◇34 VS鎧騎士3
この改変前との差。
これは何なのか、私にも分からないのだが……
Nightは両手に剣を構えていた。
だけどその形状はとても特徴的。
なんたって、形が十字架そっくり。おまけにNightよりも大きな剣だ。
それこそ全長が二メートルを優に超えていた。
おまけに凄く重そうだ。
Nightの腕が今にも折れてしまいそう。
腕がへたって、切っ先が床に付いている。
「はぁはぁ……クソッ、重いなこの剣」
「それは、そうだね」
アキラはようやく囮役から解放された。
だけどNightの頼りなさを見ると、少しだけ不安になる。
なにせ、鎧騎士の関節部を抑え込んでいる紐はワイヤーで、全てがNightの剣に繋がれていた。
「Night、色々準備してそれでおしまい?」
「おしまいだと? このワイヤー量産に、どれだけ掛かったと思っているんだ」
「えっと、それは知らないけど……それでどうするの?」
私はNightに訊ねた。
するとNightは表情を濁しながら、私に言った。
「このワイヤーを使って鎧騎士をバラす」
「ば、バラす?」
なに言ってるんだろう。どうやってバラすんだろう。
ワイヤーを何本も何本も使って、それを剣に紐付けてどうするのかな?
そう思ったのも束の間、鎧騎士は冷静になってしまった。
ガシン!
軽く腕を動かすと、Nightは引き寄せられる。
フラッと足がもつれると、そのまま床に転びそうになる。
その瞬間、私は咄嗟に鎧騎士を蹴り込むと、Nightは引き寄せられた体重の動きが軽く成ったので、なんとか立っていられた。
「大丈夫、Night!?」
「あ、危なかった……クソッ。やっぱり私には、この役回りは不可能か」
そう言うと、早々に作戦を変える。
ここまで用意した時間は何だったのか。
そう思わせられてしまい、剣の代わりに拳銃を手にする。
「今度は拳銃で撃つの!?」
「最初からそのつもりだ」
「どういうこと?」
私は困惑してしまった。
だけどNightは拳銃を手にすると、引き金を引く。
弾を撃ちだすと、鎧騎士の背中にカツンと当たる。
「やっぱり弾かれた」
「いや、そうじゃないぞ。私に狙いは……」
Nightの考えていることがさっぱり分からなかった。
なんたって、鎧騎士に拳銃を使って幾ら攻撃してもダメージが無い。
なんたって中身が無いからで、HPが減る様子もない。
しかしNightは残った弾倉を全て消費する勢いで引き金を引き続ける。
それこそ残りを全部使う勢いだ。
私はおかしくなったのかなと思ったけど、Nightのオッドアイは確信していた。
バン!
そのうちの一発は放たれる。
撃ち出された瞬間、鎧騎士は面倒に思ったのか振り返る。
するとワイヤーが捻じれて絡まると、腕と足がギュッと引き寄せられた。
ガチャン!
「嘘っ!?」
「これが一つ目だ」
鎧騎士の体がギュッと引き寄せられると、ワイヤーに巻き付かれた。
腕と足がくっ付くと、金属の体が擦れ合う。
ギシギシと軋む音を立てると、鎧騎士は苦しそうで動けなくなった。
「どういうこと!? さっきまであんなに苦戦してたのに」
「私はなにもしていない。やったのは、鎧騎士自身だ」
確かにNightの言ってることは本当だ。
ワイヤーを関節部に絡みつかせると、鎧騎士が半回転してワイヤーが全身を縛り上げただけ。
これは全部鎧騎士だけで完結していて、Nightはあくまでもきっかけを作っただけだった。
「そして次にやるべきは……こうだ」
そう言うと、Nightは拳銃を構える。
残っている弾の数には当然限りがある。
見れば拳銃も変えていて、威力の高い回転式拳銃から、弾数の多い自動拳銃に変えている。
「ええっ、捕まえたのに撃っちゃうの?」
「当り前だ。逸れに本当にやるべきはここからだがな」
そう言うと引き金を引き、銃口から弾が撃たれた。
その射線は的確だった。回転しながら鎧騎士の関節部に命中していく。
カツン、カツン、カツン!
「き、効いてないけど!?」
「それも承知の上だ」
あまりにもなにしているのか分からなかった。
多分、Nightには既に勝ち筋が見えているんだと思う。
そうじゃないと、こんな無駄にも思えることしないから。
バン、バン!
カツン、カツン!
バン、バン、バン!!
カツン、カツン、カツッ!?
「音が変わった!?」
「この瞬間を待っていた」
Nightは鎧騎士の関節部だけを狙い続けていた。
すると金属の音が少しだけ変わる。
キュッと鳴り、鎧騎士の腕がダラーンとなりそうだ。
「後は鎧騎士の出方次第だが……来たぞ!」
「うわぁ、向かってきた。こっち来るよ!」
鎧騎士は流石に分が悪いと感じたのか、状況を一変させようとした。
そう、普通に走って来た。
槍を手にし、私達に近付いたら勝てると判断したんだ。
だけどその瞬間、Nightはほくそ笑む。
まるで予想していたみたいで怖い。
「なに考えてるの?」
「今に分かる。アキラ、私と一緒に剣を引け!」
「えっ?」
剣を引くってなに? 具体的に物理でってことかな?
