◇196 崩落する地下空間
アキラ達の戦った意味ってなに?
「なんだろう、この気持ちよくない終わり方……」
私は正直な感想を吐露した。
ここまで頑張ったのに、最後はフェルノの独壇場だった。
結局、何やったんだろう? って気持ちになる。
「仕方が無いだろう」
「仕方が無いって……」
「勝ったんだ。それで“よし”としろ」
Nightはもう諦めていた。
勝ったことだけを考えて、過程は捨てている。
あんなにアッサリ終わるとは思っていなかったみたいで、何故か歯切れが悪い。
「イェーイ、イェーイ、勝ったぞー」
「ほら、アレだけ喜んでいる奴の前で、暗い顔をするのか?」
「できないよね」
私は即答した。何せ、当の本人が喜んでいる。
フェルノは腕を振り上げ、一人でバンザイをしていた。
それだけで、何も言えなかった。
「フェルノ、喜び過ぎよ」
「だって嬉しいじゃんかー。ようやく活躍したんだよー」
「ようやくではなく、フェルノさんはずっと活躍していましたよ」
「ありがとー、雷斬。でさ、これからどうするの?」
ベルと雷斬は優しかった。
フェルノの活躍を讃えている。
多分だけど、フェルノは変なことを言っても怒らない。
全部楽しくて笑って許してくれる筈だ。
「そうだな。とりあえず全員ドロップアイテムを確認しろ」
何もすることが無い訳ない。
とりあえずステータスとドロップアイテムを確認する。
「えっと……おおっ!?」
——レベルアップ! “アキラ”のレベルが13になりました——
——ドロップアイテム獲得! 黒鉄の鉄くずを獲得しました——
「レベルが上がってる。後、変なアイテムも?」
「手に入っているな。これは、“黒鉄”?」
嬉しいことにレベルが上がっていた。後、使い道のよく分からないアイテムも手に入った。
Nightやフェルノも同じような顔をしている。
ポツリと呟いたのは、やっぱり気になる“黒鉄”の二文字。目の前の巨兵を倒したから得られた限定アイテム? かな。
「もしかすると、この巨兵の素材でしょうか?」
「そうみたいね。今回は、素材が目の前にドロップしないのね」
雷斬も“黒鉄”系の素材が落ちたらしい。
後、ベルの言葉からも分かるけど、今回はゲームの中でも更にデータとしてアイテムがドロップした。ゲーム世界のリアルには、直接アイテムがドロップしていない。
違いが全然サッパリ分からなかった。
「そうらしいな。とは言え、この反応……」
Nightは全員の顔色を窺った。
考えなくても分かるけど、微妙な反応だ。
多分、みんな同じ系統の素材が落ちたんだ。
「コレ、なにに使うの?」
「さぁね~」
「だよね。分からないよね……」
フェルノに訊いても分からないのは知ってた。
だけど知ってそうなNightも黙ってる。
きっと分からないんだろうな。ってことは、不用品? 私はそう思った。
「仕方が無い。一旦忘れるぞ」
「忘れるって……ええ?」
「他になにかないか探すぞ。きっとなにか……ん?」
Nightは黒鉄の巨兵に近付く。
もしかすると、私達が見逃がしただけで、何かあるかもしれない。
そう期待したけれど、何故か顔を突っ込んだNightは止まった。
嫌な音が聞こえたみたいで、私は「ん?」となった。
「どうしたの、Night?」
「いや、今のは……気のせいじゃないな。全員逃げるぞ」
Nightの行動は早かった。とんでもなく迅速だった。
もはや私達が判断するよりも前の段階だ。
私は顔色を歪めると、Nightは急いで黒鉄の巨兵から離れた。
「に、逃げる?」
「そうだ。急いで逃げないとマズいぞ」
Nightがそう言った瞬間、急に地面が揺れ始めた。
ガタガタガタガタと凄まじい振動が伝わる。
立っているのがやっとの状態で、壁や天井の土が落ち始めた。
「う、うわぁ、な、なにっ!?」
「恐らくは黒鉄の巨兵を倒した影響だ。地盤が緩んで、衝撃が振動に変ったんだろうな」
そんな漫画みたいな展開有りなの?
