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◇37 期待できるプレイヤー

 私は上手くはぐらかしながらソウラさんと喋っていた。

 だけどソウラさんはどうしても気になるのか、何度も同じことを訊ねる。


「それでアキラ」


 流石にもう限界だ。

 私は謝らないとダメだと悟り、ソウラさんに謝る。


「ごめんなさい、ソウラさん!」

「えっ、どうして急に謝るの?」

「それは、その……ごめんなさい」


 とにかく私には謝ることしかできない。

 だって、ドロップアイテムがなにも得られなかった。

 あんなに頑張ったのにだ。何の成果も得られなかった訳じゃないけど、物的なものは何も無い。得られたのは形の無いものばかりで、私にはどうやっても返すことができなかった。


「ソウラさん、あんなに聖水を売って貰ったのに、私はなにも返せなくて……」

「返せないって、なにも得られなかったんでしょ?」

「は、はい……」

「それならいいわよ。すぐに返して貰わなくれも、私は気にしないから」


 そう言うと、ソウラさんは話を纏めてくれた。

 私はソウラさんの優しさを噛み締める。

 ホッと胸を撫でる。かと思えば、ソウラさんに見越されているようで、私は不思議な気持ちになった。


「あの、ソウラさんって、“心が読めたり”……」

「読めるって、答えたらどうするの?」

「えっ!? 本当に読めるんですか!」

「ふふっ。読めても読めなくても、私は変らないわよ。ただ言えるのは、私はアキラに期待しているってことなの。どうかしら?」

「へ、変な期待は止めてくださいね……」

「ふふっ。そう思わせてくれるのは、アキラの良い所よね」


 ソウラさんは終始掴めない。

 だけど私に変な期待を寄せている。

 まるで波のようで、私は飲み込まれないようにするも、ソウラさんは口を開く。


「あっ、それじゃあ代わりに私達の依頼を引き受けてくれるかしら?」

「い、依頼ですか!?」

「ええ、そうよ。でも今は無いから安心して」

「安心してって……難しい依頼は止めてくださいね」

「分かっているわよ。それじゃあ、これからもよろしくね」

「はい!」


 なんだろう、良い具合に言いくるめられちゃった。

 私はソウラさんの言葉に丸められる。

 もうこれは引き下がれない。私は面倒な予感はしつつも、繋がりは大事にしようと考え、依頼を受ける羽目になってしまった。


「まあ、いっか」


 とは言え、私もそれでよかった。

 心の穏やかさを取り持つと、私も納得ができる。

 結局、何も得られななかった訳じゃない。隠しダンジョンはまだ遠い存在だけど、楽しかったから良いことにした。




 キーボードを打つ音が消えた。

 チェアに腰掛け、私は一度休憩を取ります。


「ふぅ。コーヒーでも淹れましょうか」


 私は棚の上に放置されたままのティーカップを見ました。

 隣には今もドリップ中のコーヒーメーカーが置いてあります。

 私以外が口にすることはほとんど無い、苦みの強いコーヒー豆を挽いています。

 そのせいでしょうか、疲れた時、私のことを内側から起こしてくれます。


「うん、良い香りですね。皆さんも飲んでくださって構わないのですが、気に入らないのでしょうか?」


 私はティーカップにコーヒーを注ぎました。

 まずは香りを楽しみ、次に舌でその味を吟味する。

 すると口の中一杯に芳醇な苦みがベールを纏った素の巣の姿を露わにし、私の前に姿を現してくれました。つまり、私に合った味なのです。


「まあ、人の好みも千差万別。とても良いことではないですか」


 私は達観した姿勢を見せました。

 実際、私が求めているのは、それぞれが持ち味を活かせる世界。

 千差万別の色を持っているからこそ、個人と言うものは成長し華を咲かせるものです。


 ピピピピピピピピピピピピピピピ!


「ん?」


 私は腕時計型VRドライブが鳴りました。

 気になって画面を拡大し、宙に表示します。

 そこには私の友人の名前が表示されていました。

 もちろん、個人のものではなく、アカウント名です。


「はい、なんでしょうか?」

「あっ、オーナー! 今大丈夫?」

「ええ、問題ありませんよ。それでどうかしましたか?」

「うんうん。なんでも無いよ?」


 何でもない。ただの気まぐれと言うことでしょうか?

