◇215 モミジヤ観光2
こんな場所はリメイク前には無い。
「次は何処に行くのー?」
フェルノが階段をジャンプしながら、私達に問い掛けた。
そうだよね。次は何処に行けばいいのかな?
「えっと、えっと……」
「少しはメジャーな観光地に行ったらどうだ?」
Nightが総提案してくれた。
有名な場所? でもこのパンフレットには載ってない。
「メジャー?」
「そうだ。ここは明らかに隠れ過ぎる」
Nightの言う通り、ここは面白かった。
だけど全然有名な観光地じゃない。
それなら何処に行くのかな?
「それじゃあ何処に行くの?」
「魅惑の滝はどうでしょうか?」
「「魅惑の滝?」」
「なに、それ」
ベルの言う通り、何だろう魅惑の滝って。
雷斬が提案したってことは、行きたかった所かな?
私達は疑問で頭の上にハテナを浮かべた。
「魅惑の滝は、高さおよそ十メートル前後の滝です。絶えず何万lもの地下水が流れ落ちていて、その際に見られる水飛沫が、太陽光の絶妙な加減により煌めき、人の目を惹き付けるとされています」
「凄い……十メートルの滝?」
「人の目を惹き付けるから、魅惑の滝ってことよね? 大丈夫、それ?」
私とベルは全く違った意見だった。
私は普通に十メートルの滝が凄いと思う。だけどベルは人目を惹き付けることを危惧した。
「恐らくは大丈夫な筈ですよ。立派な観光地ですので」
「そうだな。所謂光視症だろうな」
「光視症?」
何だかよくない言葉が聞こえた気がする。
Nightは腕を組むと、簡単に噛み砕いた。
「要するに、水飛沫が光るのは太陽光の屈折や反射が原因だ。その際に散乱した光により、視界の中に光が見える。一時的に視界を損なう生理現象だろうな」
「へぇー、実際そうなの?」
「あくまでも人目を惹くを視線を奪うと解釈した場合だ」
Nightは保険を掛けた。
普通に私達は知識がないから、何を言っても許されるのに。
そう思う中、とりあえず魅惑の滝に興味を持つ。
「それじゃあ行ってみる?」
「はい、是非に!」
雷斬はコクコクと首を縦に振った。
本当に行きたかったみたいで、初めに行って欲しかったな。
そう思う中、雷斬の優しさに感謝した。
「うわぁ、人が多いね」
「有名な観光地だからな」
私達は魅惑の滝を見にやって来た。
だけど思った以上に人が多い。
如何してこんなに込んでるのかな?
私は不思議に思う中、ぶつくさと話し声が聞こえる。
「知ってた? 最近温泉の出が悪いそうよ」
「えっ、嘘でしょ」
「本当よ。だから何処の宿に行っても、温泉に入れないの」
「仕方がないことだけど、少し残念ね」
凄く大事な話が聞こえた。
今モミジヤで温泉に入ることは出来ないんだ。
そのことをみんなにも伝えようとするが、人が多くて喋る余裕がない。
「ねぇ、みんな、今ね……」
私はそれでも声を上げた。
だけど全然聞こえていない。
ベルだけは耳をピクリと動かして、視線を飛ばすものの、「ん?」と言われた。
「ああ、ダメだ。聞こえてない……」
私は項垂れてしまった。
伸ばして腕を引っ込めると、私は下を向く。
仕方がないのでみんなに付いて行くと、気持ちのいい声がする。
「あっ、見えて来たよー!」
フェルノが唐突に叫んだ。
人混みの中でも気にせずに指を指している。
絶対に誰かに当たっちゃうよね? 私が心配するけど、そんなの知らない顔で、道を押し開けた。
「凄いプレスだな……ん?」
「見てください皆さん。アレが魅惑の滝ですよ」
雷斬が興奮している。
凄く珍しい気がするけれど、そんなに凄いのかな?
