◇232 結局びしょ濡れ
熱いし寒いし本当散々。
「ううっ、最悪だよ」
私達はびしょ濡れになっていた。
何とか噴き出た温泉の勢いから逃れた私達。
とりあえず安全圏まで逃げたけれど、全身がヒリヒリしていて痛い。おまけに濡れていて重たい。
「でも面白かったねー」
「はい。皆さんが無事でなによりです」
確かに普通だと絶対に味わえない体験だった。
普通に考えたら、百%死ぬ筈だった。
だけどそれを免れたのは、ここがゲームだからだ。
それに何より、三人とも無事だった。
私の判断は間違っていたかもしれない。
それでも助かっただけ御の字だって思うしかない。
「みんなごめんね、危険な目に遭わせちゃって」
私は二人に謝った。
流石に私の想像力が足りなかったせいで、こんな目に遭ったんだ。
きっと怒っている筈。私はシュンとなって、肩を落とす。
「なに言ってるのさー、全然いいよー」
「はい。間違いは誰にでもありますから」
「で、でも……」
二人共優しかった。
落ち込む私を支えてくれると、笑顔で答えてくれる。
それが眩しくて、より一層私は自分が許せない。
「でもではありませんよ。皆さんが無事、それでいい筈です」
「そうそう。それにさー、見てよー」
フェルノは私の背中を押した。
少し高い位置から見下ろしている。
すると源泉が元通り、湯の華に覆われていなかった。
「源泉が、元通りになってる?」
「あはは、そうだねー」
「はい。コレもアキラさんの想像力の賜物です。誇るべきです。私達は、それに自分の意志で付き合っただけですから、何も気負う必要はありませんよ」
雷斬は私を必死に励ましてくれる。何だろう、凄く嬉しいけど、凄く悲しい。
確かに私の無茶に付き合わせちゃった。それで二人を危険な目に遭わせちゃったけれど、なんてことない顔をされてしまう。
どうしてだろう。涙が溢れて情けなくなる。
「ごめんね、フェルノ、雷斬」
「あはは、泣かなくてもいいってばー」
「そうですよ、アキラさん。顔を上げて、涙を拭いて、Nightさんとベルの下に帰りましょう」
フェルノと雷斬は全く責めなかった。
凄く寛容的で、私のことを慰めてくれる。
そんな温かい炎と雷を浴びると、私は自信を間違いを見つめつつも、正しさを取り戻せた。
「う、うん」
私は何だか成長できた気がする。
これも二人が手伝ってくれたおかげだ。
私は前を向くと、意識を切り替えて、首を縦に振るのだった。
「で、この有様か」
「「「うん」」」
私達がびしょ濡れのまま下山した。
何とか温泉は避けながら、登山の時よりも二倍以上時間を掛けた。
とにかく安全を心掛けたんだけど、先に下山し終えていたNightとベルにとっては、全然安全でもない。寧ろ掛け離れていた。
「本当、なにがあったのよ?」
「ですので、温泉の流れが強くて、飲み込まれてしまったんです」
「それは聞いたわ。でも意味が分からないの!」
私達はちゃんと説明した。
説明したつもりなんだけど、状況が状況だけに上手く伝わらない。
ましてやベルは困惑していて、何度も聞き返していた。
「あはは、結晶華の中に、アレだけ温泉が入ってるなんて知らなかったなー」
「う、うん。ちょっと引っ張ったら割れちゃって」
正直、間欠泉なんだから、温泉の湯は蒸発しきっていると思ってた。
だけど中は空洞で、時間経過で間欠泉が出続けていた。
そのせいかな? 内側も脆くて、それを一気に力を加えたせいで、結晶華が砕け散った。
本当、ウインチのパワーだけでアレは酷いよ。
「はぁ。どうせそんな所だと思っていた」
Nightは最初から分かっていたみたい。
それならもっと強めに止めてくれればよかったのに。
「どうして止めてくれなかったの?」
「可能性や発想力を遮ると、また怒られるからな」
いつもいつもNightの作戦は現実味が強過ぎる。
だから面白くなくて、毎回ムッとした顔をしていた。
だからこそ、今回は自由度を上げてくれたみたい。
でも自由な発想過ぎて、失敗しちゃったんだよね。本末転倒ってこと?
