◇227 絶対に無理な提案
はたして何を考えていたのか?
「とりあえず、一旦保留ってことにしよ。ねっ」
私はNightを落ち着かせた。
一度爆弾は仕舞って貰う。
Nightは不服そうにインベントリに戻したけれど、一安心も束の間だった。
「ねぇ、それじゃあ壊してもいいー?」
「ダメだよ、フェルノ。危ないでしょ?」
フェルノは飽きていた。
そうだよね。ただジッとしているのは性分に合わないもんね。
動いていない時のフェルノは本当に退屈そうで、まさしく回遊魚だった。
「アキラさん、どうしましょうか?」
「どうしましょうかって言われても……」
正直困ってしまった。
何せ目の前の結晶華を放置していても、ろくなことがない。
とは言え、壊す必要は別にないから、やってもやらなくても変わらない。
けれどクロユリさんがまた変にスキルを使ってきたらと思うと、ここは最大限の恩を売って置いた方が絶対にいい。そう思うと、私は色々検討した。
「壊すしかない……訳じゃないけど」
「それじゃあどうするのよ?」
「……あっ、倒すのはどう!」
私はふと思い出した。
それはNightが持っているワイヤーで、かなり丈夫な代物だった。
だからソレを上手く使ってみる提案をした。
「倒す、だと?」
「そうだよ。ほら、こんなに硬いんだよ? 爆発させて壊すよりも、横倒しにした方が絶対にいいよね?」
私は自分の想像力に自信を持った。
単純なことだけど、このままにして置く訳にも行かない。
かと言って、硫化水素が漂っている危険地帯で、直接爆発させるよりは絶対にいい気がした。
「具体的な策は?」
「作戦って程じゃないけどね。Night、ワイヤーってあったよね?」
「ああ、今も持っているぞ」
インベントリから取り出したのは大量のワイヤー。
万が一に備えて、大量の在庫を抱えていたみたい。
あまりの予備数に慄くけれど、これだけあれば充分だ。
「まさかとは思うが、これを巻き付ける気か?」
「そうだよ!」
「やっぱりか……あのな」
待って、否定するのは待ってよNight。
私はスッと右手を前に突き出した。
きっとNightの推察力なら、私の想像している予想図なんて、簡単に見切っちゃうんだ。
「待ってよNight。ワイヤーを巻き付けるだけじゃダメなんでしょ?」
「当り前だ。お前の考えていることは、人力で結晶華を倒す。そんなバカ気た妄想だろ!」
「うっ……それは、その」
全部言い当てられた。確かに私の考えていることはまさにそれだ。
結晶華を壊すなんて真似は危ない。だけど倒すのは如何かな?
極力安全で、ユックリ倒せばきっと上手く行くはず。
そのためにワイヤーをグルリと巻いて、後は人力で倒す。
って言っても相当人数が必要なのは分かっている。
私も破綻しているのは大概だったけど、まだ諦めちゃダメだ。
「だ、大丈夫だよ。ほら、ウインチがあるでしょ?」
「ウインチ?」
フェルノが首を捻るのも仕方がない。
普通に生活している上で、口にすることは無い名前だもの。
要するに、ワイヤーを巻き取る道具だ。
「確かに使えはするが、パワーが足りないだろ」
「ううっ、そうだよね」
私は渾身の発想を見せつけた。
けれどNightの前では想像通りらしい。
足りないパワーを補えるとは思っていたけれど、全てはNight頼み。
ウインチのパワー不足が響くみたいで、それもそうだよねって諦める……のは早いよね!
「あっ、待ってよ。そう言えば思い出したよ!」
「なにを思い出したのよ?」
「パワーが足りない分を補う方法」
私はふと思い出したことがある。
もちろんお母さんから教えて貰った知識だ。
いつか使える日が来るとは思っていなかったけれど、意識を切り替えたことで、私の記憶の本棚から引き出された。
「なにをするの? もしかして、ウインチを増やしまくるってこと?」
「悪いが、それは無理だぞ」
ベルの言い分に、Nightは速攻で否定する。
流石にNightのワンマンプレーだと無理も甚だしい。
不可能の前に物理的に無理。Nightの総HPが一体何日分必要なのかって話になった。
「その必要もないよ」
「ん?」
「「「どういうこと」です?」よ」
私の発想はまだ止まらない。
これも簡単なことだけど、実際にやってみるにしては難しい。
そのせいかな? 少しだけ自信は無いけれど、頑張って説明した。
「あのね。えっと、倒れやすくしておくのはどう?」
「それはつまり……」
「受け口と追い口だな」
えっと、なにそれ? 初めて聞く言葉に私はポカンとする。
もちろん、フェルノも全然分かっていない。
ベルも専門外だからか、少し首を捻るものの、Nightは詳しそうだ。
流石の知識力に、私達は頼った。
「Night、お願い」
「お願いするな」
私は説明ができないから、いつも通りNightに頼った。
すると面倒そうな顔を浮かべる。
だけど溜息を一つ付き、仕方がなさそうに答えてくれた。
「受け口と追い口は、所謂木の伐採に使うものだ」
「木の伐採?」
「そうだ。受け口は木を倒したい方向に作る、くの字型の切り込みだ。追い口は受け口とは反対方向に水平に入れた切り込みだ。そうすることで、木を安全に狙った方向へ倒すことができるようになる、非常に一般的な伐採方法だな」
うん、絶対に普通に生きていく上で、必要のない知識だった。
だけど受け口と追い口は、知っていても損じゃない。
だってテレビとかでもそう言う番組偶にある。アレって、そう言うことだったんだと、私は改めて知った。
「えっ、それを試すつもり?」
「バカ気ているな」
ベルとNightの言い分はとにかく正しい。
実際、私が考えたのは、あくまでも木を伐採するときの方法。
そんな無茶が通用する保証は何処にもないんだよね。
「だ、だよね」
「はぁ。……けどやるしかないのよね?」
私はこんなバカみたいな提案するんじゃなかったって思った。
みんな否定的になると思ったからだ。
だけどあのベルが溜息を置きつつも、なんと賛成してくれる。
「分かりました。やってみましょうか」
「そうだよー。このままなにもしないのつまんなーい」
雷斬とフェルノは寛容だった。
私の突飛な提案に乗じてくれる。
嬉しくなった私は、気持ちが潤んだ。
「みんな……ありがとう」
「おい、勝手に進行するな」
「Night、とりあえずやってみようよ!」
私はみんなにお願いした。
するとNightがボヤく。
「はぁ……結局、疲れるのは私だけか」
「ごめんね、Night」
「いや、別にいい。だが、これをやったら私は動けないぞ」
「ううっ……それは困るけど」
確かにNightにだって限界はある。
きっとたくさんの道具を用意したら、Nightはもう動けない。
だけどとりあえずやってみることになった。それでいいのかな、とは正直思ったけど、流石に言えなかった。
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