◇25 コスプレみたいなビジュアル
そんなに都合よく見つかるのかな~?
かな~かなかな~?
「って、ことがあったんだけど」
「えー、なにその子―。変な子だねー」
私は部活前の烈火と話していた。
烈火の手にはテニスラケットが握られていて、ボールを跳ね回して練習している。
けれどこの練習、意味あるのかな? そう思えるような技で、烈火は右腕を後ろに回して、
ボールを一切見ずにやり続けていた。
「烈火、芸でもやる気なの?」
「ん? しないけど、どうしたの?」
「あっ、そっか……それでね」
それ以上話を膨らませることはできない。
だって烈火がこの調子だもん。
私は上手く膨らませる間もなく、自分から膨らました内容を破裂させるんだ。
「“くるす”って所に行けってヒントを貰ったんだけど、“くるす”ってあそこだよね?」
「“くるす”? もしかして、来栖町のこと?」
「私はそうだと思うけど。まさか隣町な訳ないよね?」
「無い無い、ぜーったい無いでしょ」
私と烈火は盛大なフラグを立てた。
だけどフラグが回収されることはまず間違いなくない。
同じ名前の地名なんてたくさんあるんだから、私も烈火も信用していなかった。
だけど来栖なんて地名は珍しい。
ここ百年くらいの間に新しくできた地名だからだ。
と言うのも、私達が住んでいるこの美桜町も隣町の来栖町も、御鷹の元になった市とは無関係だからだ。
「でも行くんでしょー?」
「うん、一応ね。あっ、烈火は部活でしょ? ごめんね、部活前に」
「ううん、全然いいよ。んで、シャンベリーは?」
「それはこれから行くよ。私一人じゃ攻略できないから」
シャンベリーに行くためにもNightは絶対に必要だ。
私はそんな気しかせず、これから部活の烈火と別れる。
ただ一つ、烈火は私に声を掛けた。一回足を止める。
「Nightって、そんなに凄いのー?」
「うーん、凄い人じゃない人なんていないよ」
私は私独自の見解を披露した。
誰も傷付かない。だけど誰も救われない。
私の回答は本当に平凡で、烈火も「あはは、いつも通りだね」と笑うのだった。
徒歩で二十五分。
私は御鷹市の中、住んでいる美桜町の隣町へ向かう。
名前は来栖町。正直、全然共通点が無い変な町だった。
「とりあえず駅まで来たけど……」
私は最寄り駅の来栖駅にやって来た。
大きな広場になっていて、人通りもかなり多い。
それもその筈、御鷹市は発展しているんだ。
これだけ人が居てもおかしくは無く、何よりこの時間だと、学生が多かった。
「Nightって、私と年齢同じくらいに見えるけど……もしかして、童顔なだけとか?」
ヒントは場所と見た目だけ。それ以外にヒントは無い。
もしかしなくても、私が勝手に思い込んでいるだけで、ずっと年上とか年下の可能性がある。
そうなると結構失礼かも。もう一回会ったら謝らないとダメかも。
私はそう思うと、くまなく人の姿を追い掛ける。
「って言っても、そんな人がいたら目立つよね?」
考える間もない。目を凝らす必要もない。
なにせ、白髪にオッドアイの瞳。おまけに背だけがちょっと低め。
そんなお人形さんみたいな人、完全にコスプレみたいなビジュアルの子を見逃す方がおかしかった。
「でもいないから捜しているんだけど……やっぱり世界中何処かにいる人を決め撃ちで捜すなんて無理なのかな?」
いや、そんなの余り前だ。無理に決まっている。
そもそも見つかると思った方がおかしい。
私はバカみたいなことをした自分が恥ずかしくなった。
「か、帰ろう」
顔が真っ赤になり、湯気が出そうだった。
帰る訳でも無く、誰かを待つわけでもない。
あまりにも奇妙なことをしているせいか、目は合わないけど、通りかかる人の視線が痛々しい。
流石に耐えるのが辛い。そうなったので、私も諦めて帰ることにした。
「帰りにコンビニでお弁当買おう。今日はもうそれでいいよ……えっ?」
私は今日の晩御飯を決めた。
コンビニのお弁当、美味しいけど……ねっ。
分かる人には分かるようなことを頭に並べると、夕陽に照らされ、視界に映る人の髪が透明になった。
「えっ?」
いや、透明なんかじゃない。
髪の色は白髪で、しかも長い。腰丈まである。
