◇194 高熱レーザー
レーザーはダメでしょ!
「よし、このまま一気に叩くぞ!」
Nightが叫んだ。私達も呼応する。
首を縦に振ると、黒鉄の巨兵に向かった。
バランスを崩し、地面に片足を突っ込でいる。
何もしなくても、後は勝手に潰れてくれる。Nightはそう予想していたけれど、まだ私達の攻撃は終わってない。
「【キメラハント】+【甲蟲】。はぁっ!」
私は黒鉄の巨兵に拳を振りかざす。
ここまで全然だったけど、ようやく倒せるんだ。
自重を利用して、黒鉄の巨兵を追い詰めた私達。
その瞬間、真っ赤な単眼が光り出す。
赤い光がより一層濃くなると、唐突に熱を感じた。
「あ、熱ぃ!?」
全身を包み込む強烈な熱。
一体何が起きているんだろう。
両腕はもう使えない。両脚も自重で動かせない。
それじゃあこの熱の原因は単なる威嚇?
そう考えられる程、Nightは冷静でも無かった。
「この熱さ……アキラ、止まれ!」
「えっ?」
Nightはそう叫んでいた。
だけど私はもう止まれない。
拳を振りかざして、軽く地面を蹴っていた。
体が宙に移ると、その瞬間、私の視界が真っ赤に染まる。
ギギギギギギギギギギギギギギギ……ジュ――――――――――――――――ン!!!
もの凄い熱が私の体を襲った。
何が起きたのか。そんなの分からない。
ただ、一つだけ言えるのは、私の視界が赤一色に染まったこと。
突然高熱レーザーを単眼から放った黒鉄の巨兵は、私のことを飲み込むと、流石に回避何てできる訳なかった……
「いや、しないと死ぬんだ!」
その瞬間、頭の中が澄むになる。
周囲の光景が止まって見えると、私の体が思考を先読みする。
高熱レーザーが放たれた瞬間、私は攻撃を止めた。
代わりに黒鉄の巨兵の大きな体を上手く使うと、レーザーの反対側。つまり、黒鉄の巨兵の後ろに逃げ込む。
「あ、危なかった……」
私は壁にしがみついていた。
もちろんただしがみついた訳じゃない。
私のお尻からは、変な尻尾が生えている。
初めて使うけど、【蠍尾】って言うスキルだ。
「まさか、こんな所で使うなんて」
私は高熱レーザーを上手く避けた。
体に触れる瞬間に黒鉄の巨兵の腕に【蠍尾】を引っ掛けた。
そのままクルンと回転を利用して後ろに飛んで、壁に針を刺した。
あまりにもアクロバティックな動きに私は自分で自分が怖くなるけれど、助かってよかった。
「でも、よかった。それにしても、まさかあんなに動けるなんて。私、凄い?」
自分で言うのもなんだけど、何だか凄い気がした。
開いている片手を握ったり開いたりしてみる。
不思議な感覚に陥る中、視線を飛ばすと、Night達がホッと胸を撫でている。
「どうやらアキラは無事らしな」
「そうね。それにしても、まさか高熱レーザーまで放たれるなんてね。驚きだわ」
私の無事を確認してくれた。
とりあえず私が戻るまでの間に、みんなが何かやりそう。
私、邪魔かな? と思いつつ、少しだけ待ってみた。
「ですがこれで仕掛けられますね」
「そうね。それじゃあ一気に……ん?」
雷斬とベルは攻撃を仕掛ける気だ。
ごめんなさいな気持ちで一杯になると、私もみんなの補助をしようとする。
だけどベルの様子が何故かおかしくて、眉間に皺を寄せた。
「ねぇ、なんか赤くない?」
「そうだな。まさかとは思うが……」
Night達が慌てている。
黒鉄の巨兵の頭を凝視した。
“赤い”って、単眼のことかな? さっきから赤い気がするけど、もしかして違うのかな?
