◇26 オッドアイの瞳が笑む時
本当はかなり先に出て来るキャラを出します。
プロットを変えたおかげですね。
とりあえず私はNightを見つけることができた。
それは口では無くても態度で明らかだったが、Night自身が明かしてくれた。
「はぁー、まさか同じ町に住んでいるとはな」
「そうだね、これも偶然かな?」
「ふん、なんとでも言え。クソッ、私は見つからない気でいたのにな」
Nightは本気で悔しそうだった。
この顔色、間違いなくNightだ。
私の読みは完璧で、今更精巧な嘘で塗りたくったって無駄。
今私の隣居る少女がCUのNightであると確信を持ち、私は知らずに笑みを浮かべていた。
「なんだその薄気味悪い笑顔は」
「えっ、そんなに変だった?」
「当り前だ。クソッ、同じベンチを共有していることが恥ずかしい」
そう言いがらも、ベンチの横幅が狭いからか、Nightの太腿と私の太腿がくっ付く。
素足の私とニーソNight。
感触は全然違うけど、体温が伝わる。若干だけど、Nightの方が熱い。もしかして緊張しているのかな。
「Night、緊張してる?」
「その名前で呼ぶな。私の名前は夜野蒼伊だ」
「夜野さん?」
「チッ、蒼伊でいい。代わりに私も明輝って呼ぶからな」
まさか初対面で呼び捨て。凄い勇気のある行動だった。
私は放心してしまうけど、それが蒼伊なりの優しさなんだ。
ここは適応した方がいい。私もコクリと首を縦に振ると、蒼伊はスカートなのに足を組み始める。
「蒼伊、足組んだら見えちゃうよ!」
「私は気にしない。それに私は……」
蒼伊は見えちゃいそうなことをした。
だけど全然奥が見えなかった。
如何やらスカートが長いみたいで、そもそも足が長めな蒼伊の大事な部分は見えなかった。
「それで、私は見つけられた訳だが、なにが望みだ」
「望みって?」
「ここまで執着心を持って私に会いに来たんだ。それでお前は賭けに勝った。報酬はなにを要求する気だ? 金か、地位か、それとも将来の助力か? まさかとは思うが、命とか言うなよ」
「そんなの言わないよ! えっと、望みでしょ? 私の望みは……蒼伊と仲良くなりたいな」
「はっ?」
“コイツなに言ってんだ“な顔をされちゃった。
私は完全にヤバい奴認定をされてしまった。
だけど私は退いたりしない。ここは押し通しに行く。
「私、ビビッと来たんだ」
「はぁ? ビビット? ビビットカラーのことか。私はそんな派手な装いは苦手で……」
「そうじゃなくて、蒼伊と友達になりたいって思ったんだよ。どうしてかは分からないけど、なんだかそんな気がして、ねっ」
「曖昧な奴だな。おまけに随分と変わり者だ」
そうあしらうと、蒼伊はスマホを取り出す。
反対の腕にはスマートウォッチが付いている。
かなりガジェットに寄ってる子。私はそう思ったけど、そのスマートウォッチはVRドライブだと気が付いた。
「蒼伊、そのVRドライブ」
「気が付いたか? これは私も開発に携わったエルエスタ・コーポレーション製のVRドライブで……」
「私も同じの持ってるよ。ほら!」
私も左腕を見せると、色は少し違うけど、同じ型のVRドライブを付けていた。
そのことに蒼伊は酷く驚く。
瞬きをすると私の顔とVRドライブを見返しながら、不敵に笑って口を動かした。
「本当にアキラなんだな」
「当り前だよ。だって本名だよ?」
「女子で“アキラ”は珍しい名前だな……で、その高級VRドライブは何処で手に入れたんだ?」
「えっ、これは、その……貰った?」
「貰った!? また幸運な奴だな」
蒼伊は私のことを褒めてくれた。とは言え掴みは完璧だ。
ニコリと微笑むと、蒼伊との距離感を縮めることに成功し、私は蒼伊に再度訊ねた。
「ねぇ、蒼伊」
「なんだ?」
「私と友達になってくれるよね?」
「またその話か……はぁ、しつこいな」
そう言うと、蒼伊は溜息を吐く。
それからスマホを凝視すると、そのままスマホに吸い込まれる。
私の話を聞いてくれそうにない。そう思った矢先、蒼伊はポツリと呟く。
「友達なんてもの、作ろうと思って作るものじゃないだろ」
「えっ?」
「……悪いが、私はそろそろ帰るぞ」
そう言うと、ベンチから立ち上がる。
ふと蒼伊の視線を追うと、駅前広場の駐車場に珍しい車が停まっていた。
「黒いリムジン? えっ、なんで停まってるの?」
「じゃあな」
「あれ、蒼伊!? もしかして蒼伊のとこ?」
蒼伊はそう言うと、リムジンに向かって歩いて行く。
私も飛び跳ねてベンチから立ち上がると、蒼伊はピタッと立ち止まった。
「明輝、ちょっと来い」
「えっ、どうしたの?」
「いいから来い。それから腕を出せ、VRドライブを貸せ」
私は蒼伊に促され、目の前までやって来る。
それから言われた通りVRドライブを付けた左腕を差し出すと、蒼伊もVRドライブを重ね合わせた。
ピコン!
