◇206 //夕陽だよね
夕陽って綺麗。
私達は登山をしていた。
実際、夕雲山は登山ができる山。
毎年何千人もの登山客がやって来る。
「ふんふふーん」
「烈火、楽しそうだね」
軽快な足取りで登っていく烈火。
鼻歌混じりで、私は訊ねた。
何だか凄く楽しそうで、烈火はクルンと振り返った。
「うん。登山好きだよー。って言うより、動くの楽しいー」
烈火はとにかく体を動かすことが大好き。
そのせいか、疲れが一切溜まっていない。
底知れない無限の体力を目の前に、私達も余裕だった。
「私達も全然大丈夫だよね?」
「うん」
「もちろん」
烈火だけじゃなくて、由里乃と祭は運動部。
卓球部だけど体力は凄く必要。
寧ろ運動部に所属していない私が、三人に一歩も譲らないのがおかしいのかな?
そんな風に自分を卑下する中、烈火はドンドン突き進む。
「ふんふふーん」
「烈火、相変わらず速いね」
「本当、体力バカ」
「確かに」
これは凄い褒め言葉だった。
私も同感で祭に対して相槌を打つ。
そうこうしているうちに、周囲一帯は夕暮れ時。
黄色とオレンジの境界線が彩る。
「もう少しで頂上かな?」
「その筈」
「よし、みんなラストスパートだよ!」
夕雲山は凄く高いって程の山じゃない。
そこそこの標高で、登山初心者からでも楽しめる。
ただ手すりとか、整備された階段は無い。普通に一本の太い坂道を登り続けると、私達はいよいよ頂上に辿り着く。
「おーい、みんなこっちこっちー!」
先に頂上まで登り切っていた烈火。
呼び出されると、私達も駆け上がる。
そうして頂上に辿り着くと、烈火が出迎えた。
「みんなお疲れー」
「お疲れ様、烈火」
「あはは、私は疲れてないけどねー」
烈火は全然疲れていない。
だけどお互いに声を掛けて支え合う。
軽口をたたき合えるくらいが丁度よかった。
「でさ、ここになにがあるの?」
烈火は先に頂上に登ったのに気が付いていなかった。
もしかして後ろ向きで辿り着いたのかな?
危ないことはしないで欲しいけど、それならそれでビックリする筈。
私は指を指すと、後ろを向くように誘導した。
「なにって、アレだよ」
「アレ? うわぁ!」
烈火は驚いていた。
口をあんぐりと開けると、想像には無かったもの。
もちろん私達は知っている。この夕雲山の頂上、そこは絶景スポットだった。
「なにあの夕陽、凄く綺麗なんだけどー!」
この一言が全てを物語る。
目の前に浮かんでいるのは緑一面の大地。
その先には山。そして巨大な夕陽が出迎える。
「うわぁ、凄く綺麗!」
正直、それが最初の感想だった。
だって、それくらいしか言えない。
実際に綺麗なものを目の前にすると、他の言葉が安く感じる。
「エモいね~」
烈火の言う通り、エモい(※元はエモーショナル)な気分になる。
って言うより、今の時代にそんな言葉云うのは珍しい。
もしかして、ずっと昔の時代の言葉が最熱しているのかな?
「確かに凄くエモいよね。みんなこれを見に登るんだよ」
そう、夕雲山はその名前の通りだった。
夕陽と雲のコントラスト。それが絶妙に適合している。
今日は特にいいのか、雲は全く無くて、綺麗な夕陽を見ることができた。
みんなこの夕陽を見るためにわざわざ登る。
朝じゃダメで、夕方じゃないと意味が無い。
今日は偶々誰も居ないだけで、本当なら、こんな時間を四人で過ごすことは出来ないんだ。
だからとってもラッキー。
私達はそう思うと、ただ単に視線を釘付けにされる。
「綺麗」
「水平線に沈む夕陽もいいけど、山の頂上からユックリ沈んで行く姿もいいよね」
水平線に沈んで行く夕陽もいい。
だけどそれとはまた違った魅力が浮かぶ。
視界の先にはもう一つ大きな山。その谷間を消えるように、太陽が夕陽となって揺らめく。
「なんだか心が洗われるね」
「うんうーん」
私はとても気分がよかった。心が澄んでいた。
烈火も燃えるようなメラメラとした心が更に猛る。
そのおかげか、何故かウズウズ体を動かす。
「なんだろ。凄く燃えてきた」
「烈火?」
「あはは、もしかして感化されちゃったの?」
「烈火らしい」
本当にその通りかもしれない。
烈火らしい姿にいつも通りを感じる。
私はフッと息を吐き気持ちを整えた。
目の前を過ぎ去る太陽に、ソッと気持ちを傾けた。
「なんか、いいね」
本当にそれしか出なかった。
だけど見に来られてよかった。
登山をした甲斐があったってまさにこのことで、達成感がある。
「この瞬間を留めてもいい」
「留める?」
祭がポツリとエモいことを言った。
ふと私は耳を傾けると、少し考える。
スマホで撮るのって、場違いかな? そうは思いつつも、一応提案してみる。
「あっ、そうだ。みんな、写真撮ろうよ!」
私はみんなを誘った。
すると烈火を始め、由里乃と祭も意外そうな顔をする。
「どうしたの、みんな?」
もしかして、ダメだったかな?
そうだよね。これだけ綺麗な夕陽、自分の目で見ただけで満足だよね。
そう思った私は訂正しようとすると、ニヤッと由里乃は笑みを浮かべる。
「いいね、明輝。それ待ってたよ」
「えっ?」
私がポカンとすると、烈火は私の首に腕を回した。
グッと引き寄せると、隣に立たされる。
姿勢が崩れるけど、それくらいが丁度いい。
「はいはい、祭も寄って寄って」
私達は一塊になる。
由里乃はポケットからスマホを取り出す。
スッと腕を前に出すと、端っこに立っているから、全体の画角がまとまる。
「それじゃあ撮るよ、イェーイ!」
パシャリ!
私達は写真を撮った。
背景に綺麗な夕陽を使う。
映し出される黄昏時の輝きが、私達のことを美しく照らす。
「おお、いい感じだね」
「うん。綺麗」
「夕陽が特に」
「ちょっとちょっとー、私達は?」
各々が好き勝手に感想を呟いた。
だけど烈火にだけは如何しても首を縦に触れない。
寧ろ目を細めて凝視すると、烈火は首を捻る。
「えっ、なに?」
「烈火、それはないよ」
「それはない」
私と祭はジトッとする。
それだと自意識が高いみたいで少し嫌。
私はそう思うと、由里乃はニコッと笑う。
「あはは、みんな可愛いでしょ?」
「「由里乃……」」
今はそう言うことを言う時じゃない。
由里乃まで烈火のノリに合わせていた。
だけど私と祭は如何しても“可愛いかな?” と自問自答してしまう。
「まっ、それはいいよね。後で写真送っておくよ」
「ありがとう、由里乃」
「うん、任せて。それじゃあ、テントに戻ろっか」
私達は見たかった夕陽を見終えた。
背景に写真も撮れた。
何だか凄くいいキャンプになった気がして、私達は夕陽が沈み行くのに合わせ、テントまで戻るのだった。
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