◇190 苛烈する黒鉄
普通にボス格です。
強いので苦戦です。
ギギギギギギギギギ!
黒鉄の巨兵は動かない。
代わりに長い腕を振り上げ、拳を繰り出した。
ギュン!
長い腕を活かした拳だ。
相当な破壊力を持っている。
しかし動きは単調で、避けられなくはない。
「おっと、何とか避けられたね」
「そうだな。私でも避けられるか」
「意外に大したこと無いわね」
まさかこんなに簡単で、容易く避けられるなんて。
少子抜けしてしまう中、諫める声が上がる。
「皆さん、気を付けてください」
「うん。赤い目が光ってるもんね」
雷斬に注意されたので、私達は目を逸らさない。
怪しく赤い光を放つ黒鉄の巨兵の単眼。
何だか発光規則が変わったような気もするけど、気の性かな?
「来るわよ」
「あはは、大丈夫だってー」
ベルは一応警戒していた。
けれどフェルノは笑って済ませる。
それが気に入らなかったのか、黒鉄の巨兵から出る音が少しだけ変わった。
ギギギギギギギギギギギギギギギ!
多分だけど、これは歯車の音だ。
歯車が回り、エネルギーを生み出している。
そんな気がしたけど、全然間違えてない。
歯車が嚙み合い回転する。
一つ一つは非力でも、集まれば如何と言うことは無い。
凄まじい計算尽くされたギア比で回り出すと、素早く分厚い拳が繰り出される。
「なによ。また同じ攻撃?」
「あはは、おんなじだー」
確かに動作は同じだった。
だけど私の意識が勝手に切り替わる。
「この攻撃、変だな」と真っ先に気が付く成長補正を見せると、具体的に何とは言えないけど、嫌な予感がした。
「いや、少し待て。このパンチは……はっ!?」
Nightは違和感に気が付く。
確かに素振りの動作は同じだ。
けれど空気を切り裂くような音。まるで取り込んだ空気が逃げていくみたいで、空気抵抗を感じさせなかった。
そのことに気が付いたのが遅かった。
繰り出された拳による強烈なパンチ。
笑っていたフェルノだったけど、本気で死の恐怖に震えた。
「って、ヤバくなーい? うおっ!」
繰り出されたパンチはもの凄く速い。
フェルノは間一髪の所で躱して見せるが、それでも掠ったらしい。
HPが削れて、痛みで胸を押さえている。
「フェルノ、大丈夫!?」
「あはは、掠っちゃったねー」
絶対に大丈夫じゃないけれど、私はフェルノに訊ねた。
すると笑って誤魔化そうとするフェルノ。
胸を押さえて痛みを堪えると、顔色が赤くなっている。
HPの減少よりも、痛みによるダメージが大きい。
「フェルノさん、少し休みましょう」
「大丈夫だってー」
「いえ、できるだけ間合いの外側にいてください」
雷斬は甲斐甲斐しくて、フェルノのことを案じた。
回復ポーションを飲ませると、黒鉄の巨兵の死角に入る。
フェルノが無事に復帰できるかは分からないけれど、この状況はマズい。
「フェルノ……」
弱ったフェルノの姿。
ほんの少し掠っただけでこの衝撃。
直接喰らったらどんな目に遭うか、恐怖心が掻き立てられ、ベルは吐露する。
「う、嘘でしょ?」
「嘘ではないようです」
「そう言う意味じゃないわよ。どうなってるのよ。この速さ。さっきとはまるで……」
確かにさっきまでとは様子が違う。
もしかしたらまぐれ? そんな淡い期待を抱く。
けれどそんなの無駄で、黒鉄の巨兵は再び拳を繰り出す。
ギギギギギガガガギギガガガ!
歯車の音が変わった。
噛み合い方が自動で切り替わったのかな?