「レーザーの準備か!?」
Nightは何か叫んでいる。
“レーザー”って聞こえて来たような気もする。
だけど何の事か後ろからじゃ分からないし、全然見えなかった。
「ちょ、嘘でしょ。さっきレーザーは放ったでしょ!?」
「どうやらアレは試行だったらしいな」
「試行ですって!?」
凄く嫌な予感がする。
今、確かに“試行”って聞こえて来た。
もしかして、黒鉄の巨兵……まだ本気じゃない?
この動きのユックリ具合、まだ何かしようとしているのかな? 放熱も凄いもん。
「そんなの聞いてないわよ。それじゃあさっきアキラを襲った奴がもう一発来るの!?」
「いや、それ以上だな」
「もっと聞きたくなかったんですけど?」
何だか揉めている。よく聞こえないけど凄くマズい状況だ。
ベルが冷静さを欠いていて、Nightに当たってる。
きっと何かあったんだ。何だろう、もしかしてまだレーザーが出るのかな? それじゃあ慌てるよ、私だって慌てるもん。
「一旦落ち着け」
「落ち着いてるわよ」
「いや、落ち着いていない……特に雷斬、お前、刀を握るな」
“雷斬”? が如何したのかな。
私は視線を飛ばすと、雷斬は刀の柄を握っている。
今にも動き出しそうで、一歩Nightににじり寄る。
「いざとなれば、私が切ります」
「バカ、切れる訳ないでしょ!」
「しかし、今動けるのは……」
如何しよう、如何しよう。みんな動いてる。
私も援護したいけど、そんな都合のいいスキルは持ってない。
それに私が動いたら逆に危険に巻き込みそう。
壁に張り付いているのが限界な私は、みんなのやり取りを黒鉄の巨兵の後ろで見ていることしかできな……くもない?
「そっか。私がここから蹴って、攻撃の軌道を無理矢理変えれば……せーのっ!」
私は剥き出しの壁を蹴り上げた。
その拍子に【蠍尾】を解除すると、私の体は宙に投げ出される。
上手く黒鉄の巨兵の頭を蹴り飛ばすと、単眼の向きが変わった。
「「アキラ!?」さん!?」
「アイツ……」
黒鉄の巨兵の頭を蹴った私。
そんな姿に雷斬とベルは悲鳴を上げた。
どっちの意味かは分からないけど、何故かNightは険しい。
理由は知らないけど、とにかく私はできることはした。足搔いてみせた。
「みんな大丈夫? これで軌道が……えっ?」
私は受け身を上手く取って、地面に着地した。
怪我は一切していない。慣れててよかった。
そう思いつつ、みんなの顔を見た。きっとこれで助かった……と思ったけれど、全員顔色が悪かった。
「バカかお前。スキルを使っていないただの蹴りで、攻撃の軌道が変わる程、鉄が動くと思ってるのか」
「いや、思っては無いけど……」
「更に追加で一人危険に晒されただけだろ」
訳が分からない私は、振り返った。
すると黒鉄の巨兵の頭は私達を見ていた。
確かに頭は蹴った筈なのに。そう思ったけれど、それじゃあ意味が無かった。
Nightが言うには私のやったことは無駄足で、黒鉄の巨兵には通用しなかった。
「それじゃあどうするの!?」
「こうなったら私の盾で……対戦車用装甲で足りるのか?」
私はパニックになりそうで、頭を抱えた。
そんな中でもNightは至極冷静。
【ライフ・オブ・メイク】を使って盾を作ってくれるらしいけど、ゲームの中だとどれだけの性能に反映されるか、あのレーザーを耐えきれるか分からなかった。
「やってみるしかないよ!」
「お前な……仕方が無い。スキルを……あっ」
私はNightを励ました。とにかくやるしかなかった。
それを受けてNightはスキルを使おうとしたけれど、使えなかった。
総HPが足りていなかった訳じゃない。
私達がゴチャゴチャ喋っていたせいだ。
Nightがスキルを発動するよりも早く、エネルギーの重点を溜めると、黒鉄の巨兵は単眼から高熱レーザーを放った。
視界が真っ赤に染まる。流石に逃げきれないし、盾も間に合わない。
思考が完全に真っ白になり、全ての数値が〇になる。
それでも足搔いて生き残る術を取ろうとしたけれど、射程の中に居た私達は逃げられなかった。
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