◇216 びしょ濡れNight
これは相当な事故。現実で起きたら洒落にならない。
「はくしゅん!」
Nightは大きなくしゃみをした。
それもその筈で、全身がびしょ濡れ。
あんな高い所から落ちた挙句、全身が冷たい水に包まれて、髪から水滴が滴り落ち、マントがズッシリ重くなっている。
「クソッ、ふざけるなよ。どうして私がこんな目に……」
Nightは悪態を付いていた。
それはもちろん当然で、あんな風に落ちるなんて思わなかった。
これがゲームだからよかったけど、もしも現実だったらと思うと、すっごく怖い。
「大丈夫、Night?」
「大丈夫に見えるのか?」
「ごめんね、見えない」
私はNightのことを心配した。
このままだと、ゲームの中で風邪を引いちゃう。
色々デバフが付くし、現実の自分にも影響が出るかもしれないから、私はNightのことを案じたけれど、全然大丈夫には見えない。
「ううっ、寒いな……」
「あはは、私が温めてあげよっかー。【吸炎竜化】!」
フェルノは全身に竜の鎧を纏った。
真っ赤な竜の鱗が纏わり付くと、メラメラと炎が燃える。
Nightに近付くと、これぞ人体ストーブ。
びしょ濡れのNightを温めようとした。
「どうですか?」
「どうもこうもないよー」
「全然ダメね」
本人が言う前に、Nightの体が温まらない。
もしかして、相当冷たいのかな?
私は滝壺の様子をジッと眺める。
きっと冷たいんだろうな……おまけに、観光客の姿も無いし、よく分からないけど警察っぽい格好のNPCまでやって来てる。そうだよね、柵が壊れるなんて誰も思ってないもんね。
「まさか柵が壊れるなんてね」
「どうして私は貧乏くじを引かされるんだ」
Nightは不満を募らせている。
だってそうだよね? 私達だって凄く不安だった。
策が壊れるなんて、観光地じゃなくても偶にはある。
きっと観光地ってこともあるし、水の傍だったから、老朽化も早かったのかな?
色々考えても仕方ないけど、とにかく災難だった。
「人が多過ぎたのかな?」
「詰め過ぎだ。観光地が観光地としての役割を果たしていないだろ」
人が押し掛け過ぎたのはよくない。
観光地の性だけど、私達は痛い目を見た。
実際他の人達も痛い目を見ていて、魅惑の滝にあんなに居た人達が、もうすっかり居ない。
「どうするの、Night? このままじゃ」
「とりあえず服を着替えるか」
「でも街中だよ?」
「バカ。どこか適当な店でも宿でも借りればいい。幸いここは温泉街。宿は多いからな」
モミジヤの良い所。それは宿が多いこと。
温泉と共に観光業を中心とした街作りが出来ている。
おかげでプレイヤーもNPCも問わず、宿が点在していた。
街中で着替えられないから、何処か適当な宿に入ることにする。
「そうと決まれば早く行こう」
「そのつもりだ」
私達は魅惑の滝から離れた。
今度来た時は、もっとユックリ観光したいな。
名残惜しさを胸に、私達は温泉街に戻った。
私達は温泉街に戻って来た。
この辺りにも温泉宿がたくさんあるみたい。
だけど違和感がある。私はキョロキョロ視線を移らせた。
「ねぇみんな、変な感じしない?」
「そうですね。何処と無く静かです」
私の違和感に雷斬も気が付いていた。
何が如何違和感かって言うと、凄く簡単。
あまりにもお店が閉っていて、宿の活気が全く無かった。
「いや、何処となくでも無いだろ」
「そうよ。明らかにおかしいわ、普通じゃない」
Nightとベルは違和感の正体を“本物”に変えた。
明らかに空気がおかしい。
宿にまるで活気が無く、つまらないって言ったらそれまでだけど、本当に人の声が無いんだ。
「普通じゃないってー?」
「この街の普通が何かは分からないけど、観光業でしょ? プレイヤーはまだしも、この世界で生きているNPCの行き甲斐が少なすぎるわ」
ベルの言う通りだった。
フェルノの疑問にパシュンと答えると、空気を貫く矢のよう。
だけど言っていることは間違っていない。
