◇207 火起こしのスペシャリスト?
キャンプが楽しいって話。
「それじゃあ火起こしするぞー」
そう言うと、烈火は持って来た火起こしセットを高らかに掲げた。
烈火らしく凄く燃え上がっている。
やる気があるのはいいことで、私は「頑張ってね、烈火」と囁いた。
「よーし、やるぞー」
「の前に……」
由里乃は水筒の中に水を汲んできた。
近くの川の水で、万が一に備える。
おまけに私と祭で周囲の落ち葉を払うと、とりあえず火事になるのは避ける。
「これでよし」
「それじゃあお願いね」
「うん、任せてー。えっと、確かー、きりもみ式はこうやって、こうだー」
早速烈火は火起こしに挑戦。
今回はきりもみ式みたいで、今の時代セットで売ってる。
それを狩って来たみたいで、板に開いた窪みに棒を刺すと、高速で回転させた。
ギューンギューンギューンギューン!
凄まじい風切り音が聞こえた。
たくさんのおがくずができ上がる。
摩擦で火を起こすのが原始的な火起こしで、かなり腕が疲れる。
それでも烈火は余裕そうで、ドンドン速くなる。
「烈火、一定の速度じゃないとダメだよ」
「それそれ燃えろー」
「聞こえてないね」
私の忠告は全然聞こえていなかった。
それ所か、ドンドン速くなっている。
私は呆れると、その瞬間、パキッと音がした。
「ありゃ?」
烈火のパワーに耐え切れなかった。
市販の棒が簡単に折れると、烈火はポカンとする。
いや、流石の烈火でも、こんなことになるとは思わなかった。
「折れちゃった?」
「うん。折れちゃったね」
「むぅーん、もう一回―」
まさかこんな結果になるなんて。
悔しいのか、烈火は再挑戦しようとする。
しかし後ろから腕を回した由里乃に止められた。
「ダメだよ、次は私の番ね」
そう言うと、由里乃が割って入る。
早速きりもみ式に挑戦すると、烈火とは違ってスムーズだ。
「もしかして由里乃、やったことあるの?」
「ないよ」
「ないんだ。それじゃあ初挑戦だね、頑張って」
私は由里乃を応援した。
初めてにしたら凄く上手い。
私はそう思うも、火種ができる直前、おかくずが散らばった。
「ああ!?」
咄嗟に手を止めた由里乃。
速さは申し分なかったけど、丁寧にやり過ぎだ。
そのせいで棒が窪みから外れると、火起こしが失敗に終わる。
「なかなか難しいね」
「次は私」
「祭もやるの!?」
意外にみんなノリノリだった。
キャンプを最高に楽しんでいる証拠で、私はその間に簡単にだけどご飯の支度をして置く。
チラチラ祭に視線を配ると、由里乃以上に繊細。丁寧さが勝っていて、火がなかなか起きない。
「難しい」
祭は首を捻ってしまった。
確かに火起こしって難しいよね。
私もお母さんに教えて貰った時、最初は上手く行かなかった。
そんなことを思い出すと、急に烈火が私の背中を押す。
「はい、次は明輝の番!」
「えっ、私!?」
「そうだよ。順番順―番、だよね?」
別に私の番は飛ばしてもよかったのに。
そう思ったけど、みんなに見られてる。
緊張するな。そう思った私は棒を手にすると、慣れた手付きで回した。
「にしても難しいね、火起こしってー」
「うん。ライターって凄い」
「文明の利器」
三人が何か話していた。
確かに難しいし、ライターの方が便利。
私はそう思いつつも、瞬く間に火種を用意する。
ボワッ!
