◇193 壊せ、歯車!
ピンポイントであり雑な作戦だな!
「と言うことでだ。あの露出した部分を狙うぞ」
「やっぱり!」
そう来ると思ってた。そうなると思ってた。
絶対にそれだけはヤバいと思う。
だって危険に飛び込むのと一緒で、もし拳を繰り出されたら終わりになる。
「Night、そんなの無茶苦茶だよ。死んじゃうよ!」
「確かにその危険はあるな」
「あるんだ? それじゃあますますダメだよ!」
危険はないならまだよかった。
だけどNightの考えはやっぱり危険があって前提だった。
私は全力で否定をするが、Nightは理論を重ねる。
「だが、黒鉄の巨兵の目に見えた弱点は少ない。あの露出した排熱口ならば、攻撃も通る筈だ」
「通る筈って……」
根拠はもの凄く薄い。私はガクリと肩を落とす。
そんな中、Nightは拳銃を黒鉄の巨兵に突き付けた。
狙っているのは腕の灰熱口だ。
「ここから私が狙ってもいいが、そこまでの効果は無いだろうな」
「当たるの?」
「当てはする。けれど直接的に、歯車を破壊することはできないだろうな」
Nightは自分の弱さを知っていた。だからこそ、苦い顔をする。
拳銃を突き付けて、銃口を合わせる。
当てることは出来ても、それで何かが変わる可能性は低いみたい。
「歯車を壊すってことは……」
「動かせなくする。ただの置物にしてしまえば、そのままバランスを崩す筈だ」
「やっぱり……」
Nightの狙いは歯車を壊すことだった。
そうすれば黒鉄の巨兵が動かなくなる。
それが最大の狙いらしい。
私はNightの考えがより一層解るようになって来た。
そのおかげだと思うけど、スッと項垂れてしまう。
だってそんなの無理難題だ。何よりも危険で、私は断固反対……もできない。
「でも、それしかないんだよね?」
「最善ではないが、可能性はあるな。なんならもっと確率の高い安全策を……」
「ううん。それじゃあつまらないもんね。やってみよ、ねっ!」
普通に他の安全策があるなら、そっちの方がいい。
だけどここで時間を費やしても、長期戦になるだけ。
私達の方が不利な気がなんとなくすると、ゲームってこともあるから、できないことを楽しむことにした。
「それじゃあアキラが最初にやるのね」
「えっ、私なの?」
「逆に誰がやるのよ。ほら、行きなさい」
ベルに背中を押された。
別にそんな気持ちで言った訳じゃないのに。
私は表情を暗くするも、戦うしかなからスキルを使った。
「【キメラハント】+【甲蟲】+【灰爪】」
私はスキルを重ねた。
別に足は速くなってないから普通に飛び掛かる。
動かない黒鉄の巨兵の膝を利用してユックリでも叩く飛ぶと、黒鉄の巨兵に攻撃した。
「このまま楽に攻撃なんて……無理なだよね?」
当然だけど、黒鉄の巨兵も反応する。
右腕を思いっきりスイングすると、私に拳を繰り出した。
熱を放出させながら、すぐ目の前に拳があった。
「ここで避けないと……死ぬっ!?」
私は目の前に飛び込んで来た巨大な拳に恐怖する。
だけど死にたくない一心で体を捩じり、逆に拳を踏み台にする。
そのまま勢いを付けてけると、爪を隙間に引っ掛けた。
ガガガガガガガガガガガガガガガ!
鈍くて嫌な音が聞こえる。
耳障りになる中、爪が歯車に引っ掛かると動きが悪くなった。
その拍子、もっと嫌な音が聞こえた。黒鉄の巨兵にとって。
バキン!
鈍い嫌な音が聞こえた。
同時に黒鉄の巨兵の腕から、何かが飛び出す。
排熱用の隙間から、小さな金属部品が飛び出すと、地面に転がった。
「アレって……歯車?」
私が理解すると、黒鉄の巨兵の右腕の動きが鈍くなっていた。
ビリビリと電気を放ち、ダランとしたまま動かない。
体の重心が右に傾くと、そのまま不安定に立ち尽くす。
「まずは右腕。これで攻撃手段を一つ奪ったな」
Nightはニヤッと笑った。
もしかして本当に上手く行ったのかな?