最後尾を歩いていた私が顔を覗かせると、陽射しが眩しくて視界が覆われた。
一瞬にして光に染め上げられると、私は目を閉じた。
「ま、眩しい……」
あまりの眩しさに視界が潰された。
普通に目が痛くて、瞼を閉じていてもチカチカする。
そんな私だったけど、とんでもない水量で滝壺に落ちる水音を聞く。
ゴゥーゴゥーゴォーとけたたましくて、つい気を取られた。
「えっ?」
それでも少しだけ瞼を開いた。
すると見えて来たのは、とてつもない光景。
血っ手紅葉とはまた全然違う、轟音と共に流れ落ちる滝だった。
「す、凄い……」
つい見惚れてしまうのも分かるかも。
私は視線を釘付けにされた。
目の前に現れたのは巨大な滝。
崖沿いを流れ落ちる迫力ある光景に、私達は黙ってしまった。
「カッコいいねー」
「そうね。リュウシン大渓谷とは全然違うわ」
「確かにそうですね。噂通りではありますが」
「見て、虹も出てるよ」
水量が凄まじかった。
おまけに太陽との距離感とか角度が絶妙。
そのおかげで滝の下の方には反射した水飛沫に光が触れて、虹を作り出していた。
目が回りそうな程の煌めきに、私達は飲まれそうになる……けど、何だろう。私はならないんだよね、あはは。
でも、こんな時くらいは面白いことを言いたい。
私は素直な感想を、子供っぽく言ってみた。
「綺麗だね、なんだか手を伸ばせば掴めちゃいそう」
「……虹は掴めないぞ」
「そうだけど……それくらいの距離ってことだよ」
Nightの言葉は夢も無ければ現実でしかない。
私はあくまでも例えで言っただけなのにって思った。
だけどそれがNightだから、私達は黙った。
「ねぇねぇ、魅惑の滝って、本当に魅惑なの?」
「漠然としているわね」
「えー、ダメ?」
「ダメではない。そうだな。魅惑の滝は人の目を引き付ける効果がある。さっきも言った通り、科学的根拠に基づいてはいるが、その中にはもっと奥深い作用が……うっ!」
Nightが説明中に体に違和感を感じた。
後ろの人達に押されて柵に体を寄せている。
プルプルと震える柵。何だか不安だ。
「ここが魅惑の滝?」
「いいねいいね、写真でも撮ろうよ!」
「綺麗だ……綺麗、だな」
ドンドン人が押し寄せる。
しかもNightの辺りに集中する。
何の関係があるのかな? 多分だけど、無い。
「お、おい、押すな!」
Nightは観光客の多さに怒り心頭。
それも仕方がないけれど、体を柵に押さえつけられた。
我先にと押しせよる人の波。それが凄まじいパワーになると、最悪なことが起きた。
バキッ!
「バキッ? えっ……」
Nightの体が柵に押し付けられた。
その表に、柵の根元がバキッと悲鳴を上げる。
ユックリと時間が流れた。まるで走馬灯のように。
「Night?」
「クソッ、ワイヤー銃を……ダメ、か」
Nightの姿がドンドン下に落ちていく。
私は腕を伸ばそうとした。もちろんNightも抵抗した。
普段使っている所を見ない拳銃型アイテムを取り出すも、重力がNightを引き寄せる。
バッシャーン!
Nightの姿は滝壺の中へと消えた。
完全に見えなくなっている。
流れ落ちた滝の水量に気圧されると、白い泡がプクプク浮いているだけだった。
「な、Night!?」
一部始終をその場にいた人達全員が見ていた。
見逃すことなんてできる訳無い。
壊れた柵がその証拠で、人が一人、滝壺に落ちたんだ。
当然その場は、地獄が広がる。
「えっ、おい大丈夫かよ?」
「なにが起きたんだ!?」
「柵が壊れて、ひ、人が……」
周囲はパニックになっていた。
たくさんのプレイヤーやNPCに人達が慌てふためいている。
もちろん私達だって、冷静にはなれない。
「Night、大丈夫、返事して!」
私は滝壺に向かって叫んだ。
Nightの頭が出ていない。
滝壺の中で水流に押し殺されているんだと思うと、私は咄嗟に滝壺へと飛び込もうと思った。
「た、助けないと……」
「待ちなさいよ、アキラ。貴女まで飲み込まれたらどうするのよ?」
「で、でも……」
ベルが腕を掴んで必死に止める。
確かに私まで水流に飲み込まれたらお終いだ。
でもこのまま何もしないなんて……そう思った矢先、滝壺の中から思いっきり勢いを付け、頭が飛び出した。
「ぷはっ!」
滝壺の中から顔を出したNight。
何とか浮いているけれど、今にも水流に押し殺されそうだ。
「「「Night!?」」」
「ああ、最悪だ」
私達は喜んだ。だってNightが無事だから。
だけどNight本人はとてつもなく不満そう。
表情から怒りが見えると、無性に苛立っていた。
それでも強制ログアウトを免れた。それだけでも奇跡みたいだなって、私は感じた。
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