そんな可能性を思い浮かべたけれど、忘れさせるように、拳が放たれた。
「今度は私か……あっ!?」
「Night!?」
Nightは黒鉄の巨兵のパンチに対応していた。
頭の中で攻撃を認識、体が即座に反応する。
先程よりも速い筈なのに、流石だと思ったけれど、Nightは足を躓いた。
「痛たたたぁ。Night、大丈夫?」
「ああ、なんとかな」
私は勢いよく飛び出していた。
足を躓いて、攻撃を受けそうになるNightを押し倒し、無理やり攻撃を回避した。
本当にギリギリだった。危く死ぬ所だった。
真上を拳が通り抜け、私はNightを押し倒したまま、安否を確認。
とりあえず大丈夫そうでホッとした。
「アキラ、ベル、大丈夫?」
「お怪我はありませんか?」
ベルと雷斬が心配してくれる。
フェルノ方は少し休んでいるのか、離れていた。
それでも黒鉄の巨兵の間合いギリギリで、何時攻撃を喰らってもおかしくはない。
圧倒的な破壊力を持つ黒鉄の巨兵相手に、私達は劣勢を強いられる。
「大丈夫だよ。それより、なんだか強くなってる?」
「いや、速くなってるんだ」
Nightの見立ては合っていた。
けれど如何して速くなっているのかはよく分からない。
悩んでしまう中、再び拳を振り上げる黒鉄の巨兵。
ギギギとガガガの不協和音が響くと、空気を切り裂く一発を放つ。
ギュィィィィィン!
「「「うっ……」」」
私達は小言を発した。空気が切り裂かれると、全身がヒリヒリする。
黒鉄の巨兵がパンチを繰り出した。その瞬間、叩きつけられた空気に小さな岩の破片が巻き上げられる。
ちょっとした熱を持つと、私達を熱波が襲ったらしい。らしいから分からないけど、なんとなくそんな感じだった。
「まさかこんなことまでできるなんて……」
「想像以上だな」
「感心しないでよ」
感心なんてしている場合じゃなかった。
私達は完全に針の筵で、黒鉄の巨兵はただ徐に拳を繰り出す。
「ちょっと、また来るわよ!」
続け様に拳が撃ち込まれる。
もはや杭で、私達はとてつもない速さのパンチを、目で頑張って追って逃げる。
それができるだけ凄いけど、それしかできなかった。
「なんか速くない?」
確かにさっきよりも動きにキレがあった。
腕を伸ばし、拳を繰り出す動作にムラが無い。
〇の動作で繰り出すと、私達は避けるのも難しくなる。
「Night。これマズいよ!」
「そんなことは分かっている」
「分かっているならなんとかしてよ」
私はいつもの流れでNightに軽口を叩いた。
流石にこの状況のマズさを理解している。
けれど分かっていても何も出来ない。とっても歯痒い。
「私を青い猫型ロボットと勘違いするな」
「してないよ!」
「だったら“なんとかして”など言うな」
正論を言い放たれてしまった。
私は危機感を露わにしたから、ついキツい言葉を使っていた。
反省し「ごめんね」と伝えると、Nightは言い返した。
「謝らなくてもいい。とにかくだ。まずは動きを見切るぞ」
Nightは凄い言葉を発する。
鋭利な刃物のように鋭くて、グサッと突き刺さる。
「それができたら苦労しないわよ」
「ベル、お前の目は節穴か?」
「なんですって」
動きを見切るなんて真似、早々できる訳がない。
そう口にし、するとNightはベルを煽る。
ムカッと額に皺を寄せると、ベルは苛立った。
「Night、煽ったらダメだよ」
「煽っている気はない。実際、雷斬は見切ったらしいぞ」
嘘でしょ!? そんなこと本当にできるの。
言葉一つでベルを苛立たせる煽りを繰り出したNightだが、視線の先、雷斬のことを見ていた。
一切瞬きをしないで黒鉄の巨兵の動きに注視している。
あまりの眼光に私達は慄くと、Nightは口走った。
「必ず突破口はある筈だ。それを注意深く見つける。今はこれしかない」
「これしかないって」
「もっとスマートな方法は無いのね?」
ここからは根気と我慢の対決だった。
圧倒的な俊敏性を獲得した黒鉄の巨兵。
確かに違和感はあるものの、それで如何転ぶ訳もなく、私達は無意識に間合いの内側に立っていた。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)
ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。
また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。