プレイヤーが宿を利用しなくても、NPCは利用する筈。それが全然見当たらないのは、おかしい以外の何物でもない。
「プレイヤーの行動を見るのも大事だが、何よりもNPCだ。NPCは敏感だからな。私達プレイヤーが気が付けない領域を知ることができる」
「そのためには……」
「踏み込むしかないな」
プレイヤーの動きを見ることは、トレンドとして大事。
流行を追うことが、今プレイヤーに課せられている問題。
だとすれば、NPCとの交流はとても大事。
それがこのゲームを謳歌する意味に繋がっているみたいだよね。
「とは言え、この街に知り合いはいないがな」
「あはは、Nightはコミュニケーション苦手でしょー?」
「うっ」
フェルノの何の気無しの言葉がグサリと突き刺さる。
胸が痛くて仕方がないのか、意表を突かれた感じもしない。
完全に的を射ていて、何も言い返せなかった。
「でも肝心のNPCがいないよ、このままじゃ」
「そうだな。何処の宿にも入れないまま、情報も無し。最悪だ……ん?」
私達は情報の一つも収拾できない。
凄く不満を覚えてしまう中、Nightは立ち止まった。
視線の先、ようやく人の姿を見つける。
「どうしたの、Night?」
「プレイヤーだな。こっちに向かって来るぞ」
「そんなの当たり前だよ。だって往来だよ?」
プレイヤーの一人や二人歩いていておかしくない。
そう思った私はペコリと頭を下げると、女性も気が付いてくれたみたいで、丁寧にお辞儀をする。
「ほら、いい人だよ」
「社交辞令だ」
「社交辞令って……えっ?」
目の前に女性の姿があった。
綺麗な女性で、化粧をしている感じはしない。
妖艶な雰囲気に飲み込まれてしまいそうで、不思議な空気が漂っている。
「どうしたの、貴女達? 私になにか用でもあるの?」
普通に声を掛けられちゃった。
もしかして勘違いさせちゃった? それともしているのか?
私は困ると、口を開こうとした。
「そんなものはない」
「そうなのね……」
変に絡まれないように、Nightは速やかな行動をする。
取った行動は最善かもしれない。
そう思う反面、女性は私達のことを見下ろす。何か気になったみたいで、そんなのNightだけがびしょ濡れなことだ。
「あら? 貴女達、大丈夫かしら?」
ふと出会った女性は私達のことを心配する、
見ず知らずの私達にそんな顔をしてくれるなんて。
優しいなって私は素直に思うけど、何だろう、変な感じだ。
「大丈夫だ、問題無い」
「Night、痩せ我慢はダメだよ!」
Nightは一番大丈夫じゃないのに嘘を付いた。
私はスパッと訂正すると、ピクンと肩が動く。
「そうなのね……それじゃあ一つ提案をするわね」
「提案、だと?」
あまりにも不自然だった。
突然空気が女性の意のままに操られる。
そんな感じがするのは私だけ? 凄く、凄く変な感じだ。
「そうよ。実は私、宿を経営しているの。よければ来ない?」
「「「えっ?」」」
私達はみんな驚いた。
とんでもないことが起きている。
それこそ、突然今会ったばかりの人に誘われた。
絶対に変だよ、そう思った私達だけど、何故か断れない。
「で、でも、迷惑ですよ」
「それに私達との面識も薄いだろ。どうして誘うんだ?」
当然の疑問だった。
だけど女性はニコリと微笑むと、私達に言った。
「困っている姿に惹かれた……それだけよ、だから私に、貴女達を助けさせて欲しいの、ダメかしら?」
女性の言っている言葉はとても優しかった。
けれど妖艶な雰囲気と何処となく含みが感じられる。
これは関わっちゃダメな奴。そう思うけれど、何故か押さえ付けられた。
「ありがとうございます。それでは……」
「ええ、すぐに助けてあげるわね。こっちよ」
雷斬の口が開くのと同時に、ニヤリと笑みを浮かべた。
そんな奇妙な時間が流れると、私達は女性に案内される。
一体何処に連れて行かれるのか、これは一体何なのか、サッパリ分からなかった。
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