◇233 温泉は出たけどね……あはは
笑えねぇよ……
「ってことになったんですけど……」
私達は、宿屋にやって来ていた。
相変わらずの古風な日本旅館風の建物。
その一室に通された私達は、クロユリさんと対面した。
「そうなのね」
流石に今回は、あの超凶悪スキル、【Say Yes】は使っていない。
それもそうだよね。使い所を間違えたらお終い。
何より私達は警戒していて、全員耳栓を付けていた。
おかげでほとんど会話が聞こえていない。
「それで、結果的には温泉が出るようになったのよね?」
「は、はい。結果的には、ですけど」
結果的には温泉は再び出るようになった。
つまりは源泉が復活したって訳。
別に枯れていた訳じゃないから、全然出るのは当たり前なんだけど……問題も起きた。
「代わりに、その……」
「どうしたのかしら? なにか言い辛いことでもあるの?」
「えっと……はい」
私達は口を閉ざした。
特に私とフェルノ、それから雷斬の三人は琴の顛末を知っている。
Nightとベルにも話したけれど、“まさか”って顔をされた。
「驚かないから、言ってみてくれないかしら?」
「本当に驚きませんか?」
そこは「怒らないから」だと思うんだけど。
だって、湯帖山の源泉は、他の場所とも共有で使っている。
つまり、湯帖山の問題は、そのまま周囲全体の問題にも直結するから……うん、言いたくないな。
「えっと、本当に聞きたいですか?」
「ええ、とても聞きたいわね」
何だろう、この妖艶な雰囲気が余計に怖く感じる。
私は口を閉ざしてしまうけれど、クロユリさんは、眉根を寄せた。
眉間に皺を寄せると、仕方がないのでスキルを使うことを決める。
「それじゃあ仕方がないわね。私がスキルを……」
クロユリさんはスキルを発動しようとした。
私達は咄嗟に耳に手を当てる。
耳栓を奥へと詰めた。ちょっと痛い。
「冗談よ」
全然冗談に聞こえないんだけど。
私達は擦り込み効果が効いていて、凄く嫌な思いをする。
こうなったら仕方がない。やけくそだ。
「実はその、温泉は出たんですけど、温泉が運ばれなくなっちゃって」
「……ん?」
クロユリさんは首を捻る。
一瞬理解しようとしたけれど、理解が追い付かない。
何か勘違いしているのかもしれないと、頭の中で錯綜させた。
「つまりだ。源泉から温泉は湧くようになった」
「代わりにですが、温泉が流れなくなってしまったんです」
「まっ、完全に流れなくなった訳じゃないわよ」
「あはは、地形が変わっちゃったんだよねー。あはは、はは!」
私達は、全員で一つの言葉を紡いだ。
クロユリさんは余計に悩まされる。
額を指で摘まむと、「んん?」と納得いかない様子だ。
「えっと、つまりはどういう意味でしょうか?」
「こ、言葉通りです」
「言葉通り? 温泉は湧いたんですよね」
「はい!」
それはもう、完璧に源泉は復活した。
説明した通り、爆弾を使って結晶華を破壊した。
おかげで温泉が帰って来てくれると、毎日のように間欠泉が湧く。
「ですが、温泉が流れなくなったんですか?」
「そうです」
「ううぅ……何故そうなるのですか?」
頭が痛い話になって来た。
クロユリさんも冷静じゃなくなると、頭を押さえたまま動けない。
そうだよね、分かるよ。もっと言えば私達は実際にこの目で確かめて来たんだ。
「単純な話だ。爆弾を使ったこと、突然温泉が湧いたこと、両方が原因で周囲の地形を歪ませてしまった」
「そのせいで、本当なら温泉を各地に運んでいた筈のパイプが歪んじゃったのよね」
説明不足は否めないけれど、事実は事実。
Nightの言う通り、爆弾を使ったことと、今まで結晶華の影響で固められていた温泉が、一気に噴き出した影響の二つ。それが重なった結果、地形を歪ませちゃった。
もっと言えば、温泉を運んでいたパイプを壊しちゃった。
そのせいで、流れはするけれど、満足には行かなくなった。
これが今回最大の問題だった。
「えっ?」
「もちろん調べた訳じゃないですよ! ただ……」
「崖の下を流れる水量に変化が起きていたからな。恐らくは破損したんだろう」
もちろん崖の下まで下りて調べた訳じゃない。
だけど、Nightの言うことが正しいなら、崖の下の水量が変化したのも分かる。
実際、私達が温泉に飲み込まれそうになったのも事実。
きっとパイプが破損していて、もう使い物にならないんだ。
「つまりは、温泉が今まで通りの水量で出ないという訳ですか?」
「そう言うことになるな」
「は、はい」
絶対に怒られる。そんなの分かっている。
だけどコレが私達に出来る最善だった。
だから文句があるならモミジヤを管理している人達に言って欲しい。
私達は責任逃れを始めると、あまりにもみすぼらしかった。
「もう少し、方法は無かったのですか?」
「無かった訳じゃないが、どのみちだろ」
「どのみち、ですか?」
クロユリさんは当然のことを言った。
あまりにも一般論で、私達は小さくなる。
だけどNightだけはハッキリとした物言いだ。
「ああ。実際にあの状況をその目で見れば、誰だって困惑する筈だ。私達はよくやった。結果論を一方的に突き付ければ、蚊帳の外で傍観者を決め込んでいた奴らに文句を言われる筋合いはない。言いたければ勝手に言え。お前達にできる方法が、世間の一般論だと思うなよ」
Nightは全方位を敵に回す発言をした。
まぁ、一つだけ言えるのは、実際にできる手段は人それぞれだ。
それが正しいのか正しくないのかは本人が決めること。
世間が文句を言っても、そんなの仕方がないことだから、結局終わったことを受け入れるしかないんだもん。
「Night、その言い方はマズいよ」
「黙れ、アキラ。こっちも苛立っているんだ」
Nightは腹を立てていた。
きっとたくさん歩いたせいで、足が痛いんだ。
昨日の疲れがまだ続いているなんて……うーん、普段から体力が無いだけだろうけど、完全にクロユリさんはとばっちりだよね。これ、怒ってるだろうな。
「そうですね。確かに、なにが正しいのかは分かりません。それに、これは私の落ち度でもあります」
「クロユリさん」
「落ち度って、気に食わないわね」
私はクロユリさんの顔を見た。
逆にベルは苛立った様子で、言葉に牙を剥く。
「申し訳ございませんでした。この街のために力を貸して頂き、誠にありがとうございました」
「えっと、その……」
「お疲れさまでした、継ぎ接ぎの絆の皆さん。本当にありがとうございました」
何だろう、素直には喜べない。
だって私達がやったことって、何かを得るために何かを失った。
結局は等価交換みたいな感じで、寧ろ状況が悪化したかもしれない。
それでも私達のしたことに責任を持って、それを受け入れること、それしかできない虚しさを、私達は何故かゲームって言う娯楽の中で教え込まれるのだった。
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