◇44 森の中の白いアイツ2
超原始的な方法。
だけど、これがこの作品の魅力。
ガサガサガサガサ!
アルミラージは草むらを掻き分ける。
フカフカの地面を蹴り上げると、ピョンピョン跳び回っている。
「あっ、見つけたー」
フェルノは【吸炎竜化】を発動したまま飛び出した。
アルミラージを見つけるや否や、凄い形相で襲い掛かる。
「キュゥキュゥ!?」
アルミラージは驚いて飛び出す。
草むらを移動しながら、暴れるフェルノを掻い潜る。
「そーれっ!」
それでもフェルノは追従を辞めない。
鋭い白い爪を地面に刺すと、スコップで土を掘り返すみたいに、茶色の土が埃になって飛んだ。
舞った土がアルミラージに振り掛かると、嫌がる素振りを見せながら、長い耳をピクピクさせる。
「やっぱり勘付かれてるなー」
「大丈夫だよ、フェルノ。作戦を続けよう」
私は落胆するフェルノを励ます。
まだまだ作戦は終わってない。
アルミラージが逃げた先も、Nightの予想通りで、フェルノの動きは間違ってなかった。
「そうだねー。んじゃ、せーのっ」
「それっ!」
私とフェルノは挟み込むように、木の周りをグルグル回る。
もちろん、私達にはアルミラージの姿は見えていない。
だけどこれも作戦通りで、武装した腕を使って、木の幹をドンドン叩く。
ドンドン! ガサガサ!
ドドドン!! ガサガサガサ!!
木の幹を叩き回ると、葉っぱがたくさん舞った。
パラパラと降り落ちると、ガサガサと地面から聞こえる。
もしかしなくても、何かが動いてる。
私達は視線を飛ばすと、フェルノと一緒に追い詰める。
「アキラ、私はこっちから回り込むからね」
「それじゃあ私はこっちからNightの方に追い詰めるよ」
「分かったー。んじゃ、せーのっ!」
まずはフェルノが飛び出した。
靴を脱ぎ、無骨な竜の脚を見せつけると、地面を深く蹴り上げた。
その状態で高く跳ぶと、真下にアルミラージの姿が見えたらしい。
拳を作って叩き付けに行こうとすると、アルミラージの耳がピクピクする。
「キュゥキュゥ」
アルミラージにはこっちの動きが完全に判り切っていた。
そうとしか思えない動きで、私はアルミラージの逃げ先に向かう。
拳を突き出すと、アルミラージを襲う。
「【キメラハント】+【甲蟲】!」
私が拳を突き出すと、アルミラージの耳と角がピクリと動く。
やっぱり私達の動きを読んでる。
しかも目じゃなくて、耳で理解していると伝わったけど、だからなに? 私達のスピードじゃアルミラージは追い付けない。
「追い付けないけど……こっち!」
アルミラージは逃げようとした。
その瞬間、体を捻って先に回る。
顔目掛けて別のスキル、【キメラハント】+【灰爪】を発動すると、ゴツンと突き立てた。
「プギュゥ!」
「硬い!?」
ガチン!
