◇234 温泉が報酬?
恩を売って恩を買って……怖っ。
「それじゃあ、終わりですね」
とりあえず、依頼を無事に終えた。
これで、私達はようやく解放される。
色んな意味で大変だったけど、楽しかったのかな?
「ふぅ。それじゃあ、帰ろっか」
私は息を整えた。
スッと立ち上がって帰ろうとする。
これ以上、ここにいたらダメ。また面倒なことに巻き込まれるかもと思うと、速やかに帰りたくなった。
「待てっ!」
Nightが何故か止めた。
立ち上がろうとした私達は、みんなピタッと足を止める。
「どうしたの、Night?」
「まだなにかあるの?」
「当たり前だ。おい、クロユリ」
Nightは厳しい口調だった。
これまでのことを、完全に根に持っている。
怒りを膨らませると、逃げられないクロユリさんを問い詰めるように、鋭く言葉をぶつけた。
「報酬、忘れていないだろうな?」
「「「あっ!」」」
Nightのおかげで思い出した。
私達はまだ報酬を受け取っていない。
このままじゃ、報酬を受け取らずに無かったことにされてたよ。
「そうですね。報酬をまだ支払っていませんでしたね」
報酬を支払っていなかったことを思い出してくれた。
このままじゃ苦労したののタダ働きになっちゃう。正直ボランティアには絶対にしないと決めていたから、報酬を支払って貰わないと困る。
「報酬って、ちなみなんですか?」
私は漠然とした質問を投げ掛けた。
するとクロユリさんは本気で困った顔をする。
これは多分、嘘じゃない。
だけど私達は苦労した分、報酬を凄く期待した。
視線を全て浴びると、視線をユックリとずらす。
それでもクロユリさんが口を開いた瞬間、妙な間が生まれる。
その行動の違和感に気が付くと、黒いマントがヒラリと舞う。
「では……(うっ!?)」
クロユリさんが何かしようとした。
口を動かそうとしたタイミングで、何故かNightが自動拳銃を突き付ける。
「Nightなにしてるの!」
あまりにも一瞬の出来事で反応できなかった。
クロユリの額に拳銃の銃口が押し当てられている。
いつでも引き金を引ける。だけど本気で攻撃する意思がないみたいで、システムに異常は検知されない。
「どうされましたか、Nightさん?」
「お前、まさか報酬を支払わない気じゃないだろうな?」
Nightはクロユリさんの行動を疑っていた。
妙な間があった瞬間から、行動を決めていた。
実際、Nightの口から物騒な言葉が出ている。本当に信用していない。
「なに言ってるの、Night? クロユリさんはそんなこと……」
「しないと言い切れるのか?」
「あはは、信用無いよねー」
「本人の前で言ってやるな」
こんなことを言うと、失礼だとは思う。
けれどクロユリさんに信用はあまりない。
だって、凶悪な極悪スキルを持ってる。今だって、Nightの言い分が正しかったら、クロユリさんはスキルを使って私達を騙していたに違いない。
「確かに信用できませんよね」
クロユリさんは自覚していた。
何だろう。落ち込まれると、私達が悪いみたい。
「ですが今回は安心してください。報酬は用意していますよ」
「本当ですか?」
「ええ。報酬は……温泉はどうでしょうか?」
クロユリさんは溜めてからそう言った。
報酬は温泉……温泉!?
「温泉ですか?」
「はい。ここは温泉旅館ですよ。皆さんには大層お世話になったので、是非利用してください」
クロユリさんの言う通り、ここは温泉旅館。
つまり温泉が出ればちゃんとした温泉に入れる。
多分無料で使っていい。それが報酬みたいだ。
「温泉か……そんなもので」
「いや、待ってよNight」
Nightは否定的な反応を見せた。
だけどそれはNightだけ。
私達はちょっと違う。
「「「やった!」」」
Night以外の四人が喜んだ。
突然のことにNightは動揺する。
「どうしたんだ、お前達」
「だってようやく苦労が報われるんだよ」
「そうそうー。あーあ、疲れたー」
「温泉ですか、私は興味があります」
「そうよね。ゲームとはいえ、本物みたいなものよね。一体どんな感じかしら」
私達は喜んでいた。
だって温泉だよ? もう浴びたけど、そうじゃなくてちゃんと入れるんだよ?
もちろん本物じゃない。だけど例えゲームの中でも嬉しかった。
「と、言いたい所ですが……」
「「「ん?」」」
何だかクロユリさんの様子がおかしい。
急に雲行きが怪しくなると、クロユリさんはポツリと呟いた。
「先程おっしゃられたことが本当だとすれば、現在当館では温泉は出ませんよ」
「「「……えっ!?」」」
一気に急転直下した。
上がっていたテンションが下がっていくと、絶望感が襲う。
そんな中でもNightは冷静で、眉根を寄せていた。
「温泉が出ない……パイプを壊したせいか?」
「そうですね。実の所、本日も出ておりませんので」
「そうか……残念だが、ぬか喜びだったらしいな」
Nightは分かっていたみたいだ。
起こる様子も拗ねる様子もない。
完全に割り切っていて、悲しんでいるの私達だけだ。
「そんな! それじゃあ報酬は無しってこと?」
「いえ、その様な事には致しませんよ。温泉が再び出るようになった暁には、自由に当館の温泉浴場を利用していただいても構いませんので」
「今入りたかったんだけど?」
ベルの言う通り、本当は今温泉に入りたかった。
疲れを取って、ここまでの苦労を水に流したかった。
だけど叶わなくなっちゃうと、何だか凄く残念に思う。
「申し訳ございません、皆さん」
「……クロユリさんの性じゃないですよ。でも」
「はい、分かっていますよ」
結局私達のやったことが原因だ。
あのまま温泉を運ぶパイプでも用水路でも何でもいい。
壊れてなかったら、今頃ゲームの中とはいえ、本格的な温泉気分を味わえたのに。
とっても残念に思うけれど、自業自得だって言われたら仕方がなかった。
「今回は皆さんに助けていただきました。ですので次は、私達が助力させていただきますね」
クロユリさんは自信満々に言った。
確かに今度はちゃんと助けて貰わないと得しないよね。
Nightは「必ずだぞ」と念押しするも、私達はそれ所じゃない。
「はぁ……まぁいっか」
結局大変だったけど、一応楽しかった。
達成感はとんでもないけれど、虚しさも残っちゃった。
不思議な気持ちになってしまった私達は、とりあえずモミジヤに来て最初の依頼を無事じゃないけど片付けた。
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