◇189 VS黒鉄の巨兵
動かないのは伏線かな?
「眩しぃ……」
「なんて言ってる場合じゃないぞ!」
黒鉄の巨兵は突然動き出した。
何が引き金になったのかは分からない。
それでも確かに息を吹き返すと、鋭い拳を放ち、先制パンチを繰り出した。
「雷斬、行けるわよね?」
「はい。なんとかですが」
HPを大きく失った雷斬。回復ポーションをゴクリと飲んで、失ったHPを回復する。
けれど体が痺れているのか、動きが鈍い。
刀を握る手に力が入っていない様に見えた。
「コレがキツいんだ」
このゲーム、CUでは、HPの管理よりも体と精神の管理が大切だって、Nightが言っていた。
HPが減ることよりも、ダメージを受けて、心身に影響を与える方がキツい。
色んな意味合いで不安になると、身が竦んでしまいそうになる。
「いやいや、大丈夫。なんとかなる!」
私は瞬間的に意識を切り替えた。
今までも戦って来たんだ。
私は忘れないように思い出すと、珍しく一番最初に動いた。
「【キメラハント】+【甲蟲】!」
私は勢いよく飛び出した。
まずはあの硬い装甲を破壊するのが先決。
だと思ったから、私は拳を振りかざすも……痛い、痛過ぎる。
「い、たい!?」
涙目になってしまった。当然のことだけど、黒鉄の巨兵の装甲は“黒鉄”。
それが何かはもちろん知らない。だけど、鉄なのは確実。
腕を伝った痛みが全神経を駆け上ると、私は地面に倒れた。
「い、痛い……硬いよ」
「大丈夫か、アキラ?」
「大丈夫だけど、大丈夫じゃないよ……でも、もう痛みは覚えたかな」
あんなの二度度ごめんだ。
私は仕方が無いので、短剣を抜いた。
ここまで私を支えてくれている初期武器。今こそ使う時だ。
「そりゃぁ!」
カキン!
まあそうなるよね、って音が聞こえた。
軽い音を上げると、短剣では無理だと分かる。
つまり私のできることは無いので、後は他の人に任せる。
「ごめん。やっぱり私は……」
「分かってるわよ。そんなの!」
私は申し訳なかった。
みんなに謝るけれど、ベルは一蹴した。
シュパン! と空気を切る音共に、矢が放たれると、黒鉄の巨兵を襲う。
「チッ。矢じゃ足りないのね」
悪態に舌打ち。ベルは悔しくはないが、ダメだったと痛感した。
所詮は木の矢だ。強度には限界がある。
鏃は鉄製とは言え、相手も鉄の塊。通用しない。地面に落ちた矢を渋々回収した。
「それなら数を撃てば……」
「待って待って、ベル。今度は私だよー」
弓を何本も番えたベル。
一気に三本射て見せようとするが、後ろからフェルノが飛び出す。
燃え上がる様な竜の鎧に身を纏うと、自分の番と飛び出す。
「【吸炎竜化】。せーのっ!」
フェルノは竜の拳で黒鉄の巨兵を殴り付ける。
すると微かに仰け反ったように見えるけど、それだけに留まる。
硬い装甲に少しへこみができたような気がするけど、フェルノはまだまだ止まらない。
「それなら連続攻撃で、どうだー!」
連続でパンチやキックを繰り出した。
目にも止まらぬ速さ……じゃないけど、とにかく力強い。
一発一発がとんでもない破壊力を秘め、黒鉄の巨兵を圧倒……はできない。
「うぇーん、全然ダメだ―」
泣きべそを掻くフェルノ。
いい線言ってると思ったけど、まだまだ足りない。
装甲に傷はないけれど、凹ませることに成功し、それでもそれ止まり。
ダメージもほとんどなく、ガガガ、ギギギ、と歯車が回る音がするだけ。
地面に着したフェルノはムッとした顔をする。
「コイツ強い! でも燃える」
それでも楽しそうなフェルノ。
私達は乾いた笑いを浮かべる。
そんな中、背中に殺気が落ちた。
「私が切ります。皆さん、避けてください!」
雷斬はそう言うと、刀を抜いていた。
おまけにスキルも発動している。
私達は正面の道を開けた。
「来てください、【雷鳴】。雷流剣術—氷柱針!」
雷斬は高く跳び上がった。
全身をビリビリと走る電気で覆っている。
身体能力を一時的に極限以上に高めると、今度は刀を振りかざす。
今回は突きのようで、まるで氷柱のように鋭く鋭利だった。
「はっ!」
黒鉄の巨兵の胸に刀が触れる。
ギシギシと軋んだ音と、熱のニオイを上げる。
アニメみたいなカッコいい演出が施されるも、雷斬が力負けした。
「クッ、ダメですか」
雷斬は真っ向勝負で負けた。
軽く地面に突き返されると、受け身を取りダメージを減らす。
それが限界で、雷斬でも傷を付けるのが精一杯だった。
いや、それが凄いんだけどね。私は全然だったから。
「惜しいわね。後少しなのに」
「流石に硬いですね」
「硬さか……つまり、ただの攻撃は通じないか」
冷静になって嫌な分析をするNight。
しかし物は試しとばかりに、ベルトの拳銃に手を掛けた。
「つまりは……」
Nightもお得意の拳銃を取り出す。
今日は自動拳銃みたいで、パンと引き金を引いて薬莢を弾く。
放たれた弾丸は黒鉄の巨兵に当たったけれど、当たっただけでビクともしない。
「ぜ、全然効いてない?」
「嘘でしょ?」
「いや、嘘じゃないな。クッ、地獄だな」
そう簡単に地獄って言って欲しくない。
だけど、コレだと完全に地獄だ。
黒鉄の巨兵に何度も何度も攻撃を繰り出した。
だけどまともなダメージにはなっていなくて、硬い装甲に阻まれて、攻撃が通らなかった。
「でも、攻撃が効かないんじゃ……」
「あはは、無理だよねー」
無理とも簡単に言いたくなかった。
だけど今のままだと無理だ。
私達の攻撃なんて、黒鉄の巨兵のガガガって音だけで掻き消される。
「こんなの一体どうやって倒すの!」
あまりにも強過ぎる黒鉄の巨兵。
もう戦いにさえなっていない気がする。
けれど容易に逃げられる訳もなくて、私達は苦戦を強いられた。
「どうするもなにもだろ」
「そうね。とにかく、攻撃の手を休めるわけにはいかないわ」
Nightとベルはそう言った。
だけど言う通りだと思う。
私達には攻撃する以外の選択肢がない中、一つだけ言えることがある。
「全然攻撃して来ないよね?」
ここまで、黒鉄の巨兵は一切攻撃を仕掛けて来ない。
仕掛けてはいるけれど、最初に雷斬をぶん殴ってから、まともな鋭いパンチを繰り出していない。
完全に舐められている。それは分かるけれど、如何して攻撃して来ないのか、全然分からなかった。
「そうね。なんでかしら?」
「あはは、きっと私達の攻撃を浴びて、動けないんだよー」
「えっ、ってことは?」
その予感は当たっていた。
私達が攻撃の手を休めた瞬間、黒鉄の巨兵は単眼を爛々と光らせる。
まるで、「ここからはこっちの番」と言いたそうで、黒鉄の巨兵は拳を振り上げた。
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