◇209 真夜中の気配
突然いなくなった烈火。
一体何処へ?
「ううっ……」
何だか寝付けなかった。
さっきまで寝ていた筈なのに、少しだけ体が変。
何故か眠れないでいると、私は意識を取り戻す。
「あ、暑い?」
テントの中は蒸し暑い。
って言っても、少し開けたら虫が入って来る。
でもこのテント、一応防虫効果もあるし、蚊帳になっている。
だから虫は入って来ないと信じて、少しだけテントの入口を開いた。
「うーん……ん?」
私はソッと瞼を開けた。
すると寝ぼけた眼で周りを見回す。
由里乃と祭は居る。だけど一人足りない。
「あれ? 烈火がいない?」
何故かテントの中に烈火の姿が無かった。
もしかして反対側? そう思ったけど居ない。
テントの中に烈火の姿が無かった。
「もしかして、外に出たのかな?」
烈火ならあり得そう。
私はテントの外を見るけど、全然姿が無い。
心配……だけど、気にしてもダメかな。
「まあいっか。烈火はそのうち戻って来るから」
私は烈火なら心配ないと高を括った。
もしかしたら、クマにだって勝てちゃうかも。
あり得ない想像をすると、私はもう一度眠りについた。
「ねぇ、ねぇ……」
「ん?」
私は体を揺すられた。
不意に目を開けると、浮かぶのは由里乃の顔。
体を起こすと、目元を擦った。
「なに、由里乃? それに祭も」
体を起こすと、由里乃と祭が起き上がっていた。
二人共、私以上に目が覚めてるみたい。
「ふはぁー」と欠伸を掻くと、由里乃は訊ねた。
「ねぇ、烈火は何処?」
「えっ、まだ戻ってないの?」
由里乃は烈火のことを気にしていた。
もしかしてまだ戻ってないのかな?
ふと振り返ると案の定で、烈火の姿は無い。
「まだって、なに?」
「さっき私が起きた時、烈火いなかったから」
由里乃と祭はキョトンとしている。
確かに襲いは遅い。でも烈火なんだからあり得ないこと無い。
「もしかして、山の中に入っちゃったのかな?」
「多分そうだと思うよ」
私は飄々としていた。
平然としているのは、烈火がそう言う性格だから。
きっと夜の山で遊んでいるんだ。危ないけど、烈火ならやってそう。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ、烈火だもん」
「明輝、烈火のこと、買い被り過ぎ」
由里乃と祭は烈火のことを心配していた。
もちろん私だって、少しは心配。一割くらい。
それでも経験則的に、烈火は大抵大丈夫。
私はそう確信すると、高を括ったままだ。
「……例えば、さっきの話が本当だったら?」
「さっきの話……って止めてよ!」
祭は自分が語った怪談を持ち上げる。
私は思いだしてしまうと、体場身震いする。
もしかして、本当に怪談が現実になった? そう思ってしまうと、全身に鳥肌が走る。
「えっ、それじゃあ烈火は消えちゃったってこと?」
「止めてよ、由里乃。縁起が悪いよ」
「ごめんって……でも、もしそうなら……」
「うーん……うん」
私は怖くなっちゃった。
もし怪談が本当だったら、烈火は消えちゃったことになる。
だけどそんなの有り得ない。きっと蒼伊なら、「そんなの有り得ない」と嘲笑はしないが、切り捨てるに決まってる。
「祭、その怪談って」
「あくまでも怪談」
「だよね」
結局、怪談は怪談だ。
割り切っている祭に押されると、私は考えないことにする。
そう思った瞬間。急に背中にゾワッと走った。
ガサガサガサガサガサガサガサガサ!!!
「えっ!?」
「「なに?」」
テントの外。向こう側から草木の揺れる音がした。
私達は視線を奪われてしまう。
それだけ得体のしれない“何か”を悟った。
「今のって、なに?」
「なにか動いた?」
「もしかして、烈火かな?」
突然草木が揺れ、薮に何かが駆けた。
きっと烈火だと思う。絶対にそうだ。
やっと戻って来た、って思うけど、由里乃を私は止めた。
「そうだといいんだけど……」
何となくだけど、そんな気がする。
寧ろその可能性の方が高い。
だけど私は冷静になると、あくまでもゲーム脳を活かす。
「でも、もしかするとクマとかシカとか、危険な生き物かも」
「「えっ!?」」
由里乃と祭は固まった。
一応クマ避けはしているけれど、効かないこともある。
それこそ人慣れとかされてたらお終いだ。
私はお母さんや蒼伊から聞いた知識を念頭に置く。
ゴクリと喉を鳴らすと、ガサガサとより一層音が強まる。
「なんか、近くないかな?」
「うん、明らかに」
「もしかして、近付いて来てる?」
クマとかならあり得るかも。
ずっと昔も昔に、クマに襲われて殺された人は何人も居た。
個体は違っても、遺伝子の中に刻まれているのかも。
色々と想像力を掻き立てられると、私達は不安になる。
「どうしよう、このまま開けて……」
私は一瞬だけバカな発想をした。
強硬的な発想に支配されるけど、流石にそれはない。
すぐさま思い留まった。
「うーん」
「危険だよ」
「そうだよね。このままの方が……」
私と祭は冷静沈着だった。
もちろん心臓の鼓動は音を立てている。
だけど余計なことはしないでいた。けれど由里乃の発想は違った。
「それじゃあ、脅かしてみたらどうかな?」
「驚かす?」
「そう。一気に飛び出して、怖がらせたら、きっとクマでもビックリするんじゃなかな?」
凄く危険な発想だった。だけど由里乃はやりそう。
祭が必死に止めようとするけれど、このままでも埒が明かない。
ここは意を決してやるしかない……のかな?
「うーん、絶対違うと思うけど」
「物は試しだよ」
そう言うと、由里乃はファスナーを摘まんだ。
本当にやる気なんだ。
今更止めても無駄のようで、当たって砕けろの精神になる。
「いくよ、せーのっ!」
私達はテントのファスナーを開く。
それで一気に飛び出して驚かす。
「おお、ビックリしたー」
「って、烈火?」
テントの外に居たのは烈火だった。
私達はテッキリ祭から聞いた怪談を少しだけ重ねてた。
だけど勘違いでよかった……って、なにしてたんだろう。
「何処に行ってたの?」
「ん? クワガタ捕りに行ってたんだよー」
「く、クワガタ?」
私達はポカンとした。
そう言いつつも、烈火の手元を見てみる。
そこには小さな生き物の姿があった。
「く、クワガタ?」
「そうそう。立派なサイズのヒラタクワガタだよねー。探すの苦労したよー」
ノコギリクワガタでも、オオクワガタでもない。
捕まえて来たのはまさかのヒラタクワガタ。
体が平べったくて、横が少し大きい。
ちょっと珍しいかも。しかも少し大きい。
天然物って、やっぱり売られているものと違うんだな。
私達は別に興味は無いけど視線を惹かれた。
って、そうじゃないんだけど!?
「探すのって……烈火、それなら一言言ってからテントを出てよ」
「ごめんごめーん、でも起こすのも悪いと思って」
「だったら、メッセでも残して」
「そうだよ、烈火。心配したよ」
私達はそれぞれが劣化を叱った。
流石に一言言ってから出て欲しかった。
ムッとした表情を浮かべて注意するけれど、烈火は飄々とする。
「あはは、今度から気を付けるよー」
うん、絶対に分かってない。次も同じことをする。
私達はとりあえず烈火が無事だったことに安堵した。
だけど本当に次からは気を付けて欲しいと思いつつ、目が覚めてしまうのだった。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)
ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。
また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。