私はそう思ったけど、事実は事実。
とにかく揺れが酷くて、急いで逃げないと生き埋め間違い無しだ。
「ど、どうしよう、Night!?」
「どうするもないだろ。全員走れ、急いで地下から脱出するぞ」
焦った私はNightに訊ねた。流石に心はまだ冷静な経験を積んでいない。
そんな中、Nightの指示はいつもよりも厳しい。
無茶を承知で、生き残るための最善策を考えた。
「こんなに揺れてるのに? 動いた方が危険だよ」
「動かないと死ぬぞ」
「ううっ……みんな、行ける?」
絶対にこんな揺れで動かない方がいい。
だけど動かないと死ぬのも事実。
一応みんなに確認を取ると、全員大丈夫そう。寧ろ行けそうだ。
「行くしかないんでしょ」
「大丈夫ですよ」
「よっしゃ、行くぞー。おー!」
みんな異様にノリノリで、余裕そうだった。
特にフェルノはテンションがおかしい。
相変わらず元気一杯で、怪我したことも忘れていた。
「あ、あはは。アドレナリンが凄いんだね。でもそうだね、行くよみんな!」
考えたって仕方が無い。生きて帰るためには逃げるしかない。
いくら危険なことでも乗り越えられる。
だって、黒鉄の巨兵を倒したんだ。そんな私達が超えられない訳ない……もんね?
「まずは螺旋階段だ。そこ意外に、地上に出るための道筋はない」
そう言うNightは最後尾を走っていた。
もう背中が丸くなっていて辛そう。
それでも声を張り上げ、何とか付いて来ると、目の前に黒い物を捉えた。
「皆さん、螺旋階段です!」
雷斬が叫んだ。
目の前にはここまで下りてくるために使った螺旋階段が見える。
ようやく辿り着いた。私達は階段の板に足を掛ける。
「急げ、階段を駆け上がれ!」
「そんなこと言ってるNightが一番遅いんだよ!」
Nightは私達に指示を出した。
だけど一番最後尾で、一番遅かった。
「うっ、仕方が無いだろ。私は体力が……うわぁ!?」
Nightは自分の体力の無さを自覚していた。
喋っている余裕もないのか、捲し立てることもできない。
息を切らしていると、一番遅れていることもあり、階段の板に爪先をぶつけた。
「Night!?」
「よっと。えへへ、ちゃんと前見て走ろうねー」
「クソッ、お前にだけは言われたくない」
Nightは階段の板を踏み外した。
螺旋階段だから、走り難いのはあった。
一人転びそうになるNightだったけど、フェルノに腕を掴まれる。
ナイスだったけど、Nightは不服そうだ。
「皆さん、急いでください。崩れますよ!」
「そうよ。早くしなさい」
けれど雷斬とベルの言う通り、螺旋階段は崩れかけていた。
地面を伝う振動に、流石に負けてしまっている。
このままじゃせっかく倒したのに終わりだ。そんなの嫌だから、無駄口は叩かないで一気に駆け上がる。
「見えましたよ、地上です!」
黙々と螺旋階段を駆け上がった私達。
ようやく地上の入口が見えると、少しだけど喜んだ。
これで助かる。そう思ったけれど、まだ甘い。
「バカ、地上に出ても止まるな。そのまま太陽の古代遺跡も出ろ」
「「「えっ!?」」」
念には念を入れているNight。
地上に出ただけじゃダメらしくて、私たちは太陽の古代遺跡も飛び出すように指示される。
緩めかけていた足を引き絞る。
全速力で命の危機から助かるためには知った。
各々が黙って、険しい顔をして(フェルノと雷斬以外)、マンホール上の入口から飛び出した。
「よ、いしょっと!」
「止まるな、走れ!」
「分かってるよ。えいっ!」
私達は太陽の古代遺跡から駆け出す。
急いで外に飛び出し、月の光を浴びる。
まだ深夜なのは変わらない。太陽が一切出ていない中、私達は何とか全員脱出した。
「はぁはぁはぁはぁ……間に合ったわね」
「そうですね、ふぅ、ふぅ……疲れましたね」
「あはは、楽しかったー」
「楽しかったじゃないだろ。全く……ん?」
全員少なからず息を切らしていた。
まだ地面は少し揺れていて、体がフラフラする。
そんな中、Nightは私の様子を気にした。視線の先には、太陽の古代遺跡がある。
「見て、太陽の古代遺跡が!」
私は指を指していた。
地上に出てもまだ揺れているのは、それだけ影響が大きいから。
丈夫な造りの筈の太陽の古代遺跡すら揺れていて、本当に危険だった。
「これ、崩れるかもしれないな」
「崩れちゃうの!?」
「ああ、形あるものは、必ず壊れる運命にあるからな」
これだけ丈夫そうな建物でも、最後には壊れてしまう。
それが自然の摂理で、抗うことができないもの。
Nightは良いことを言うと、私達は達観した。
ガタガタガタガタガタガタガタガタ……ボトッ!
