◇214 モミジヤ観光1
観光partで、モミジヤの世界観を深堀。
私達はパンフレットを見ながらやって来た。
少し小高い山の中。観光客の姿が結構ある。
きっと私達と同じ場所を目指している。そう思うと、視線の先に石造りの階段が見つかる。
「アレだよね、血走りの階段!」
私はピシッと人差し指を立てた。
見つかった階段はなんだろう……山間にある。
その性かな、あんまりピンと来ない。
「そうだな。血走りの階段……か」
Nightは瞬きをした。
目の前に現れた石畳の階段が、真っ赤に染まっている。
「どうして血走りなんでしょうか?」
「そうだな。この階段を見れば分かるだろ」
雷斬の疑問にNightが答える。
階段を見れば一発で理解できると豪語する。
「階段に大量のモミジが散らばっているだろ。これが血のように見えるから、“血が走っている”……と言う訳だ」
確かに階段を覆い尽くしているのは、全てモミジだった。
一つ一つなら、普通に綺麗なんだけど、色合いがやけに濃い。
私はムッとした表情を浮かべる。
「血が走るって……うえっ、気持ち悪いわね」
「表現の自由だ」
表現の自由とはいえ、私は「あはは」と笑うしかない。
だけど本当に血の色の見えちゃう。
観光地とは言え……うん。
「あんまり、この階段を上がろうとする人、いないね」
私は視線を飛ばした。
大きな整理された道を行く人達。
誰もこの階段を見ようとしないから、きっと別の観光地に行くんだろうな。
「この先って、なにがあるのー?」
「えっとね……赤灼けの森だって……あれ? こっちもモミジじゃないかな?」
私はパンフレットを改めて確認した。
血っ手紅葉の先にあるのは、赤灼けの森。
どちらも紅葉を特にモミジを売りにしていて、私は目を丸くする。
「同じ場所に、二つもモミジを主体とした紅葉の観光地があるんですね」
「普通、じゃないよね?」
「そうだな。本来はどちらかに絞る筈だが……なるほどな。どうやらこっちが“旧”と言う訳か」
同じ場所にモミジの観光地がまさかの二つも存在している。
私達はともかくとして、Nightまで不思議そう。
絶対に調べてるよ、Nightが調べない訳ないもん。
そう思うと、案の定、Nightは調べていたらしい。
「旧?」
「そうだ。調べてはいたが、知名度が低いのはそのためだな」
「ううっ、それじゃあさっきの緑髪のNPCが教えてくれたのって」
「本当に、“穴場”ではなく、“隠れ”観光地らしいな」
パンフレットに記載されているのは、隠れ観光地。
もしかして、そう言う場所の魅力を知って欲しいのかな?
色んなNPCが居るんだなーって思うけど、何故か引っ掛かる。
「どうする? 目的地を変更するか?」
「うーん……」
Nightの提案は凄く魅力的だった。
普通に怖そうな血っ手紅葉よりも、赤灼の森の方が惹かれる。
だけどそれは名前だけで、私の視線は血っ手紅葉に気を取られていた。
「こっちかな?」
「そうか……だったら早く行くぞ」
私一人の意見だけど、Nightは聞いてくれた。
それだけじゃない。軽く背中をフェルノが押すと、私は階段に押される。
みんな優しいなって思う中、私達は階段を上がった。
「はぁはぁはぁはぁ……」
Nightが息を切らしていた。
頑張って階段を上ったからね、仕方ないよね。
私はそう思いつつ、雷斬が背中を擦る姿を見せられると、周りの景色に圧倒された。
「なにこれ、凄いね」
感想が幼稚でそれ以外に出て来ない。
それもその筈、私達の前に現れた……否、私達を覆っている世界。
それは空も地面も何もかも、赤い血のようなモミジで覆われていた。
「なにこれー、凄―い」
「感想が淡白ね。でもこれは圧巻よ」
ベルでさえ圧倒される世界。
それもその筈、太陽の光なんて一切入らない。
それどころか、足の踏み場は全てモミジ。
私達は、天然の赤い絨毯の上に、足を置いていた。
「ここが……はぁはぁ……血……手……はっ!」
「血っ手紅葉、ですね」
雷斬が息を切らしてダウンしたNightの代わりに、言葉を繋ぎ合わせた。
本当に凄い、何が凄いって、これだけ巨大な空間を、全てモミジだけが覆っている。
周囲を囲うように生えた何本ものモミジの木。
それに加えて全部同じ種類の筈なのに、何故か絶妙に色合いが異なっている。
そのせいかな? 太陽光もほとんど無いのに、それだけで完結していた。
「モミジのドーム。これが血っ手紅葉、凄い」
「本当に、そうだ、な……とは言え」
ようやくNightは呼吸を整えていた。
とりあえず当たり障りのない淡白な返事。
だけど気になるのは周囲だ。そう、私達以外に誰も居なかった。
「寂しい場所だな」
「本当に隠れ観光地らしいわね」
「うーん……」
何だろう、凄く言葉に困った。
正直これって、観光地でも無いのでは?
私がそう思うのは、みんなも思っていること。認知されていないから人の脚が踏み入らない。
結果として私達を取り込んだのは、誰一人として足跡の付いていない、忘れされたモミジ模様だった。
「でもこんな景色を私達だけのものにできるのは素敵だよね」
「……アキラ、お前」
「あっ、別に変な意味じゃなくて、えっとその……」
ソレっぽい言葉を言おうとした。
だけど変な風に捉えられたかもしれない。
私はそう思って必死に訂正しようとすると、ツルンと足が滑った。
「うわぁ!」
私は身体を何とか支えようとする。
だけど力が入らないで、そのままお尻をぶつけた。
「痛たぁ……」
私は尻餅を付いちゃった。
体幹が強いから、いつもは転ばないのに。
如何してって思うけど、靴が滑って足を取られたんだ。
「大丈夫―、アキラ?」
「う、うん。だけどどうして滑ったのかな?」
フェルノが心配してくれた。
差し出された手を掴むと、Nightが口にしてくれた。
「そんなの簡単だ。油分に足を取られただけだろ」
「油分?」
私はポカンとしてしまった。
一体何を言ってるのかな?
落ちていたモミジを手に取ると、確かにツルツルする。
「そうだ。モミジやイチョウ、落葉広葉樹林は油分を多く含んでいる物がある。そのおかげもあり、火災の際に燃え辛いなどはあるが、こうして足を取られることもある」
「そ、そんな……」
そんなの知らなかった。
もっと早く行って欲しかったなって、私は思う。
だけど怪我をしないだけマシかも。そう思い立ち上がると、雷斬が叫んだ。
「アキラさん、服が汚れていますよ!
「えっ?」
私は着ていた服を脱いだ。
一体何処が汚れているんだろう?
パッと見ただけで一目瞭然。
裾の部分が真っ赤になっていた。
「うわぁ、本当だ。えっ、どうしよう? 落ちるかな……ううっ、擦っても取れない」
私は裾の部分を擦ってみた。
だけど全然取れない。それどころか余計に酷くなる一方。
ちゃんと洗わないとダメみたいで、私はショックを受けた。
「どうして?」
「モミジに含まれる成分が、油分で溶けだしたんだろうな」
「油分で溶けだしたの?」
「そうだ。まぁ、後でシッカリ洗うんだな」
何だろう。こんなに素敵な景色なのに、気分は最悪。
私はつい項垂れてしまうと、赤く染まった裾を見た。
仕方が無いで片付けたくないな、私はそう思うものの、本当に後で全力で落そうと決めた。
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