私は困惑するも、Nightの武器、十字架状の剣=〈十字架の剣〉を引っ張った。
「せーのっ!」
思いっきり体重を後ろに掛ける。
Nightも非力ながら頑張ってくれている。
すると繋がれたワイヤーがギュルンと音を出し、鎧騎士の関節部に巻き付いていたワイヤーがグルグルと回転を始めると、そのまま……
パキン、ガッシャ―ン!!
鎧騎士の体がバラバラになった。
私は目を丸くしてしまい、一瞬黙る。
何が起きたの? 正直訳が分からない。
「本当にバラしちゃった?」
「思った通りだ。よく稼働する関節部はそれだけ消耗しやすいからな。弾を撃ち込み続けていれば、いつかは外れる。おまけにワイヤーも絡んでいたからな。予定より早く済んだ」
「これ、全部計画的ってこと?」
「当り前だ。とは言え、現実でそう上手く行かせるためには、細工が必要だが、なっ!」
鎧騎士の体が更にバラバラになる。
Nightがワイヤー本体を引っ張ったからで、絡まっていた足まで外れてしまう。
この調子で全部外れれば。そう思ったけど、まだ頭と胸が繋がっている。
「嘘でしょ!? こんなにバラしたのに」
「やはり肝心の本体は頭か。アキラ、お前が叩け!」
「わ、私!?」
「お前のスキルなら倒せる。頭を飛ばして、息の根を止めてやれ」
果たして止める息があるのだろうか。
そんなくだらないツッコミは置いておく。
代わりに私は地面を蹴り上げると、丁度クールタイムが開けたスキルたちを解放した。
「【キメラハント】+【甲蟲】+【灰爪】……うわぁ!」
だけどスキルを使う前に、鎧騎士は最後の抵抗を見せる。
手にしていた槍を、腕が外される前に投げつけて来た。
流石にスキル発動に間に合わない。腕を振る時間が無い。
「お願い、私に力を貸して! 【キメラハント】+【幽体化】!」
私は少女に託されたスキルを使う。
すると突然体から力が抜けた。
一瞬意識が覚醒すると、すぐさま異変に気が付いた。
Nightの声が上がったからだ。
「アキラが消えた!? おい、何処に行った」
何処にいったもなにもここに居る。
私はおかしなことを言うなと思ったけど、飛んで来た槍も私の体を素通りする。
あれ? もしかして本当にいなくなってるのかな? 私、ここに居ない扱いなのかな?
「もしかして、【幽体化】って“幽霊になる”ってこと?」
そう思った瞬間、合点が行ってしまう。
私の姿が消えたのは、肉体が無いから見えないせい。
攻撃がすり抜けたのはそもそも物理的な干渉が無いから。
身震いして怖くなるも、私はできることした。この状態で近付くだけ近付く。
「今が最大のチャンス! せーのっ、あれ?」
私は幽霊になった状態で鎧騎士に近付く。
この状態で攻撃すれば一発だ。
不意打ちの一撃を喰らわせようと拳を振るうが、攻撃は鎧騎士を貫通し、すり抜けてしまう。当然ダメージは無かった。
「あっ、そっか。私が幽霊だから、いくら攻撃しても意味無いんだ」
こんなカッコいい場面で私はドジった。
だけどそれならやり方を変えればいい。
そう、この最大の防御スキルを最大の奇襲攻撃スキルにしてしまう。
「【幽体化】解除。からの、【甲蟲】!」
私は鎧騎士の側頭部目掛けて拳を振るった。
突然現れた私のパンチを鎧騎士は反射的抜捉える。
だけど私の方が速い。いくら動けても止められる筈がない。
その予想通り、私のパンチが確実にヒットすると、鎧騎士の頭はヘルム事外れて吹き飛ばされた。
ボーン!
ゴトン、ゴトン、ゴトン、コロッ!!
床に打ち付けられたヘルムは、最終的に動かなくなる。
だけど私は復活されても困るので、ヘルムに最後の一撃を加える。
ここまで怖い目に遭ったお返しのつもりだ。
「ごめんね。それっ!」
ズドン!
【甲蟲】で強化された拳の攻撃がヘルムに最後の一撃を加えた。
金属は凹み、装飾は剥がれ、無残な姿にされてしまう。
そのまま潰されてヘルムの機能を失うと、鎧騎士は姿もろとも消えてしまった。
「た、おせた?」
「ああ、無事に倒せた。とは言え、流石は隠しダンジョンだな。私も疲れた」
「あはは、そうだよね」
私もNightも疲労が溜まっていた。
流石に今のレベルと人数じゃ隠しダンジョンは無理。
そう判断すると、床に座り込んで力を失った。
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