◇218 クロユリは偽者ですか?
本島に意味が分からない。
「えっ、ええっ!?」
突然声を掛けられた。
しかも目の前のクロユリさんじゃない。
ふと視線を飛ばすと、襖が開いていて、そこから聞こえていた。
「ク、ロユリ、さん、ですか?」
襖を開けて現れたのはクロユリさん。
それは間違いないんだけど、待って、本当に何?
「えっ、待ってよ。どういうこと?」
私はパニックになっていた。
それも無理無いよね? 分かってくれるよね?
だって、目の前にクロユリさんが居て……あれ!?
「う、薄くなってる?」
「アイテムを使ったんだな」
Nightはポツリと呟いた。
一体何? 私はどんなアイテムを使っているのか気になった。
「(パチパチパチパチ)流石ですね、皆さん」
何故かクロユリさんは拍手をしていた。
パチパチと丁寧に柏手を打つと、部屋に入って来る。
まぁ、全然いいことなんだけどね。
「クロユリさん?」
「はい、そうですよ、アキラさん」
私は何故かクロユリさんの名前を呼んだ。
するとクロユリさんは、私の名前を呼んだ。
普通のことだけど、ベルは無性に引っ掛かる。
「待ちなさいよ。アキラのことを知ってる? つまり、本物ってことよね?」
ベルは膝を立たせた。
いつの間にか手には武器が握られている。
警戒しているみたいで、私はベルを止めた。
「待ってよ、ベル。クロユリさんが本物ってどういうこと?」
私は全力でベルを抑え込んだ。
手にしている武器を仕舞わせると、クロユリさんはクスクス笑う。
「ベルさん、貴女の疑いの目、確かに合っていますよ」
「やっぱり、それじゃあ貴女は偽者……」
「ではなく、そちらの私が偽者ですですよ」
偽者? 訳が分からない。
確かに透けているけど、今だってちゃんといる。
もしかしてこれ、私達が見ている、ただの“幻”なのかな?
「偽者?」
「はい。この通り」
クロユリさんはもう一人の自分に触れた。
すると粒子になって消えてしまう。
「「き、消えた!?」」
「どういうことよ?」
「やはりアイテムか……それにしても、妙だな」
私とフェルノは声を上げた。
流石にビックリするから。
もちろんベルだって驚いている。
けれどNightだけは視点が違った。
アイテムを使っていることに、疑う余地もない。
「あの、そちらの代物は、人形代ですか?」
「はい、そうですよ、雷斬さん」
畳の上に、一枚の紙切れが落ちていた。
何だか人の形をしている。
そう言えば、昔の映画とかに出て来たよね?
アレってなんだったのかな? そう思うも、雷斬は正体を知っていた。
「ひとがたしろ?」
「はい。主に儀式に用いられる、昔の道具ですね。木で作られたものやあのように紙で作られたものがあります」
私はたどたどしい口調になった。
そんな珍紛漢紛な私に、雷斬は教えてくれる。
儀式に使われるって、一体何かな? 使い道が分からない。
「ちなみになにをするものなのー?」
「身代わりだ」
「Night?」
Nightが怖いことを言った。
“身代わり”ってことは、身代わりってこと?
えっ、待ってよ。なんでそんなものがここにあるの?
偽者だから、身代わりってことなのかな。
「人形代の正体は、雷斬の言うように、主に儀式に用いられる。その本質は形代で、神霊の依代として使われるが、今回の場合は人形代だ。使われる用途としては、呪いの代替。即ち身代わりとして機能して、持ち主を守るんだ」
凄く簡潔に説明してくれた。
おかげで、私はなんとく頭の中で整理する。
「つまり、儀式に使われるもので、身代わりとして機能するってこと?」
「ザックリにしたな。とはいえ……」
「ふふっ、面白いですね、皆さんは」
私はザックリとまとめた。
フェルノは「おー」と言ってくれる。
だけどNightは額に手を当てていて、クロユリさんは笑みを浮かべていた。
「笑いごとじゃないだろ」
「そうですね」
クロユリさんは何故か笑っている。
その手の中には人形代が握られていた。
何でこんなことしたんだろう。私達は疑ってしまった。
「クロユリさん、貴女はなにがしたいんですか?」
雷斬はクロユリに訊ねた。
流石におかしな行動の繰り返しだ。
だって、わざわざ人形代を使って偽者を用意した。
疑わしい言動を繰り返していた。
何よりも宿にわざわざ案内してくれて、私は怖くて怖くて仕方がない。
「もしかして、誘われた?」
私はポツリと呟いた。
とは言え、わざわざ街中で戦闘をする必要ない。
だけど、何か意味があるとしたら? 訳が分からなくなると、私達は頭の中がゴチャゴチャになる。
「ねぇ、みんな。さっきからなんの話してるのー?」
「フェルノ、お前は混ざるな」
「混ざるなって、一体なにがー?」
全然話が噛み合わない。
一人一人が自由な視点を持って、好きなことを言ってる。
話が進展しないのはそのせいで、頭を抱えてもいいよね?
「クソッ、お前一体なにしたんだ!」
「落ち着いてください、Nightさん」
「これが落ち着いていられるか!」
Nightが全く冷静じゃない。
怒りに飲み込まれていた。
本当に、いつものNightじゃないみたいで、私は怖くなる。
「いやいや、ここで意識を切り替えないと……」
だけど私だけは飲み込まれない。
意識を切り離して、素早く切り替える。
何が起きているのか分からない。だけど、妙な臭いがした。
「この臭い、なに?」
「!?」
正体は全く分からなかった。
だけどやることは決まった気がする。
みんなの意識を取り戻すことが、最優先だった。
「クロユリさん、変な臭いがしませんか?」
「……いえ、しませんが?」
絶対に嘘だ。私の目は誤魔化せない。
特に今の私の目からは絶対に逃れることは出来ない。
何故かって? そんなの分からないけど、何となくそんな気がした。
「クロユリさん、私達になにかしているつもりなんですか?」
「そのようなことは、しておりませんよ?」
クロユリさんは全力ではぐらかす。
私はムカッとなった。
流石にこのまま放置とか、何もしないとかできない。
この状況を変えるには、絶対に必要なことがある。そんな気がして、私の頭はフル回転した。
「クロユリさん、ごめんなさい」
「なにをされるおつもりですか、アキラさん」
ごめんなさい、何とか言われても分からない。
だって、最初から計画なんて無い。
ただ私は、コレをした方がいいんじゃないかなって気がした。
「よく分からないですけど、とりあえず。はい!」
私はパン! と手を叩いた。
すると空気が一変する。
取り巻いていた嫌な空気が弾かれたような、空気清浄機でも何処かにあるのかな?
それくらい、不安だった何か吸い出されたみたいだった。
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