◇197 色違いの短剣
納得のいかないアキラさん。
あれから数日が経った。
結局、太陽の古代遺跡の攻略はあんな形で幕を閉じた。
「アレでよかったのかな?」
「なんの話~?」
私はポツリと呟いた。
と言うのも、あんな中途半端な感じで終わってよかったのか、凄く引っ掛かる。
「黒鉄の巨兵は倒しましたよ、アキラさん?」
「そうだけど、まだ探索できそうだったよね?」
「ああ、地下空間のことね。それはそう……よね?」
地下空間の探索が中途半端だった。
あの時、地面が揺れなかったら、もっと探索できた。
だけどそんなことをしている暇もなくて、命からがら逃げるので精一杯。
別にそのことは悪いと思っていないけど、何だか引っ掛かる。
「あの時、もう少し慎重に動いていたら……」
「仕方が無いだろ。地震は止められないんだ」
Nightは本を読みながら、話に入り込んだ。
もちろん、Nightの言うことは正しい。
あんなの予期できなかったんだ。命があるだけマシに思った方がいい。
「終わったことをクヨクヨしても仕方が無いだろ」
「それはそうだけど……うん、そうだよね?」
いつもなら意識を切り替えれる。
けれど今日は何だか上手く行かない。
ここ数日ずっとモヤモヤしていて、そのうち忘れると思うけど、何だか引っ掛かる。
(あの場所になにかあったのかな?)
私は太陽の古代遺跡に何か置き忘れた物があったのかなと考える。
だけどそんなものは一切無い筈だ。
訳が分からなくなる中、そんな私を鑑みてか、Nightは口を開いた。
「あっ、そうだ。アキラ!」
「ん?」
唐突に話を変えられた。
Nightは私に声を掛けると、スッと首を回した。
「どうしたの、Night?」
「お前、この間短剣のことでボヤいていたな」
「えっ?」
“短剣”の話なんてしたっけ? 私は思い出す。
すると黒鉄の巨兵と戦っていた時のことを思い出した。
あの時、確かに短剣が効かなかった。そう言えば装備しているけれど、最近切れ味が悪い。
「そう言えば効かなかったね。あの時……」
「アキラさん。短剣が刃毀れしていますよ!」
「えっ?」
私は短剣をベルトの鞘から抜いた。
すると雷斬が素早く飛び付く。
私の見せた〈初心者の短剣〉は、確かに刃の部分がポロンと刃毀れしている。
これじゃあまともに切れないのも当然で、私は先端の部分が抉れて短くなった短剣を見つめた。
「本当だ。どうして? もしかして、この間無理したから?」
「そうだろうな」
「うーん」
私は唇を噛んだ。
何だか悲しくなってしまうのは、ずっとここまで使って来たからだ。
だけど刃毀れしちゃったら、もうまともに使えない。私は目を伏せると、Nightは私から短剣を取り上げる。
「やっぱりな」
「Night?」
「そんな顔をするな。いいか、この世に存在する数多のものは、必ず壊れるんだ。だからコイツも壊れる、それだけの話だ」
Nightは短剣をクルクル回した。
手首のスナップを活かして巧みに操ってみせる。
凄くカッコいい言葉を言っていて、私は何だか胸を打たれる。
「だが、武器が無いのは困るな」
「そうですね。武器を買いに行きますか?」
「そうね。って言っても、アキラはどんな武器でも使える訳じゃないでしょ?」
「あはは、いっそのこと、武器なんて使わなかったらいいのにねー」
雷斬とベルは真剣に考えてくれていた。
フェルノはいつものようにノリだ。
でも確かに、私は最近武器をほとんど使ってない。
きっとそのせいで、短剣をダメにしちゃったんだろうな。私は自分の責任を重く受け止める。
「でも、短剣をダメにしちゃったのは、私だから……」
「そんなことは無いだろ。それに、新しい物を用意すればいい」
「用意すればって……なにしてるの、Night?」
私は顔を上げた。
そこに立っているNightは変なものを床に置いている。
黒い板? 何だか鉄製みたいだけど、見覚えがある。