電子音が聴こえて来た。
私は眉根を寄せると、蒼伊は腕を離す。
代わりにVRドライブの画面上にメッセージが表示されていた。
——フレンド登録を確認:Nightのアドレスを登録しました——
「これでいいだろ」
「えっ、蒼伊。これってもしかして!」
「うるさい、黙れ」
そう言う蒼伊はそっぽを向いてしまった。
顔を全然見せてくれない。
だけど耳の先まで真っ赤になっていて、緊張と恥ずかしさが同時に襲って来たらしい。
とっても可愛い女の子。私は蒼伊のことをそう思った。
「ねえ蒼伊!」
「明輝、昨日の聖水をできるだけ持って来い。シャンベリーを攻略しに行くぞ」
「えっ、ああ、うん。そうじゃなくて!」
「じゃあな」
そう言うと、蒼伊はリムジンに乗り込んだ。
顔は合わせてくれない。代わりに背中で語ってくれる。
本当は、また蒼伊と現実で会えるか訊きたかった。
だけど蒼伊は全然話してくれない。
それ所か会話を一方的に済ませてしまい、私を無視してきた。
「じゃあな……か。またね、蒼伊!」
そんな蒼伊に私は手を振る。
もちろんリムジンの中に居る蒼伊に届いているかは分からない。
窓ガラスも黒っぽくなっていて、遮光仕様になっている。
これじゃあきっと見えない筈だ。
それでも私は手を振った。
気持ちをできるだけ伝えたかったのだ。
今日会えたのはきっと幸運だったに違いない。
それだけで報われたと思うと、リムジンの去り際は何だか温かかった。
リムジンに乗り込んだ私は、いつものことのように思う。
肘を突き、ぼんやりと窓の外を眺める。
遮光性に優れてはいるが、内側からは外側の景色がはっきりと映り込んでいた。
「蒼伊様」
「なんだ、世鴉」
リムジンを運転する女性は私に声を掛ける。
うちで働いてくれているメイドで、名前は世鴉。
今の時代、車を運転する必要が無いにもかかわらず、安全を期するために、何故か運転を引き受け、毎日の様に私の送り迎えを嫌がる顔一つせず、むしろ光栄にでも思ってやってくれていた。
「いえ、蒼伊様が妙に嬉しそうでしたので」
「ん? そう見えたか」
「はい。先程お話をされていた方はご友人でしょうか?」
「友人? そう見えたのか」
「私の観察眼にはそう映りました。ですがもし、あの方が蒼伊様のご友人では無く、なにか粗相をされていたのであれば、後で確実に息の根を……」
「止めなくてもいい」
私はまた物騒な言葉を口にした世鴉を止めた。
全く、抜け落ちていない今までの習慣が見え隠れしている。
本当にその辺りにだけ神経を裂いて欲しいものだと思った私は、誤解が生まれないように配慮する。
「そうだな……友達、と言うべきだな」
「蒼伊様にご友人が!?」
「おい、私のことをなんだと思っているんだ」
「いえ、蒼伊様にとっては珍しいことかと思いまして」
確かに言われてみなくてもそうだった。
けれど物珍しいことだってある。
しかし、自然と嫌な感じはしなかった。恐らくはあの明輝とか言う少女も、毛色として私と同じ変わり者だからだろう。
「ふん、まあいい。どうだっていい。私は私なだけだ」
「私は蒼伊様に従います。この身この命は全て蒼伊様のために」
「やめろ! ああ、もう少し優しくなって欲しいな」
私は世鴉の主人として心底思った。
けれど今更言っても仕方がない。
人を変えることはそう簡単にはできないのだと、私の経験則から頭の中の思考回路が訴え掛けると、自然と窓の外の景色を見る。
「まあ、面白い女だったな」
私は不敵に笑みを浮かべる。
もしかして、私は楽しんでいるのだろうか?
真偽は定かではないが、リムジンは帰路へと向かうのだった。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)
ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。
また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。