「よかった」と私は胸を撫でると、目の前に見えた巨大な黒い拳に恐怖する。
「ううっ、あんなのできればやりたくないよ」
本当に怖くて危険だった。
私は身震いしたまま地面に下りると、黒鉄の巨兵の様子がおかしい。
右腕の機能を失った結果かな? 体が傾いて、地面に片足が沈み込んでいる。
「黒鉄の巨兵、バランスを崩してる?」
「そうだ。このまま自重で押し潰すぞ」
「押し潰す?」
確かに黒鉄の巨兵はバランスを崩していた。
だけど“押し潰す”ってどういうことだろう?
私は言葉の意味が分からなくて、一人困ってしまう中、雷斬は飛び出す。
もう片方の腕を使えなくする気だ。
「Nightさん、では私が左腕を」
「ああ、頼んだ。ついでに……」
「はい、任せてください」
【雷鳴】を呼び覚まし、雷斬の体が稲妻に包まれる。
電気がビビリと走り、雷斬の息が白くなる。
全身の筋肉が猛烈に共鳴すると、そのまま目の前を消えた。
黒鉄の巨兵に切り掛かったんだ。
「はっ!」
目の前から消えた雷斬。
瞬く間に黒鉄の巨兵に近付くと、足や腕を切り刻む。
電光が走り抜け、私達の目じゃ到底追えない。
だけど黒鉄の巨兵の体にたくさんの傷を付けていくと、パキン! の音と一緒に歯車が一つ弾け飛んだ。
「よし、これで……」
Nightの予想通りだった。
黒鉄の巨兵は左腕をダランとさせた。
動かせなくなると電気をビリリと放ち、そのまま動かなくなる。
「Nightさん、これでよかったでしょうか?」
「ああ、充分だ」
「ねぇNight、雷斬になにをお願いしたの?」
雷斬は役目を終えて戻って来た。
Nightに何かお願いされていたのか、不安そう。
だけど「充分」と言われてホッとすると、私は雷斬がしたことを考える。
まず右脚から入って、左腕に飛んだ。
下から7を描く様な軌道で、たくさんの傷を付けた。
それで歯車を破壊したけれど、何のために右脚を攻撃したのかは分からない。
「なにをだと? それは……」
「ここからは私の出番ね。避けて、アキラ」
Nightが説明しようとすると、ベルが割り込んだ。
ここからは自分の番って言いたそう。
“私の番”? に首を傾げるが、ベルの用意は万端らしい。
「一射で崩すわよ」
弓を構えていたベルは、番えていた矢を放った。
その軌道は真っ直ぐで、空気抵抗を無視する。
そのまま放たれた矢は黒鉄の巨兵の右脚に直撃すると、大きな罅を入れた。
「罅? まさか!」
「そのまさかだ」
私は雷斬とベルの連携の答えを知った。
わざわざ右脚を狙った理由。
それがようやく理解されると、大きな罅が走り、黒鉄の巨兵の重心が完全に崩れた。
ゴォー――――――――――――――ン!!!
けたたましい地響きが走る。
私達は地ならしで体をのけ反ると、立っているのがやっと。
特にNightはプルプル震えるが、目の前で起きたのは衝撃の光景だった。
「な、なにが起きたのよ?」
「見てください、アレを」
「アレって……嘘でしょ!?」
雷斬とベルは顔を上げる。
今何が起きているのか、正直分かっていなかった。
だけど黒鉄の巨兵の散々な姿に、驚愕して口を覆う。
「嘘でもなんでもない。これで直に崩れる筈だ」
Nightは冷静に言った。
嘘でも無いし、直に崩れる……よりも、飲み込まれる方が近いかも。
私は体の三分の一を地面に沈んでしまった黒鉄の巨兵にそう思う。
「やっぱりNight、こうする気だったんだ」
「当り前だ。自重が重すぎて動けないのなら、その自重で沈めればいい。これで直に体が地面にのめり込んで、腕も脚も動かせないから身動きは取れない。自重で地面に押し潰されて、私達の勝ちだ」
Nightの想像通りに事が進んでいた。
黒鉄の巨兵の巨兵はバランスを崩すと、地面に片足が沈んだ。
そのせいで身動きも取れなくなり、地面に体を叩き付ける。
Nightの言った通り、黒鉄の巨兵は地面と自分自身に“押し潰されて”いた。
「それじゃあコレでお終い?」
「いや、まだだ」
「まだ?」
もう、勝ったも同然だ。
それなのにNightは油断はしない。
寧ろここからが正念場と言いたいのか、放置を選ばずに追撃を選んだ。
それは私達も同感で、ここで油断なんてしたくない。一気に倒してさっさと帰ることにした。
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