鋭い音を立てると、アルミラージの角と私の爪がぶつかり合う。
その瞬間、一瞬だけアルミラージの目が私のことを睨む。
角に罅が入ると、痛みでも走ったせいか、アルミラージの動きも悪くなった。
「今だっ!」
私の拳が空振りする。
アルミラージは一瞬耳を動かすと、私の攻撃を躱した。
そのまま後脚で地面を蹴り上げると、私に土を掛けて目潰ししてきた。
「うわぁ、目、目が」
私は目を押さえてしまった。
土が入って痛い。涙が流れちゃって、アルミラージを見逃す。
「キュゥキュゥキュゥ!」
「あっ、待ってよ。うわぁ!」
アルミラージは頃合いを見て逃げ出す。
私は手を伸ばして追い掛けたり、捕まえたりしようとした。
だけど私の手は空を掴み、完全に霞しか掴めなかった。
「ううっ、待ってよ。せっかくここまで頑張ったのに」
「アキラ、大丈夫?」
「うん、大丈夫だけど……」
そんな私の下にフェルノが駆け寄る。
だけどアルミラージの姿は無い。
フェルノはキョロキョロ視線を配るけど、アルミラージは速すぎて、もう見えなかった。
「あーあ、逃げちゃった」
「うん。ごめん、捕まえられなくて」
「気にしなくていいよー。それに、私達は役目を全うしたでしょー?」
「……うん。後はNightに任せよっか」
ここまでやってことはあくまでも陽動。
私とフェルノは、姿を隠したNightに託す。
アルミラージが逃げた先も予定通り。
私とフェルノは、Nightの活躍に期待した。
(さてと、二人は上手くやっただろうか?)
私はアキラとフェルノの動きを完全には把握できていない。
けれど頭の中では、既に幾つかのパターンで想像ができている。
そのおかげだろうか、否、おかげなどではない。
アキラとフェルノ動きを、予測として捉え、脳内の図に点で落とし込むと、失敗に終わったと推察した。
「まぁ、アルミラージの速度だ。恐らく二人でまともに捕まえるのは難しいだろうな……とは言え、ここからが私の役目だ」
そう、ここからは私の役目だ。
今、アルミラージがこの先からやって来る。
目の前は丁度開けていて、遮蔽物は存在していない。
だから白い塊がやってきたら、一発で分かるはずだ。
「後三秒後……来た」
予想通りだった。
私の推測した通り、三秒後に白い塊が姿を現す。
警戒しながらテクテク進んでいるが、ここで走って貰おうか。
「ウサギは耳が良い。人間のヘルツでは聴き取れない音だとしても、ウサギがモデルのアルミラージなら……なっ!」
私はアルミラージに気付かれないように、ゆっくり移動した。
それからゆっくりホルスターから抜いた拳銃を、天高く掲げる。
耳を塞ぎ、後は引き金を引くだけだ。
パァーン!!
空砲が鳴った。私には当然聞こえない。
拳銃の引き金を引いたが、空薬莢が排出されるだけで、特に変化はない。
ように見えるけど、実際には変化があった。
アルミラージは嫌がる素振りを見せながら音の方から逃げて行く。
「やっぱりか。となれば……」
私はアルミラージの走った方に視線を飛ばす。
その手にはワイヤーが握られている。
そして走った方向。アルミラージの大きな特徴は二つ。
一つはウサギ特有の聴力。
それによって、本来人間では聴き取れない域の音をキャッチできてしまう。
だからこそ、今の空砲は効いたのだ。
そしてもう一つ。これはアルミラージ特有のもの。
黄金に輝いている角は、一種の感覚器官。
あの角を頼りにすることで、周囲の磁場を感知してしまい、あらゆる障害を乗り越える。
となれば、方法は一つだ。
その器官を狂わせてしまえばいい。
「よくやってくれたよ」、と私はアキラ達を褒めると、アルミラージが地点に辿り着くのを待つ。
「そこだっ!」
私はワイヤーを引っ張る。
すると落ち葉の中に隠していた輪っかが姿を現した。
その輪はアルミラージの脚を絡める。グッと引き寄せられると、一気に絞られてしまい、アルミラージは解くことも、逃げることも敵わない。つまりは、目的が達成されたわけだ。
「結局先人の知恵に頼るのが一番賢いな」
私は清々しい程に自分を捨てていた。
だけど捕まえられたんだ。結果オーライ。とでも言った方が伝わるのだろう。
ジタバタ暴れるアルミラージの姿を見ながら、私はその手に鋭いナイフを握る。
後は簡単な作業だ。私は最後の一太刀を、せめて苦しませないようにして、振り下ろすのだった。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)
ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。
また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。




