◇230 温泉が噴き出たぞ!
アキラさん、絶対に使ってはいけない奥の手に出る。
「アイツら、本当に上手く行くのか?」
少女=Nightは悩んでいました。
情けない格好ではあるけれど、ベルに背負われた状態で考え込みます。
「さぁ、上手く行かなかったら、そのまま逃げて来るでしょ」
ベルはというと、アッサリしていました。
実際、上手く行かなければ逃げてしまえばいい。
誰も責めない。それは周知の事実です。
「それもそうだな」
「そうよ。それよりNight、本当体力の“たの字”くらいは鍛えた方がいいわよ」
Nightはベルの言い分に納得を示しました。
けれどその後に、追い打ちを放たれてしまいます。
その瞬間、グサリと胸を射抜かれると、ついムカついてしまいました。
「大きなお世話だ」
とは言え、何も言い返せないからこそ、口が尖ってしまったようです。
実際、体力が無いのは事実のようです。そのせいか、ベルにずっと背負われていました。
「大きなお世話じゃないわ。本当に世話を焼いてるのよ」
「うるさい。黙れ」
「いいえ、黙らないわよ。だって本当のことだからね」
尖った言葉がナイフのように切り裂きます。
どちらも一歩も譲らない。なんとも滑稽な人間の姿です。
私はそんな二人の口喧嘩を見守りつつも、一つの情報として記録しました。
「あれ、倒れない?」
私達は苦戦していた。
ウインチのパワーが足りないのかな? そもそも現実的に無理なのかな?
どちらにしても、結晶華が倒れる気配の一つも見えない。
「なんでだろう? 全然倒れないね」
「うーん、もっと引っ張ってみる?」
全然倒れる気配がない。ここは仕方がないからもう少し強く引っ張る。
ウインチだけじゃなくて、フェルノも参戦する。
その瞬間、嫌な音が聞こえた。
ピキッ!
今、変な音したよね? ピキッって言ったよね?
私は自分の耳を疑いそうになるけれど、そんなこと思う暇もない。
フェルノはウインチと力を合わせ、無理やりワイヤーを引っ張った。
「ダメですフェルノさん。止まってください!」
「えっ?」
雷斬は咄嗟に叫んだ。
やっぱりあの音は嘘じゃなかったんだ。
私は凄く嫌な予感がした。だけどもう遅かった。
「な、なに?」
フェルノが止まった瞬間。ワイヤーがスッと緩んだ。
加わっていた力が抜けてしまうと、ワイヤーが外れそうになる。
それを皮切りに、結晶華の一部が砕けた。
バーン!
表面の炭酸カルシウムが弾け飛ぶ。
湯の花が飛び散ると、中から温かいお湯が噴き出た。
私達に襲い掛かると、空気に触れて冷めていない。
「あ、熱い!」
「これは、温泉でしょうか?」
「えっ、それじゃあ私達成功したのー。やったー」
火傷するくらい熱かった。
だけど無事に温泉が出たのはいいことで、これで源泉も元通り。
私達のやったことは無駄じゃなかった。これでNight達をぎゃふんと言わせられる……そんなことを言っている暇、流石に無かった。
プシュ――――――――――――――!!!
勢いよく結晶華の中から温泉が噴き出る。
その度に鈍い嫌な音が聞こえていた。
私は怖くなると、一歩ずつ後退りをする。
「ね、ねぇ、コレってヤバいよね?」
流石にヤバさが伝わってしまった。
何だか手遅れになりそうなので、ちょっとずつだけど離れておく。
すると雷斬もまさかのフェルノでさえ、少し慄いていた。
「そ、そうですね」
「あ、あはは、ははは、逃げよっかー」
私達はジリジリと後退した。
そう決めた瞬間だった。
結晶華の表面が完全に弾け飛び、大量の温泉が私達を襲った。
バッサァ―――――――――――――――ン!!!
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
大量の温泉が凄まじい水圧の勢いを伴って押し寄せる。
私達は逃げることもできない。一気に押し寄せた温泉の波が、私達を襲う。
足を簡単に取られると、気が付けば周囲の地形が変化していく。
「な、なに、これ!?」
「凄まじい水圧ですね」
「身動きが取れないよー」
気が付けば源泉の中だけでは留まっていない。
ましてや私達の立っている辺りまで温泉が流れている。
普通に熱い。火傷しそうな暗いって言うより、マジで火傷する。
「あ、熱い! 熱い熱い熱い熱い、熱いよー!」
私は足をバタバタさせた。
あまりの熱さに痛みが伴う。
だけど逃げようにも足がもつれた。水圧に飲み込まれると、膝丈まで温泉が溢れる。
「ど、どうして? どうして温泉が逃げないの?」
ここは別に密閉空間でもない。
部屋の中でもないのに、温泉が全然逃げてくれない。
一体どれだけの量の温泉が、結晶華の中に閉じ込められていたんだろう。
私はふと考えるけれど、そんなこと言っていられなかった。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないよー」
「ううっ、こんなことになるなら、なにもしない方がよかったのかな?」
今更行っても遅い。結局これは私が悪い。
私が招いたことなんだから仕方がなくて、ムッと表情が硬くなる。
それと同時に、ふと頭の中に何故か最低な想像が浮かんだ。
「もしかして、このまま水に押し潰される?」
つまり洗濯機ってこと?
私は自分が洗濯物の気分になった。
だけどそんなに甘くない。全身が熱くて痛いし、おまけにいつまでも水面に顔を出すなんて無理。私は頭の中がグルグル回転すると、意識が切り替わり始めた。
「このまま結晶華を倒してしまった方がいいのでしょうか?」
「いいよー、もう関係ないよー」
「ですが、それで万が一、より一層被害が拡大してしまえば……」
「そんなの気にしてる場合かなー?」
雷斬もフェルノも試行を巡らせる。
だけど何が正しいのかなんて分からない。
ここは如何したらいいの? 自問自答すると、パニックになる。
「ううっ、こんな時なにか……あっ!」
私は意識を切り替えた。
するとパッと閃いた。
だけど絶対に使いたくない。
「なにかあるのー?」
「できることがあるんですか、アキラさん?」
フェルノと雷斬も期待している。
流石にこの水量とこの波。
全身が痛すぎてもう辛い。
「えっと、その……コレ、使ってみる?」
私はNightから爆弾を渡されていた。
まさか本当に使う時が来るなんて。
いやいや、まだ早いよね? でも、使うしかない……気がする。
「えっ、ど、どうしよう、やってみるしかないのかな?」
人間追い詰められたら何でもする。
今がその時かもしれない。
絶対に使い方違う。正しくない使い方。だけどやるしかないって気持ちになると、私は覚悟を決めていた……のかも?
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