「もしかして、黒鉄の巨兵の?」
「そうだ。あの鉄くずを使うことにする」
「使うってなにを……あっ!」
何となく想像ができた。
確かに鉄くずはみんな手に入れた。
でも使い道が分からなくて、全部ギルドホームに置いてある。
その内の一枚を使って作る物。もしかしてと思うけど、本当にそうらしい。
「決まっているだろ。【ライフ・オブ・メイク】」
Nightはスキルを使った。
お得意の固有スキル【ライフ・オブ・メイク】を発動。
すると床に置いていた鉄くずの一部が切り取られ、形がみるみるうちに変わる。
その形は、完全に短剣だ。真っ黒で、艶があって、なんかカッコいい。
「できたな」
「「凄い」」
「へぇー、いいわね」
「はい。見た所、性能は一度置いておくとしまして、素材が変わってしまいましたが、全く同じものの様に見えます」
私達はそれぞれが思い思いの感想を述べた。
まさか、一瞬で短剣を作ってしまうなんて。
しかも、私が使っていたものと全く同じ。Nightはクルンと指で回すと、「ふん」と鼻を鳴らす。
「少し重いが、威力は出るな。やはり簡単なものは作りやすい」
短剣を作っちゃうなんて、しかも真似しちゃうなんて。
全然簡単じゃない気がするけど、Nightにとっては造作もないことらしい。
私達は圧倒されると、Nightが私に手渡す。
「素材や重さは変わったが、使える筈だ」
「ありがとう、Night」
「ふん。私はあまり役に立てなかったからな。それに使える物はなんでも使う。それが手段に繋がるんだ」
Nightは真っ当なことを口にした。
私達はポカンとしてしまうと、頭の中で確かにと納得。
渡された短剣は、刃毀れしちゃった短剣と色違いだけど、全く同じもの。
素材が違うから重さも違うけど、それでも使える。
「あー」
短剣を受け取ってしばらく、私は見つめてしまった。
別に何処かおかしな所は無い。
それでもNightは説明する。
「一応作ったが、あくまでも模倣品だ。耐久値は通常のものよりも低い」
「それじゃあすぐに壊れちゃうわよ?」
「その時はその時だ。新しい武器に……ん?」
私はNightの話を片耳で聞いていた。
そのまま流してしまうと、短剣を見つめたまま。
何だろう。心のモヤモヤが切り落とされた。
「ん? どうした、アキラ」
「なにかあったのー?」
私は固まってしまった。
受け取った真っ黒な短剣を未だに見つめている。
「あはは、気に入ったのー?」とフェルノが呟く。
「もしかして、それじゃあ嫌だったの?」
「そうですね。同じものとは言っても、好みが……」
ベルと雷斬が別の方向から訊ねた。
もちろんそんなんじゃない。
ただ私は、黒い短剣を手にして思った。
「なんか、これでいいって感じがするね」
「「「はっ?」」」
誰にも伝わっていなかった。だけどそれでよかった。
これは私の気持ちの問題だ。
結果が如何あれ、頑張った、楽しかった、結果は出た。最高になった。
そう思えるだけで私は嬉しくて、何よりこの短剣が証明だよ。
「Nightが模倣した、短剣か。うん、これで充分だよ」
「なんだ? 含みが混ざっているな」
「気にしないで。私、もう大丈夫だよ!」
一人で納得してしまう。みんなを置いてけぼりだ。
だけどこの短剣を手にしただけで、頑張った甲斐がある。
だって、友達が作ってくれたんだ。それで何だか心が温かくなる……よね?
少なくとも私はそうで、笑みを浮かべていた。
「よしっ、次も頑張るぞ!」
私は一人で吠えていた。
自分の中で意識を切り替える。
考えを変えれば世界はどんな形でも明るく見える。
そんな自分の得意分野で捻じ伏せると、暗い感情何てなんだったのかな?
それくらいに思えてしまうと、私達の夏休みの結果を噛み締めた。
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