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◇204 猫を助けようとして

これで仲良くなったのよね。

「むぅー、全然釣れないね」

「そうだね。でも頑張ろ、由里乃」


 あれから二時間近くが経った。

 私の方の辺りも限りなく少なくなる。

 だけど由里乃はまだ一匹も連れなくて、竿を引いたり放ったりする時間が虚無的に流れる。そんな由里乃を励まそうとした私だけど、逆効果になってしまう。


「そう言いながら、もう十匹以上釣ってるよね、明輝」

「えへへ、偶々だよ」


 私はもう十匹以上釣り上げていた。

 大きめの葉っぱの上に並べると、これだけで大量だって分かる。

 だからこそ、由里乃は悔しそうだ。


「もう、負けてられないぞ! それっ」


 由里乃は負けじと釣竿をしならせた。

 水面を叩いた針が水中に飲み込まれる。

 そう簡単には釣れないよねと思いつつ、しばらく待ってみると、由里乃の釣竿が引っ張られた。


「うわぁ、なにか掛かった!?」

「早い。もしかして大物かな?」

「くっ、こ、この……うわぁ!」


 由里乃は必死に魚の動きに合わせようとした。

 だけど全然ダメ。体が岸から投げ出されると、時が止まったようにユックリとする。

 私は由里乃の姿を目で追うと、不意に思い出した。

 前にもこんなことがあったなと、バッシャーンの水飛沫と共に、記憶が呼び起される。





私と烈火は外で遊んでいた。

 って言っても、烈火に付き合わされただけ。

 テニスだと勝ち目がないから、試しにバスケットボールをしに行っていた。

 その帰りのことだった。


「いやー、楽しかったねー」

「うん。体育以外で、久々にいい汗かいたよ」

「あはは、明輝も運動部入ればいいのに―」

「うーん、そこまでじゃないんだけど」


 正直、運動部に入る気はない。

 だから誘って貰って嬉しいけど遠慮する。

 そんなこと百も承知だったのか、烈火も本気にはしていなかった。

 そんな平凡だけど青春って感じのする休日を謳歌している時だった。


「うーん、もう少し」


 突然声が聞こえて来た。

 何だか少女の声がしたので、私達は顔を上げる。


「あれ?」

「どうしたの、明輝?」


 私は視線の先に気になる姿を見つけた。

 記憶が正しかったら、間違いないよね?


「見てよアレ、アレって、祭だよね?」

「祭? ああ、いたね、クラスメイトに」


 見かけたのはクラスメイトの祭だった。

 私は何度か話しているから、呼び捨てにしている。

 それくらいの仲だけど、休日に会うなんて珍しい。

 それにしても何をしているのかな? 私は気になった。


「どうしたんだろ、祭」

「ちょっと聞いてみたら?」

「そうだよね。おーい、祭、なにしてるの?」


 私は烈火に言われた通り、声を掛けてみることにした。

 すると祭は私達に気が付く。

 「あっ、明輝……と、加竜?」と口ずさんでいた。


「見ての通り」

「見ての通りって……なにやってるの、由里乃」


 祭の視線の先を追った。

 すると川に掛かった橋、その近くに咲いた桜の木。

 枝の方を見れば、由里乃の姿があった。


「もう少し、あとちょっと……」


 由里乃は細い枝の先端に居た。

 そこでユックリと手を伸ばす。

 その先には白い何かが居て、生き物らしい。

 由里乃の手が触れた瞬間、グッと体を引き寄せた。


「よし、捕まえた! もう大丈夫だよ……って、うわぁ!」


 バキッ!


 凄く鈍い音がした。

 何だか嫌な予感がしたけど、その通りだった。

 由里乃の体が宙に投げ出される。


 バッシャーン!