 とは言え、“オーナー”呼びと言うことは、仕事の斡旋でしょうか?

 それともいつものように、新作を卸してくれるのでしょうか?

 どちらにしても楽しみです。私は凛々しい態度を取ります。


「それよりオーナー、CU調子が良さそうだね」

「ええ、企業からの広告やマーケティングにも重宝していますが、少なからず支障も出ていますね。ほとんどAIで管理しているとはいえ、人体に影響が出る方もいて……」

「えー、じゃあもみ消してるの?」

「いいえ、それも契約の内ですから。利用者の方達には申し訳ないと思いますが、それも仕方がないことです」


 実際、絶対の一%に満たないとはいえ、影響が出ている事例(ケース)もあります。

 それこそ、健康被害を訴えている方や、生活に支障をきたす場合も含めてです。

 ですがその全てを管理することなど不可能です。

 私は自分自身の身の丈を理解しているからこそ、万が一に備え契約書に赤字で警告していたのです。そのおかげでしょうか、被害報告は出ていても、それ以上の事態にはなっていません。


「オーナーの作るゲームって、余りあるくらい凄いもんねー。でも、どうしてオーナーってそんなに……」

「貴女から私に詮索をするのは身のためになりませんよ」

「はい、分かってます。だから私が連絡を取ったのは、オーナーのことじゃなくて……CUで面白いプレイヤーを見つけたんです」


 面白いプレイヤー?

 彼女の思う面白いプレイヤーと言うことは、単一的に輝きを持っていると言うことでしょうか?

 私は考えを巡らせましたが、その前に彼女は話してくれました。


「オーナーは私がデザイナーだって知ってますよね?」

「勿論ですよ。貴女がデザインした洋服は、ほとんど私が経営するブランドで取り扱っていますからね」

「ってことですよ!」

「なるほど。つまり貴女の洋服のセンスに引っかかるようなプレイヤーがいたと言うことですね」

「はいはい! そう言うことです。やっぱり面白いプレイヤーっていますよね。オーナーはいますか、お気に入りのプレイヤー」


 ゲームの開発元である会社の社長を務める私が、誰か一個人を贔屓にするのはあまりよろしくありません。

 ですが私も人間です。個人を贔屓……もとい、期待したくなるのは当然のことです。


「ええ、いますよ。とても期待できるプレイヤーが」

「へぇー、会ってみたいです」

「いずれ会えると思いますよ。もしかすると既に会っているかもしれません」

「うわぁ、予言なにかですか!? それがオーナーのマジカルですか!?」

「さぁ、どうでしょうか? 少なくとも、勝手な期待を私自身が寄せているだけですよ」


 そうだ、これは私が勝手に寄せている期待。

 つまり烏滸がましいものだろう。

 それが分かっていても、人は誰かに期待をしてしまうもの。それを噛み締めて生きて行くのです。


「それではアンジェリカさん。また今度現実で」

「はい、オーナー」


 私はデザイナー:鹿山アンジェリカさんとの通話を切りました。

 全く突然掛けて来るものですね。

 でも私は有意義な時間を使ったと思います。


「本当に期待してしまいますね」


 私はチェアに腰を落ち着かせると、コーヒーを一口飲みました。

 窓の外、広がる景色。

 そこに映る私はどうなのか。例えなんであったとしても、私のやることは変らないのだと、心に留めておきました。それが私、安城エルエスタなのだから。

【感想】


 いやー、無事に1章が終わりましたよ。

 自分で言うのもなんですけど、綺麗にまとまりましたね。

 改変したり、プロットを見直した結果ですよ。


 皆さんはどう思いますか?

 よければ感想なども待ってます。

 後、☆付けて欲しいし、ブクマもお願いしたいです。


 とりあえず、2章からはこのペースだと他の作品の執筆ペースが下がるので、8月? くらいまでは目指せ毎日投稿。

 とは言え、何処かで崩れると思います。

 てな感じで応援してくれると嬉しいです。作者の小言でした——

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