◇222 湯帖山
ここも激ヤバなダンジョン? じゃないけど、ヤバい場所。
私達は登山をしていた。
とは言え、全然高い山じゃない。
この間の星見山に比べたら、その三分の一以下だ。
だけど視界がもの凄く悪い。
煙が霧のように出ていて、私達は足下に注意しながら、岩肌沿いに面した手すりに手を掛けていた。
「もう少しでゲートだよね?」
私がポツリと呟く。
するといつものNightではなく、寧ろNightに肩を貸していた雷斬が頷いてくれる。
「はい。そのようです」
「……Night、大丈夫?」
「ああ、ああ……ああ」
この間もそうだったけど、完全にNightはダウンしていた。
もう顔色からしてかなりピンチ。
気持ち悪そうにしていると、体力の無さを痛感した。
「あっ、アキラ。あれ見てよー」
そう言うと、フェルノが指を指している。
視線の先を見ると、何やら黒くなった門が見えた。
柵のように立っているけれど、多分あれがゲートだ。
「本当に真っ黒ね」
「はぁはぁ……硫化水素……が原因で……硫化鉄……したんだろうな」
「Nightさん、気を確かに持ってください」
Night曰く、参加したから黒くなったらしい。
科学って面白いけど、難しいな。
私は小学生みたいなことを思うと、ゲートの前までやって来た。
「えっと……湯……読めない」
見つけたのはゲートに設置された看板だ。
けれどこれもまた硫化鉄に飲み込まれている。
そのせいかな? 完全に腐食していて、文字を読むことができない。
「湯帖山でしょ? 確かここって」
ベルはポツリ口にした。
確かに私達が登って来たのは、湯帖山。
シッカリとクロユリさんから鍵だって預かって来たんだ。
間違いない筈で、私はインベントリの中から、板状の鍵を取り出す。
「普段は閉っているんだね」
「当然だろ……勝手に、出入りされたら……危険だからな」
Nightが頑張って声を出していた。
だけど正直もう辛そうだ。
この霧がよくないのかな? 私はNightに駆け寄った。
「Night、大丈夫?」
「大丈夫じゃないが……そうだな」
「そうだなって……この霧がよくないのかな?」
私はふと気になってしまった。
もしかすると、この霧も一つに原因かもしれない。
その予想は正しかったみたいで、Nightは如何にもな物をインベントリから取り出す。
「当然だ。温泉があると言うことは、少なからず硫黄や硫化水素の類が出ている筈だ」
「出ている筈って……でも、凄く危険って訳じゃないでしょ?」
「ある程度は換気が行き届いて散っている筈だ。とはいえ、念には念を入れるぞ」
人数分取り出されたのは、流石に見たことがあるもの。
手にしてみると、普通に重たい。
ズッシリとした重みが、両腕にシッカリと伝わった。
「こ、これなに?」
「ガスマスクだ」
「「「ガスマスク!?」」」
流石に私だけじゃなかった。
フェルノとベルも驚くと、手渡されたガスマスクを凝視する。
こんなものまで出されたら、ファンタジー感が完全に〇になる。
もはやSFと言うよりも、現実の延長線上。戻された感が、凄く伝わった。
「こんなものまであるんだ」
「作った」
「作った!?」
やっぱりNightが作ったものだった。
通りでシッカリとした作りになっている。
色々と納得するけれど、こんな物がある理由が分からない。
「どうしてこんなの作ったの?」
「万が一のためだ」
「万が一って……うーん」
返す言葉が見つからなかった。
何せ、本当に万が一が活躍する場面が来た。
私達はありがたく受け取ると、慣れない動きで装着する。
「うわぁ、結構重たいね」
「当然だ。私が作ったものだぞ」
「そこじゃないんだけどね」
ツッコミポイントが全く違った。
普通にNightが作るものは、精巧に作り出されている。
だから全然文句はない。普通に重たいだけど、それもリアル仕様なんだろうなって、私は理解した。
「あはは、変な感じー」
「変とか言うな」
「そうですよ、フェルノさん……声が出し辛いですね」
「仕方がないだろ。ガスマスクなんだ。下手に危険物質を吸い込んだら一大事だろ」
「そんな状況、ゲームの中であり得るの?」
ベルが言うことも最もだった。
そんなに危険なことがゲームの中で起きるのかな?
ふと考えてしまうけれど、まさに起きている。
この湯帖山はシッカリと硫黄も硫化水素も出ている。
そのせいかもしれないけれど、まさしくここが危険地帯だ。
だから早速フラグが回収されると、私は慄いてしまう。
「大丈夫かな、本当に?」
「やるしかないだろ」
キッパリと言い切ったNight。凄く頼もしい。
かと思ったけれど、地団駄をしている。
面倒なんだろうなって気持ちが、リアルに伝わって来た。
「それでは皆さん、準備はできましたね」
そんな中でも、雷斬は姿勢を崩さない。
態度を一変させる様子もなく冷静。
スマートな対応を見せると、私達に号令を出した。
「うん、できてるよ」
「いつもでいいよー」
「はぁ。さっさと終わらせて帰るわよ」
私達は正直面倒だとは思っていた。
だけど行くしかないので、雷斬の号令に乗る。
すると雷斬はコクリと首を縦に振り、私にお願いした。
「それではアキラさん、お願いしますね」
「うん。ちょっと待ってね」
私は板状の鍵を使うことにした。
厳重に閉ざされているゲートに近付く。
板状の鍵を挿す場所があって、鍵穴に板を挿し込んだ。
「えっと、とりあえずこれで開錠されたよね?」
後は隣の棒を上げればゲートが開く。
改めて思うけど、本当に厳重過ぎて、何だか不気味に思った。
だけどそれだけ危険な場所だってことだ。
私は気を引き締めると、ゴクリと喉を鳴らす。
「せーのっ!」
棒はそこまで重たくはなかった。
簡単に上げることができると、ゲートを閉ざしていた錠が全て外れる。
ゲートの扉をソッと開けると、特に景色は変わらない。
それでも一歩を踏み出した瞬間に伝わる緊張感は凄まじかった。
「大丈夫かな?」
「心配しても仕方がないだろ」
後ろからNightが声を掛けた。
私にぶつかりそうになるけれど、そんなことは気にしていない。
スッと避けてあげると、背中を丸めて扉を潜る。
「それはそうだけど……」
「私の作ったものを信じろ。とにかく、さっさと源泉を確認して帰るぞ」
Nightはバッサリと言い切った。
先にゲートをくぐる背中は、正直疲れている。
足がプルプル震えていて、相当疲労が溜まっていることを知ると、真面目に一番心配しちゃいつつも、確かに早く終わらせることを選んだ。
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