その瞬間、着火した音がする。
みんな見てなかったみたいだけど、火はちゃんと付いた。
もちろん、ズルなんかしてない。ちゃんときりもみ式でした。
「はい、火が起きたよ」
「「「えっ!?」」」
みんなの視線を集める。
私が火起こしをすると、瞬く間に火は大きくなる。
当然三人は目を見開くと、私に問い掛けた。
「えっ、凄い、しかも早い!?」
「目を離した一瞬だった」
「流石明輝だねー。あはは、敵わないや」
三人共驚いているし謙遜までしている。
だけど別に不思議なことは何も起きてない。
普通に火を起こしただけで、速度とか空気とかタイミングとか、全部をかみ合わせただけ。だから全然凄くない……って言いたいけど、そんな顔はされない。
「凄いね、明輝。もしかしてやったことあったの?」
「う、うん。お母さんに」
私はお母さんに教わっていただけ。
そのおかげでこうして上手く行った。
久々だったけど、心と体が覚えてくれていたみたい。
「そっか、明輝のお母さんって、冒険家だもんねー」
「そうなんだ」
「凄い」
お母さんを褒められて嬉しい。
だけど自由人過ぎて家に全然帰って来ない。
尊敬はしているけど、なんだかなって思う。
「でも本当に早かったね。明輝、カッコよかったよ」
「本当、真似できない」
「止めてよ、二人共」
確かに私は火起こしが早かった。
三十秒も掛からなかった。
それを褒められたらちょっと嬉しいけど、普通じゃないから恥ずかしい。
いや、普通じゃない方が個性なのかな? うーん、でもこれくらい、誰でも慣れればできるよね? 素直に受け止められなかったけど、ここはちゃんと胸に抱く。
「でもありがとう、みんなで頑張ったからできたんだね」
私はにこやかな笑みを浮かべた。
すると三人とも固まる。
意味深に「おお」とか言い始めると、笑みを浮かべ返される。
「明輝、可愛い」
「うん、可愛い」
「あはは、明輝ってちゃんと笑うよねー」
みんな私のことを褒めた。
“可愛い”って言われて、今どんな顔をしているんだろう。
凄く気になると、全身がホワッとした。
「ううっ……」
何だろう。凄く体が熱い。
悪い気がしないんだけど、恥ずかしさの方が勝つ。
ここは話題を変えようと、私はムキになる。
「そんなことより、早くご飯の準備しよ、ねっ!」
私は嬉しさと恥ずかしさがあった。
そのせいで褒められているのに、すぐに話を変えようとする。
そんな私に烈火達は笑っていると、私は顔を真っ赤にしながら、ご飯の支度をするのだった。
「焼けたかな?」
しばらく時間を置いた。
ジックリ、天然の焚火で焼く。
綺麗な焼き目が付くと、私はスッと手を伸ばす。
「はい、烈火」
「ありがとう、明輝」
「二人も」
「ありがと、明輝」貰う」
「それから私も。いただきます」
私は串を指して焼いていた魚を取る。
烈火に渡した後、由里乃と祭にも手渡す。
全員が受け取ると、先に烈火が齧り付いた。
「あっ、あっっ!」
烈火は勢いよく魚を頬張る。
焼けたばかりなので、凄く熱い。
口の中が火傷しそうになると、急いで水を飲んだ。
「ふぅ。助かったー」
水で口の中を一気に冷やした。
おかげで火傷は免れたみたい。
って、烈火は火傷しても平気で食べるんだけどね。
「烈火、急いで食べ過ぎだよ」
「あはは、でも美味しくってー」
私は烈火を一応注意した。
だけど烈火は何にも気にしていない。
笑って済ませると、私も手に取った魚を口に運ぶ。
「そうだよね。凄く美味しい」
私も魚を頬張った。
自分で釣ったニジマスだから、凄く美味い。
私は骨まで食べると、幸せな気分になる。
「なんだかキャンプじゃなくて、サバイバルだね」
「うん。それは同感」
由里乃と祭は首を縦に振った。
飯盒からよそったキノコご飯を口に運ぶ。
キノコのコリコリ感とか、絶妙な塩味と甘味が混ざり合う。
「こっちもいい炊き加減だね」
「最高だよね」
「お焦げも美味しい」
「あはは、苦いよー」
お焦げの付いた飯盒のご飯。
ちょっと苦いけど、普通に美味しい。
これぞって味がすると、私達は楽しく食べる。
「でも、自然の中で食べるご飯って、いいね」
「偶にはいい」
「だよね。でも今日は二人も一緒だから」
由里乃はそう言うと、私達の顔を横に並べた。
ニコッと微笑むと、眼鏡をクイッとさせる。
だけど私も同感で、健やかに微笑んだ。
「ありがとう、由里乃、祭、誘ってくれて」
「うんうん、サバイバルって、楽しいねー?」
「「キャンプ」だよ」
もはやサバイバルって感じだった。
だけどコレは一応キャンプ。
私達は焚火を囲い、楽しく話しながら、美味しいご飯を食べるのだった。
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