◇231 水量に飲み込まれて
お、お、お、温泉がァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
「こ、こうなったら、一か八か!」
私は手にしている爆弾を握りしめていた。
正直、こんなもの使いたくはない。
だけど使わないとマズそう。なんでそう思ったのかは分からないけれど、この機会を逃したら、結晶華が壊しきれない気がしたんだ。
「みんな、これ投げるよ!」
私はフェルノと雷斬にも促し掛けた。
私の奇行を見て、きっと止めてくれる筈。
そう思ったのも矢先、二人は止めてくれない。
「分かりました!」
「いいよいいよ、やっちゃえー」
「どうして止めないの!?」
二人もこの状況をマズいと思っていた。
私達は熱々の極熱な温泉を浴びている。
もう手段がないから、Nightの作ってくれた爆弾に頼ることになった。
「えっと、えっと……確かインベントリの中に、あ、あった!」
私はインベントリの中からマッチを取り出した。
これ使ってもいいのかな? そもそもこの状況で使えるのかな?
正直びしょ濡れで使えないかもしれないけれど、とにかくやってみた。
ボワッ!
私は勢いよくマッチ棒を擦り付けた。
すると摩擦で先端に火が点いてくれる。
「やった、付いた。導火線に付けて……えいっ!」
私は爆弾の導火線に火を灯した。
バチッ! と導火線に火が蠢き出した。
ポイッと腕を振るい上げると、私は結晶華目掛けて放り投げる。
「これで上手く行けば……って、上手く行かないよね?」
私は正直不安で一杯だった。
上手く行く確率がもの凄く低い気がする。
それでも頼ってしまうと、爆弾は結晶華に触れた瞬間……バン! となった。
パキッ! ボー――――――――――――――ン!!!
けたたましい轟音が鳴り響いた。
私達は耳を塞いだけれど、それよりも先に大変なことになった。
結晶華の表面が弾け飛んで、私達に襲い掛かる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「な、なになに、なにこれー。あははー」
「これは……少々マズいですね」
私達は身動きが取れなかった。
温泉に足下を取られて、弾け飛んだ結晶華が肌を刺す。
グサリグサリとガラス片のように飛び散ると、HPがこのタイミングで大きく削れた。
「痛い!」
「皆さん、できる限り結晶華から離れてください」
「離れるって言われても……」
「身動きが取れないよー」
私達はみんな、温泉に足を取られていた。
正直、水量に気圧されて流されてしまいそう。
地面から足が離れている。このままじゃ、何処かに連れて行かれちゃうかもしれない。
おまけに何も対応できない。絶対にミスったって分かった。
「ごめんね、みんな。こんなこと……」
「大丈夫ですよ、アキラさん」
「そうだよー。それよりさー」
「どうしよう、この状況で生き残るには」
結晶華がドンドン崩れる。
この調子なら、確実に結晶華は無くなって、源泉は復活する。
それはいいんだけど、ドンドン地形が抉れている気がした。私達も、HPが削れて、熱さが火傷を通り越して、もう慣れ切ってしまいそうだった。
「みんな、スキルを使って!」
私は普通のことを言った。
原に底から声を上げると、フェルノと雷斬の視線が飛ぶ。
「「スキルー?」ですか?」
「うん。みんな、とりあえずこの状況をなんとかしよ!」
私は自分が招いた癖に、処理が余りにも雑だった。
もちろんそんなこと分かっている。非難轟々も知ってる。
本当に。想像力が足りてなかった。
私は自分を呪ったけれど、二人は優しかった。
「OK、じゃあそうしよーっと。【吸炎竜化】!」
フェルノはニヤリと笑うと、早速種族スキルを発動。
【吸炎竜化】を使うと、全身に竜の鎧を纏う。
だけど今回は少し違う。背中から生えた翼をはためかせると、一気に空へと舞い上がった。
「えっ、フェルノが飛んでる!?」
「こっちはドラゴンだよー。飛べるよー」
そんなの知らなかったんだけど。
いや、フェルノが突っ込んでパンチするから、全然気にしてなかった。
全然慣れていないみたいで、凄く不安な飛び方だけど、ちゃんと空に逃げていた。
「ず、ズルい」
「すみません、アキラさん。私も空に逃げますね」
私はズルいと思った。だけど雷斬も申し訳なさそうにする。
バチバチと全身に電気を纏うと、地面を蹴った。
水流の圧力何て関係ない。雷斬は空へと突っ切った。
「えっ、雷斬も空に逃げちゃうの!?」
雷斬は【雷鳴】を呼んだ。
全身を雷に変えると、速やかに危機を脱する。
圧倒的な破壊力で温泉の水圧を突き破り、速度を味方にしてもう見えない。
「それじゃあ、私だけ?」
私には空を自由に飛ぶような、カッコいいスキルは持っていない。
だけどこの状況、私は“無敵”になるスキルを持っている。
今こそそれを使う時だ。
「【キメラハント】+【幽体化】」
私は身体が全身飲み込まれる瞬間、スキルを発動した。
究極の無敵能力、【幽体化】。
体を幽霊にすることで、あらゆる物理攻撃を無効にできる。
どれだけ熱くても、どれだけ勢いが強くても、この状態になったら、私は無敵。
何も怖くない状態で、私は温泉の中に沈んでいた。
「あー、でも。この状態は……ねっ」
確かにこの状態は無敵。
あらゆる抵抗が存在しない完全な自由。
そのせいかな? 私は温泉の中に沈む。そう、ドンドン沈む。
「息をする必要がないからいいんだけど、なんだろう……変な感覚」
【幽体化】を使った影響。何処となく普通じゃない気がした。
意識が薄れていくって言うよりも、切り離されていくのかな?
あまりにも心地よ過ぎてフワフワしそうになる私の意識に、聞き馴染んだ声が聞こえた。
「アキラさん! 聞こえていますか!?」
温泉の中で雷斬の声が聞こえた。
一体なんだろうと思って水面から顔を出す。
すると高台の上に、先に逃げていた烈火と雷斬の姿がある。
「アキラー、こっちは安全みたいだよー」
「アキラさん。姿は見えませんが生きていますよね。できればこちらに来ていただけますか?」
二人が私のことを呼んでいた。
確かに高台の上の方には温泉が到達してない。
よかった、助かるかも。私は胸を撫で下ろすと、コクリと頷いた。
「うん、すぐ行くね」
返事を返しても二人の耳には届かない。
だって私の姿は見えていないし、声も聞こえない。
これが【幽体化】のデメリットなんだよね。今の私は完全に幽霊で、無敵だけど誰からも認知されない。一人孤独に温泉の中を悠々と移動し、私は高台に向かった。
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