「「「あっ!?」」」
その瞬間だった。本当に崩れた。
太陽の古代遺跡の一部、中の様子は分からないけれど、少なくとも軒の部分が崩れた。
すると入り口部分を覆ってしまい、出入りできなくなってしまう。
「ほ、本当に崩れた?」
「言霊でしょうか?」
「はぁっ!? 絶対に違うでしょ!」
「ですが……」
「単に振動が伝わって、脆くなった部分を崩しただけだ。しかしよかったな。生き埋めになって、強制ログアウトしなくて」
あのまま、ほんの少しでも判断が遅かったら今頃は……想像したくもない。
私達は身震いすると、助かったことに感謝する。
強制ログアウトは辛い。精神に来るって、聞いたことがあるから、とりあえず安堵する。
「確かに。幸運だったわね」
「あはは、ボスも倒したしねー。結果オーライ?」
「そうだな。アキラ?」
本当に幸運だったと思う。
一歩間違えたら、きっと死んでいたに違いない。
私は結果的には何とかなったけど、物足りない感も、若干あった。
それはみんなが共有していることで、私が言っても仕方がないんだ。
「うーん、うん。楽しかったね」
「そう……だな」
私はここまでの苦労を重ねた。
大変だったし、最後はアッサリだったけど、これでよかったと思うことにする。
Nightは私の心中を察してくれたけど、確かに結果オーライかも。
そう思い込むことにして、月の光に当てられた太陽の古代遺跡を眺めていた。
【ステータス】
■アキラ
性別:女
種族:<ヒューマン>
称号:《合成獣》
LV:13
HP:220/220
MP:220/220
STR(筋力):68/70
INT(知力):68/70
VIT(生命力):68/70
AGI(敏捷性):68/70
DEX(器用さ):68/70
LUK(運):68/70
装備(武器)
武器スロット:〈初心者の短剣〉
装備(防具)
頭:
体:〈朝桜のジャケット〉
腕:
足:〈朝桜のショートパンツ〉+〈朝桜のスカート〉
靴:〈朝桜の忍靴〉
装飾品:〈銀十字のネックレス〉
種族スキル:【適応力】
固有スキル:【キメラハント】+{【半液状化】,【甲蟲】,【灰爪】,【幽体化】,【熊手】,【蠍尾】, 【衝撃波】},【ユニゾンハート】
■Night
性別:女
種族:<吸血鬼>
LV:15
HP:240/240
MP:240/240
STR(筋力):51/80
INT(知力):115/80
VIT(生命力):66/80
AGI(敏捷性):52/80
DEX(器用さ):100/80
LUK(運):80/80
装備(武器)
武器スロット:〈十字架の剣〉
装備(防具)
頭:
体: 〈黒夜・シャツ〉
腕:
足:〈黒夜・パンツ〉
靴:〈黒夜・ブーツ〉
装飾品: 〈銀十字の首飾り〉〈黒夜・コート〉
種族スキル:【吸血】
固有スキル:【ライフ・オブ・メイク】
■インフェルノ
性別:女
種族:<ファイアドレイク>
LV:10
HP:190/190
MP:190/190
STR(筋力):72/55
INT(知力):41/55
VIT(生命力):55/55
AGI(敏捷性):64/55
DEX(器用さ):55/55
LUK(運):56/55
装備(武器)
武器スロット:〈初心者の短剣〉
装備(防具)
頭:
体: 〈冒険者の軽装(上)〉
腕:
足: 〈冒険者の軽装(下)〉
靴: 〈冒険者の軽靴〉
装飾品:
種族スキル:【吸炎竜化】
固有スキル:【烈火心動】
■雷斬
性別:女
種族:<雷獣>
LV:12
HP:210/210
MP:210/210
STR(筋力):72/65
INT(知力):65/65
VIT(生命力):64/65
AGI(敏捷性):90/65
DEX(器用さ):73/65
LUK(運):65/65
装備(武器)
武器スロット:〈雷に打たれし鈍刀〉
装備(防具)
頭:
体: 〈封雷坊の装束(上)〉〈雷の羽織〉
腕:
足: 〈封雷坊の装束(下)
靴: 〈封雷坊の草鞋〉
装飾品: 〈雷模様の髪飾り〉
種族スキル:【雷鳴】
固有スキル:【陣刃】
■ベル
性別:女
種族:<シルフィード>
LV:12
HP:210/210
MP:210/210
STR(筋力):61/65
INT(知力):70/65
VIT(生命力):66/65
AGI(敏捷性):78/65
DEX(器用さ):99/65
LUK(運):65/65
装備(武器)
武器スロット:〈蜻蛉翅〉
装備(防具)
頭:
体: 〈妖風のブラウス〉
腕:
足: 〈妖風のタイトパンツ〉
靴: 〈妖風のブーツ〉
装飾品:
種族スキル:【風招き】
固有スキル:【仮面装着】