それが歩く度に揺れると、フワッと巻き上がり、同時に私はぶつかった。
「「うわぁ!?」」
私は止まろうとした。だけど白髪の人も止まろうとして、お互いにぶつかる。
視界に入ったのは、背は私より少し低い少女。声もちょっとクールでNightと被る。
ブレザーを着ていて、私はここで学生だったと悟り、目利きは間違ってなかったと悟った。
「ごめんなさい! あの、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。くっ……私も悪いが、余所見をするな!」
「よ、余所見? 私、止まったけど?」
「私も止まった。ふん、まあいい。次は気を付けろよ」
なんだろう、この上から目線な子。
私は呆気にとられるも、少女は一切視線を合わせることは無く、スタスタと足早に立ち去ろうとする。
「あっ、待って!」
「ん? ……なんだ、私になんの用だ?」
「えっと、その……あれ?」
私は少女を立ち止まらせる。
声を掛けると足を止め、面倒そうに体を捻る。
踵を返し私の顔を見ると、そこに映ったのは赤と青の瞳。オッドアイって奴だ。
「綺麗な瞳、だね」
「はっ、一体なにを言って……あっ、お、おい!」
「ど、どうしたの?」
私は不意にそんな言葉を口にしてしまった。
本当は別のことを言いたかった。だけど、そこに浮かんだオッドアイに目を奪われてしまった。
普通に赤と青の瞳なんて現実で見たことない。後、綺麗でカッコいい。
私は口を開けて見惚れていたが、少女は逆に自分の目を覆う。
それから何故かハッとなった。
視線を下に向け、何かを探している。
それから私を怒鳴ると、ジリジリと詰め寄った。
「お前、私の目を見たな」
「み、見たけど?」
「この目を見て、綺麗な瞳とか言ったな」
「うん。赤と青の瞳なんて、凄い綺麗でしょ。それにカッコいい!」
私は本音を呟いた。
すると少女はギシッと歯ぎしりを立てると、私の足元を凝視する。
何か探しているのかな? 私も足下を見てみると、透明なフィルムみたいなものが落ちていた。
「なんだろう、コレ。うわぁ、真ん中が青い……もしかしてこれ、カラコン?」
「クソッ! やっぱり取れてたか。外れかけていたんだ……やったな」
少女は綺麗な白い髪をガシッと掴んでワシャワシャと搔き乱した。
相当苛立ってる? もしかしてカラコンはこの子の?
あんなに綺麗な瞳をしているのに勿体ない。そう思ったのも束の間、あんな特徴的な目をしていたら、きっと生き辛いんだろうな。この多様性の時代でも、そういう遺伝子的なものを気にしちゃうのは仕方がないかもしれない。
「チッ! 絡んで悪かったな」
「えっ。ううん、大丈夫だよ」
舌打ちされてしまった。それから何故か嫌そうに謝られる。
全然気持ち良くないアクションだけど、私は気を取り直す。
きっとこういう性格なんだ。私は諦めることにした。
「ふん、じゃあな」
「あっ、Nightちょっと待って!」
少女を見ていると、私の中で確信が生まれた。
この子はNightだ。誰が何と言おうとNightなんだ。
私はそう思い声を掛けると、少女は帰ろうとしていた足をピタリと止めた。
それから踵を返すと、髪を掻き上げ私のことを見つめる。
「お前は誰だ。どうして私のハンドルネームを知ってる」
「えっ? だって、オッドアイで白髪なんて普通いないでしょ?」
「うっ……お前な。いや、待てよ。その口調、その顔立ち、まさか……アキラか?」
「うん、立花明輝。約束通りちゃんと見つけたよ……それで、貴女の名前は?」
私はそう返す。するとNightは呆れてしまった。
隠していた目から手を放すと、口を開けてしまっている。
完全に呆けてしまっているようで、開口一番、私にこう言い返した。
「変わり者だな、お前は」
「そうかな? でも、今はそうかもね」
私もここはストレートに受け取った。
すると周りを行き交う人達の変な視線が私とNightを射抜く。
青春ごっこを繰り広げる女子高生。
そんな光景が浮かび上がると、私達は恥ずかしくなってしまった。
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