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◇200 テントを建てよう

四人の少女の出会い。

「それじゃあこの辺に、テントを建てよっか」

「「「賛成!!」」」


 私達はテントを張る場所を決めた。

 そこそこ開けているから、邪魔な草木を避けて、石を回りに敷き詰めれば、焚火をしても山火事にはならない。


 何よりも嬉しいのは、少しだけ緩やかな斜面に向かえば、川が流れている。

 隣の山と隔てているおかげか、谷間に水流があること。

 そのおかげで、今晩は運がよかったら、魚が食べられるかもしれない。


「一応食べるものは持って来てるけど……必要ないよね?」

「なにか、言った、明輝?」

「ううん、なんでもないよ、烈火」


 私は独り言を烈火に聞かれていた。

 恥ずかしくは無いけど、空気は壊さないように配慮する。

 とりあえず荷物を一度下ろすと、クマ避けを周囲に施し、テントを建てることにした。


「由里乃と祭は、テントを建てたことあるんだよね?」

「うん。でも、明輝には敵わないよ!」

「そう。だって……」


 由里乃と祭は私のそんなことを言った。

 別に変なことは何もしていないんだけどね。

 何で褒められたんだろう? って、私は思っちゃった。


「うわぁ、明輝速いね!」

「えっ?」


 私はコンコンとペグをコンコン打ち込んでいた。

 それこそ、今日はテントを一つしか持って来ていない。

 私のお母さんが昔使っていた奴で、私も何度も使ったことがある。

 確か六人用で、かなりのスペースを使うけど、私は建てるのに慣れているから、通常の四分の一の時間で建てていた。何だか、前よりも速くなったかな? そんな気がする。


「そうかな? 慣れてるからかも」

「「慣れてるってレベルなの?」」


 何だろう。二人に引かれると、私も心外って感じがする。

 でも、蒼伊や雷斬・ベルと比べたら、何とも言えない。


「うーん」


 とは言え、由里乃も祭も大概だった。

 それこそ、夏休みにこうして四人で山キャンプをする仲になるとは、四月の頃は思っていなかった。そんな友達ができたことに感謝すると、私はふと思い出した。

 もちろん、その間も手は動かし続けてるけどね。





「担任の青山実瑠(あおやまみのる)です。このクラスの担任になりました。担当は数学です。ほとんどの人は数学が嫌いだと思いますが、一年間よろしくお願いします」


 担任の青山先生の挨拶から始まった。

 私達は元気よくだったり気怠そうにだったり、思い思いの挨拶を交わす。

 今日から高校生。私は少し緊張すると、美桜高校の制服を着ていた。


「緊張する……」


 私はギュッと胸の前で拳を握った。

 すると、隣の席の少女が話し掛けた。


「こんにちは、よろしくね」

「えっ!?」


 私は突然声を掛けられたから、視線を飛ばした。

 挙動不審な態度を取ってしまうと、少女はニコッと笑みを浮かべる。

 眼鏡が絶妙に似合ってない……なんて言えないよね?


「緊張してる?」

「う、うん。緊張はするよ」

「そうだよね。今日から高校生だからね。私も緊張してるよ……でも、それ以前に楽しみかな!」

「楽しみ?」


 何だか烈火と相性がとてもよさそうな少女だった。

 私は首を捻ってしまうと、少女はにこやかに笑みを浮かべる。


「私、中春由里乃。よろしく」

「私は、立花明輝よろしくね、由里乃ちゃん」


 私も不愛想にならないように、丁寧に愛想よく返した。

 緊張が少し解れたような気がして、上手く噛まずに言えた。


「由里乃でいいよ。それより……」

「ん?」

「あの席の子、チラチラ明輝のこと見てるけど、友達?」


 私は視線を前の席の方に飛ばした。

 そこに据わっているのは私の親友、加竜烈火。

 相変わらず落ち着きが無いのは、高校生になっても変わってなかった。


「うん。そうだよ」

「そっか。だから明輝のこと見ているんだね」

「ううっ、なんだか恥ずかしい……」


 凄く、凄ーく恥ずかしい気持ちになる。

 モゾモゾしてしまい、体を動かした。

 熱にボヤかされそうになると、私はピシッと視線を感じ取った。


「それじゃあ、あの子は由里乃の友達?」

「どの子?」

「ほら、後ろの……こっち見てるよ?」


 私は視線を左後ろに飛ばした。

 するとずっと由里乃に視線をチラチラ飛ばしている少女は居た。

 物静かなようで、凄く心配性な空気がある。


「ああ、私の親友だよ」

「親友なんだ。だから心配しているのかな?」


 何故だろうか。由里乃は烈火と同じニオイがする。

 確かに由里乃も好奇心旺盛そうだ。

 きっと相性がいい半面、面倒なことにも巻き込まれているんだろうなと、由里乃の親友に手を合わせた。


「って、それはそうと、先生の話聞かないと」

「あはは、そうだね」

「……ううっ」


 やっぱり烈火と同じニオイがする。

 もしかしてヤバい子と隣の席になっちゃったのかな?

 面白いし、烈火で慣れているからいいけど、私は何故かモソモソしてしまった。


「なんだろう。なんだか凄く大変そうだよ」


 この瞬間から、私は気にしていた。

 凄く色んな事が起きそうな三年間になりそうだと。

 何となくだけどそんな予感がしてしまい、私は無駄に緊張してしまった。





「そんな感じだったなー」

「どんな感じなの?」


 私は独り言を呟いた。

 すると由里乃が突然顔を出す。


「うわぁ、由里乃、ビックリさせないでよ」

「別になにもしてないよ?」


 私は普通にビックリしちゃった。

 転んで尻餅を付きそうになると、由里乃はポカンとしている。

 確かに何もしてないけど、突然顔を出さないで欲しい。


「それで、なに考えてたの?」

「えっ、それ訊くの?」


 由里乃は変なことに首を突っ込む。

 別に気にも留めなくていいのに。

 そう思う私だけど、由里乃の視線が気になって仕方が無い。


「入学初日のこと」

「入学初日? ああ、私達が初めて会った日だね」


 由里乃は普通に覚えていた。

 しかもこの話題にかなり乗り気だ。

 そんなに膨らますことでも無いんだけどね。


「隣の席だったもんね」

「私、緊張してたよね?」

「してたよ。でも今じゃ全然緊張してないね」

「慣れたから……って言うより、適応したからかな?」

「適応?」


 私はついついCUで学んだ言葉を口にした。

 すると由里乃は首を捻る。

 普段聞かない言葉だからだと思う。私はスパッと話を切り上げた。


「でも、こうしてキャンプに一緒に来るくらい」

「仲良くなったってことでしょ? いいよね、こういうの」

「うん」


 私は由里乃が広げようとする話の風呂敷を、この辺りで一旦仕舞う。

 まずは話すことよりも手を動かすこと。

 私はほぼ一人でペグを叩くと、地面に突き刺しテントを完成させるのだった。

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