでだろう、即答されてしまった。
私は一瞬目を見開いて固まるけど、当然反対だ。
だって私にはギルドマスターなんて向かない。
これって、もっとリーダーシップがある人がやった方がいいに決まってる。
「えっ、なんで私なの。絶対向いてないよ」
「えー、面白いじゃんかー」
「面白いとかじゃなくて、フェルノがやってよ」
「私がそう言うキャラじゃないよーだ。ガンガン暴れてバトりたいのー」
フェルノはシャドーボクシングを始めた。
シュッシュッと拳を突き出すと、空気が震える。
当たりそうで危ないから止めてもらうも、それならもっと適任を用意する。
「Nightは? Nightなら、上手くまとめてくれるでしょ?」
「私はやる気は無いぞ」
「どうして。Nightなら絶対できるよ」
「お前な、人のことを買い被り過ぎだ。人間はなんでもできる訳じゃない。私にリーダーシップの気配が少しでもあると思うか?」
「それは、その……」
「言葉通りだな」
私は止まってしまった。確かにNightはリーダーって感じじゃない。
むしろ、指揮官とか軍師とか、そっちの方がポイ。
だとすれば一体誰がギルドマスターをするのか。
もはや消去法だけど、私は嫌だ。やりたくないし、上手くできない。
「そんな目で見ないでよ。私にもできないよ!」
「えー、アキラが言いだしたんでしょー」
「そうだぞ。お前が切り出したんだ。お前がやれ」
「それはそうだけど……私じゃ上手くできないよ」
普通に落ち込んでしまって空気を悪くする。
重い空気が頭から圧し掛かる。
そんな私にNightは肩に手を置きつつ、言葉を掛ける。
「大丈夫だ。お前ならできる。むしろお前にはリーダーの素質がある」
「リーダーの素質?」
「ああ、そうだ。お前は変り者だが、それ故に変り者を引き込む才能がある。思い立ったが吉日と言う言葉通り、お前は私の毛嫌いする態度さえ押し退けて、こうしてパーティーを汲ませた。それができたのは、お前自身、押しが強いからだ。故に、これだけ変り者が集ったことになる。理解ができるな」
「理解はできるけど……」
あんまり理解したくなかった。
だって、それじゃあ私が一番変り者みたいに聞こえる。
ムッと心の奥底、お腹を黒くして腹を立てるも、言葉にも態度にも出さないように気を遣う。
すると頭の中で意識がクリアになった。
Nightの言葉がスムーズに入って来ると、客観的に見えていた自分が映し出される。
(私がリーダーに向いている。って、そんなことないんだろうけど……)
完全に煽てられているだけ。きっとそうに違いない。
なのにどうしてだろう。やってもいい気がした。
きっとこのメンバーだからだ。私は友達の前でいい格好がしたかったんだ。
「それじゃあ、Nightがサブギルドマスターやってくれる?」
「はっ、私がやるのか!?」
「うん。Nightが推薦したんだから、私にもその権利があるでしょ? フェルノは良い?」
「もちのろんだよ。それってサイコーじゃん」
私は煽てられた分だけ乗ってみることにした。
こんなの珍しい。だけどちょっと意地悪もする。
推薦して来たNightも巻き込むと、面倒な顔をされたけど、私もフェルノも大賛成だ。
「それじゃあ書いちゃうね」
「いいよいいよー。あっ、Night押さえておくから」
「おい、フェルノ止めろ。おい、私の名前を書くな!」
「えっと、ギルドマスターはアキラで、サブギルドマスターはNightっと」
「おい!」
全力で抵抗するNightは、フェルノの前に無力。
筋力も体力も無く、簡単に抑え込まれてしまうと、その隙に私が用紙に書いた。
スラスラと書き記し、私は満足する中、こんな出鱈目で、凸凹で、継ぎ接ぎだらけのメンバーに、なんだか笑っちゃいそうだった。
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