 大きな音が鳴った。水柱が上がる。

 由里乃は木の枝が折れると、足から川に落ちた。

 その衝撃が凄まじくて、私と烈火は心配になった。


「祭、今なにがあったの?」

「由里乃が落ちた」

「落ちた!?」

「あはは、なんか面白い二人だねー」


 祭は何故か淡々としている。

 確かに起きたことはそうだけど、あまりにもアッサリとし過ぎている。


 おまけに烈火は笑っていた。

 由里乃と祭の雰囲気とか対応が面白いらしい。


「感心している場合じゃないよ! 由里乃、大丈夫?」


 私は由里乃が心配だった。

 感心している場合じゃないと思ったから。

 橋の上から川を覗き込むと、由里乃に声を掛ける。


「なにやってるの、由里乃!?」


 私は川に落ちた由里乃に叫んだ。

 すると由里乃と祭の視線を向けられる。


「あっ、明輝。それから……烈火だっけ?」

「うんうん、合ってるよー」


 烈火と直接話すのは初めての二人。

 戸惑うかと思ったけれど、由里乃は軽快に話し出す。

 烈火も烈火でかなりフランクで、取っつきやすかった。


「それよりびしょ濡れだよ? 大丈夫?」

「うーん、濡れたけど、それだけ。それよりさ、はい、祭」

「うん」


 由里乃はそう言うけど、全身びしょ濡れだった。

 頭まで川に浸かっているけど、腕だけは濡れていない。

 何故か。そんなの明らかで、小さな猫を祭に手渡す。


「大丈夫そ?」

「濡れてない。怖がってるけど、大丈夫」


 由里乃は猫の心配をした。

 自分の心配もした方がいいけど、本人はそれでよさそう。

 受取った祭も猫の容態を確認すると、怖がっているだけで、怪我はしていない。


「よかった。はくしゅん!」


 由里乃は大きなくしゃみをした。

 春だからポカポカとした陽気が心地いい。

 だけど水は冷たくて、全身が濡れている。

 このままじゃ風邪を引いちゃうよ。


「早く上がって、由里乃」

「そうする……けど、何処から上がろう」


 私は由里乃に川から出るように言った。

 だけど周りには梯子みたいな、上れるものが無い。

 困り顔を浮かべる由里乃は、笑って誤魔化そうとする。


「考えてなかったの!?」

「うん。咄嗟だったから」

「あはは、面白いねー」

「これが偶に傷。由里乃の良い所で、悪い所だから」


 祭にまで言われていた。

 だけど考えなしなのは、悪いこと……だけどやったのは良いこと。

 由里乃は川の中を泳ぐと、何とか上れそうな場所を探していた。変な休日になったなって、私は思っちゃったけど、これが私達との初絡みだった。





「ってことあったなー」

「なんの話?」


 私は思い出していた。

 そもそも、あんな無茶をしなくてもよかったのに。

 そう思う中、川に落ちた由里乃は首を捻る。


「それより明輝、見ているだけじゃなくて、手を貸してよ」


 由里乃は手を伸ばした。

 私はそれを見ると、ハッとは我に返る。

 腕を伸ばすと、由里乃を引き上げようとした。


「あっ、ごめん。はい、由里乃」

「よっと……うわぁ!」

「いや、私は……」


 由里乃は岸に上がろうとする。

 だけど靴が滑っちゃって、川に再び落ちそうになる。

 もちろん手を貸している私も川に落ちそうになるけれど、残念。


 バッシャーン!


「ううっ、ちべたい」

「大丈夫、由里乃?」


 由里乃は再び川の中に落ちた。

 全身くまなく水浸しになっていた。

 本当は私も落ちてあげたかったけど、ごめんなさい。無理でした。


「えっと、体幹が強いからかな?」


 私は川に落ちなかった。

 だけど由里乃の手は放していない。

 何だか悪いことはしてないけど、悪いことしたみたいな空気になると、由里乃は手のひらで水を掬った。


「それっ!」

「うわぁ、冷たい」


 私は咄嗟に避けようとした。

 だけど避け切れなくて、水を掛けられた。

 顔が濡れると、由里乃は面白いのか笑っている。


「あはは、私だけ濡れるのは無しだよ」

「もぅ、由里乃―」


 本当はやり返した方が面白い。

 だけど今の服のまま濡れるのはちょっとなぁ。

 私はあの時の由里乃を思うと川に飛び込むなんてできなくて、岸で水を掛け合いっこした。

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