「でも、源泉は元通りになったよ!」
「その代わりに地形が変化したんだろ?」
「うっ……」
確かに源泉は無事に元通り。
だけど周囲の地形はグニャグニャに変形しちゃった。
そのせいかな? 結果的には上手く言ったけど、全てが丸く収まった訳じゃないんだよね。
「あはは、これって成功?」
「失敗とも言えないでしょ?」
「そうですね。ですが目的は果たされましたよ」
「果たした割には、被害が大きいがな」
成功なのかな? それとも失敗なのかな?
みんなはどう思う? 私は漠然とした。
個人的には一応目的は果たせたのかな? でも全然誇れない。
胸を張れなくて、正直クロユリさんに報告するのが怖い。
「なんだろう、報告したくないね」
「そうだな……そもそも、どうして爆弾を使ったんだ?」
Nightはそこに帰着した。
爆弾を使わなかったら、こんな目には遭っていない。
そんな訳ないけれど、少しでも被害は減らせたはずだと言いたそうにする。
「それはNightが渡したからで」
「正しい使い方をしたのか?」
「た、正しいよ! ちゃんと結晶華を壊したから」
私はついムキになっちゃった。
責任の押し付け合い何てみっともないよね。
でも私だって頑張ったんだから仕方ないよと割り切る。
「お前、安全性を考慮しなかったのか?」
「えっ?」
「それに、私が作ったものとはいえ、威力には制限を掛けていた筈だ。この規模の火薬があれば、結晶華を“内側”から破壊することができる。そう設定していたんだぞ」
Nightはガチで萎えていた。おまけに厳しく説教をする。
確かにNightの作るものは正確で、正しく使えば間違いない。
だけど正しく使わなかったからこうなったんだ。
私は非難を受ける中、それでも違和感を覚えた。
だけど私の耳はシッカリと聞き逃していない。
今、凄く大事なキーワードを言った気がする。
「ちょっと待って、Night。今、内側って言った?」
「当たり前だ。それが正しい使い方だ。そうでもしなければ、被害が外にも出るだろ」
Nightはマジレスをした。
それを言われたらお終いだけど、確かに爆弾を使う時は、近くに誰も居ない。
そもそも居ないことを確認してから使うもので、大体破壊するものの内側に仕込んで、外側から安全に爆破させる……あれ?
「私、やってなかった?」
「あはは、そうだねー」
「確かに投げていましたが……」
フェルノと雷斬の流れ弾が私に当たる。
確かに咄嗟に爆弾を投げたのは私。
でもああなるとは思わなかった……いや、少し考えれば分かったとか?
「それじゃあ自業自得ってこと!?」
「そうなるな」
私は自分のせいだと気が付かされる。
頭を抱え、困惑してしまうと、言葉も出て来ない。
原因を作ったのは私、それだけでオーバーキルだよ。
「ど、ど、ど、どうしよう!」
「どうしようもないだろ」
「そ、そんな……」
あたふたしてしまう私に、Nightは慰めの一つも無い。
寧ろ完全に割り切っていた。
薄情だよ! とは流石に言えない。だって大事だから。
「とは言え、なにもお咎めも無しだ。それで充分だろ」
「そ、そうかもしれないけど……ううっ」
確かにペナルティは付けられていない。
ましてや警察NPCが動いている訳でもない。
つまり仕様の範疇になるみたいだけど、それでも私は傷付いた。
「はぁー、散々だったな」
「あはは、そうだね」
久々に本当の意味で散々を味わった。
まさかこんな目に遭うなんて信じたくなかった。
だけど仕方がない。ちゃんと説明しよう。
そう思った私達は、今日の所は帰ることにした。
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