◇217 和と洋の調和
旅館なんて、ここ十年以上、泊ったこともない。
私達は立派な宿の一室に通された。
もう、何って言ったらいいのかな?
本当、凄いしか言えない。
「な、なにこれ? え、え?」
「あはは、天井高いねー」
私とフェルノは天井を見ていた。
本当に高くて、目を奪われる。
何だか不安になっちゃうくらいだった。
「そうね、昔っぽくは無いわね」
「はい。多くの日本風の建物は、その多くが天井が低くなっていますので」
流石に雷斬とベルは詳しかった。
昔の家は天井が低かったみたい。
それじゃあ逆に、このモミジヤでこの天井の高さは、何?
「それじゃあどうしてここは高いのかな?」
「えー、高い方がカッコいいからじゃない?」
うん、凄く雑だった。
まぁフェルノらしいと言えばフェルノらしい。
そう思いつつ会話を合わせると、襖が開かれた。
「戦後の西洋風の建築文化が入って来ているだけだろう」
襖を超えて部屋に入って来たのはNightだった。
その瞬間、私達は揃いも揃って、何のタイミングを合わせることもなく、声を出していた。
「「「Night!?」」さん?」
「ふぅ。確かにこのモミジヤは昔の日本を基調にしている。とは言え、西洋風の文化が混ざっていることだってある。そうやって、歴史は積み重ねられてきたんだ。忘れるなってことへの、戒めかもしれないな」
凄くソレっぽい良いことを言ってる気がした。
だけどそんな会話、私達の耳に入らない。
目の前に居るNightこそ、和と洋の調和だもん。
「な、なんだ、その嬉々とした目は」
Nightが完全に引いている。
きっと私達の目線が痛いんだ。
「だって、凄く似合ってるよ」
「はい。とてもよくお似合いです」
「西洋人形みたいなNightが着るから映えるのよね。ギャップって言うの?」
「あはは、着物が凄―く可愛いねー」
フェルノに「可愛い」と言われてしまう始末だった。
それくらい、Nightの和服姿は似合っている。
ただでさえビジュアルが凄くいいのに、これはもうズルい。
雰囲気からして、纏っている気品が違った。性格はアレだけど……
「お前らな……」
「はい、そこまでにしましょうね」
キレそうになるNightを制止させた。
ふと襖の奥の廊下。底を覗き込んでみる。
黒い着物に、赤い帯、頭には何故か黒い百合の髪飾りをしている。
「あっ、えっと……助けてくれた人、ですよね?」
「はい。私の名前はクロユリと言います。以後お見知りおきを」
妖艶な雰囲気が漂う美しい女性だった。
特殊な空気を纏っていて、触れたら虜にされてしまいそう。
そんな立ち入ってはいけない何かを感じ取ると、私は何故か背筋を伸ばす。
助けてくれたのに、如何して心が警戒するんだろう?
「大変よく似合っていますよね」
「……ありがとな」
「いえ、感謝される筋合いはありませんよ。私が。皆さんを宿へと案内したまでですから」
したたかな女性だ。何だろう、優しさの向こうに含みを感じる。
それに気が付いているのは私とNight、それからベルくらいだ。
五分の三が気が付く中、フェルノは疑うそぶりも見せなかった。
まぁ、普通に考えて危害を加える気はないみたいだけどね。
「えっと、その、クロユリさん!」
「はい、なんでしょうか?」
私は勇気を出した。
振り絞った声は、私達しかいない、広い一室の中に響き渡った。
「宿まで案内してくれてありがとうござました。おかげで助かりました」
「まぁ、ご丁寧にどうも。でも本当に……」
「着るものも、ありがとうございました。でも……」
「そうだな。どうして見ず知らずの私達を助けたんだ?」
私の言葉をNightが引き継ぐ。
ずっと疑問だった、このモヤモヤの正体。
明らかに含みがあって、ソウラさんとは違う。
もっと濃くて深くて、飲まれたら一巻の終わり。そんな空気を疑心と漂う。
「あの、アキラさんにNightさん、流石に不躾ですよ」
「そうだよー、助けてくれたんだよー」
雷斬とフェルノは弁護に走った。
確かに私達は助けられた側だから、何も言えないのが本来。
だけど今回に限っては、ちょっとだけ違う。
「あのね、タダで助けて貰うっていうのは、怖いことでもあるのよ。人間の持ってる、無償の精神じゃなかった時がね」
ベルは怖いことを言ったけど、確かにそれもそう。
私はソウラさんの一件でもう充分凝りている。
「無償の奉仕は、嫌いですか?」
「好き嫌いの話じゃないわ。貴女、一体なにが目的?」
「目的、ですか?」
「そうよ。その顔、明らかになにかあるでしょ」
ベルが疑ったのは、クロユリさんの顔色。
ずっとニヤけているよりも、張り付けた笑顔がある。
その奥には何かを隠しているみたいで、不気味としか言えない。
更には口調が明らかに変化していた。
ソウラさんと比較しちゃうけど、クロユリさんの言動にはブレがある。
だから疑いたくは無いけれど、クロユリさんは、ソウラさんと違って、隠すのがあまり上手くないみたいだ。
「ふふっ、そうですね」
クロユリさんが笑った。
その瞬間、空気に緊張感が出る。
張り詰めたって言うのかな? よく分からないけど、何だか気分的にも嫌な感じだ。
「なにがおかしいんだ?」
高圧的な態度を取ったNight。
それだけじゃない。ベルも威嚇している。
何だかみんなおかしいよ。私はパニックになっていた。
「とてもおかしいですよ。何故なら……」
クロユリさんがそこまで行って口を閉ざした。
一体何が言いたいんだろう、シックリ来ない。
私達が立ち尽くす中、突然襖が開かれた。
「皆さんは、なかなか疑わしい。そして、気付きがあるみたいですね」
私達の視線が、一斉に集められた。
開かれた襖。その先に座っている人影。
頭が狂ってしまいそうになると、私は何度も瞬きをする。
「なにを驚かれているんですか?」
普通に話し掛けられた。
それだけで、もう怖いんだけど。
私は頭を抱えると、みんなキョトンとしていた。
「えっ、貴女は……えっ?」
「アキラさん、どうかされました?」
普通に名前を呼ばれてしまった。
私の生を知っているってことは、本人ってこと?
って言うよりも、何でここに居るの、クロユリさん? 私達と話していたクロユリさんは一体誰なの? 訳が分からない。
「く、クロユリ、さん?」
「どういうことー?」
フェルノが口を開いた。
一瞬にして張り詰めていた空気が崩壊する。
だけど崩壊と言うよりも混沌としていて、私達はあたふたした。
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