◇186 螺旋階段の深淵
深淵を覗く時……ねぇ。
「螺旋階段……ねっ」
ベルはそう呟いた。
マンホール蓋みたいな試練を解くと、その先には深い深い螺旋階段。
もはや底は見えなくて、真っ暗な闇が支配していた。
「深淵だな」
この先に行ったら、早々引き返せない。
多分だけど、本当に“深淵”で合ってる。
まぁ、深淵ってなにな話だけどね。
「下りてみますか?」
「それしかないだろ。先頭は誰が行く?」
正直、この螺旋階段を下りるしかなかった。
だけど絶対に先頭は嫌だ。
一番先頭が危険で、何が待っているか分からない。
「はいはーい! 私が行くよー」
そんな危険を一手に引き受けてくれた。
いつも通り好奇心旺盛なフェルノだ。
ちょっとと言うより、かなり心配だけど、腕をピシッと挙げている。
何だか却下できないので、Nightは心配になりつつも、ランタンを手渡した。
「だったらお前が灯りを持て」
ランタンを手渡されたフェルノは不服そうだった。
首を捻ってしまうと、Nightにこう言った。
「えっ? 私、<ファイアドレイク>だよ?」
「だからだ」
「炎出せるんだよ?」
「尚更だ」
フェルノは極めて珍しい、ドラゴン系の種族。
その名も<ファイアドレイク>。炎を吸収して、より一層熱く燃え上がるドラゴン。
メチャクチャ強いけど、今回はダメ。
フェルノ本人だけが、その危険を理解していなかった。
「はぃ?」
「お前、一酸化炭素中毒にでもなったらどうするんだ!」
フェルノは本当に分かっていなかった。
自分の種族スキルと固有スキルの恐ろしさを懸念していた。
前以ってNightは声を張り上げ教えると、“一酸化炭素”という危険な単語が飛び出す。
「いっさんかたんそちゅうどく?」
「そうだ。この世界はファンタジーだが、所々がかなり現実味を帯びて制作されている。水中での溺死がある以上、一酸化炭素中毒もある。気を付けろ」
「はぁー……分かったよ」
あまりにも作り込まれていた。いや、作り込まれ過ぎていた。
そのせいで、どんな危険が待っているか分からない。
私達は慎重に螺旋階段を下りることに決めた。
不服そうなフェルノを先頭にして——
「うわぁ、暗いねー」
「皆さん、足下には注意してくださいね」
「分かっているわよ、そんなの」
私達は慎重に螺旋階段を下りていた。
一つ一つの板がそこまで広くない。
一応簡単な鉄棒で柵が作られているけれど危ない。
私達は暗闇の中、深淵の世界へと向かっていた。
「ねぇみんな、この先になにが待っているのかな?」
「なにって、知る訳ないでしょ、今着た所なんだから」
「そうですね。私とベルは分かりませんが、皆さんはなにかしらのヒントを得たのではないですか?」
そんなこと言われても分からない。
確かに雷斬とベルが合流したのはついさっきだ。
だから私達なら知っている。そう思うにも無理は無くて、現にNightが黙っている。
「Night、黙ってないで答えなさいよ」
「そうだな。確証はないが、“黒鉄の巨兵”は怪しいな」
「「黒鉄の巨兵?」」
私も同じことを考えていた。
やはりNightも同じ部分が引っかかっていたみたい。
それを受けて、ベルと雷斬は首を捻った。
「なによ、それ。何処から出て来たのよ」
「そうですね。アキラさん、フェルノさん、心当たりはありますか?」
当然の反応だった。
“黒鉄の巨兵”明らかに重要なキーワード。
それを知らないのは恥ずかしいのか、私とフェルノにも訊ねた。
「ないよー」
「でしょうね」
「私も気になってた。黒鉄の巨兵って、この先で待っているボスなのかな?」
フェルノは相変らずの反応だった。
まるで興味を抱いていなかった。
だけど私はNightと同じ。気にはなっていた。
「ちょっと。一体なによ、黒鉄の巨兵って」
「分からないけど、石碑に書いてあったから」
「「石碑?」ですか?」
黒鉄の巨兵が何かは分からない。
けれど石碑の最後の方に書かれていた。
明らかにボスだとは思うけど、どんな存在かは分からない。
けれど驚いたのは雷斬とベルの反応だ。
二人共、石碑のことをすっかり頭の片隅から外していた。
「あれ、二人共見てないの?」
「見てる訳ないでしょ」
「はい。ですが、石碑に重要な要素が隠されていたんですね」
石碑の内容は見ていなかったらしい。
まぁそうだよね。書き換わっているなんて思わないよね。
先に試練が解けたことを伝えたら、石碑なんて目が眩んじゃうよね。
「隠されてはいなかったが、気にはなるな」
「そうだよね。隠されては無かったけど」
「ちょっと、そこ強調しないでくれる?」
ベルに怒られちゃった。
でも変に協調したら雷斬とベルが笑いものになっちゃう。
私達は揶揄うのを止めると、自分達の落ち度にした。
「黒鉄の巨兵。それがこの先に待っているとすれば、用心した方がいいだろうな」
「それじゃあ戦えるんだねー。やったー!」
「フェルノ、お前はいつもそうだな」
「呑気よね」
フェルノは戦いを楽しみにしていた。
正直、戦わずに解決できれば一番いい。
何せ今回、フェルノは満足な力を発揮できない。
死力を尽くすのは必死になりそうだ。
「黒鉄の巨兵ね。ってことは大きいんでしょうけど……」
「どこまで続いているんでしょうか、この階段は?」
「そうよね。なんか怖くなって来たわ」
話がスライドしたように見えて、実はしていなかった。
黒鉄の巨兵。多分だけど相当大きい。
ここまで螺旋階段を下りては来たけど、その長さから、高さを推測しようとした。
「止めとくわ。考えただけで悍ましい」
ベルは額に手を当てた。
推測するのを止めるけど、それだけ大きな相手になると成す術がない。
そんな気がしてしまい、ベルは少しだけ恐怖を感じた。
「大丈夫、ベル?」
「ええ、大丈夫よ」
「うーん……」
私はベルのことを心配した。
ツンツンしたベルがこうなるなんて、確かに階段が長すぎる。
私は色んな事を考えるけど、それが逆効果になりそうなので、意識を切り替えた。
「分からないものって、怖いよね」
「当り前だ。それが人間、深淵の先だ」
「深淵の先。上手いこと言うね」
分からないものがある。それに対して恐怖を抱く。
それは人間として当たり前のことだった。
この先には得体のしれない何かが待っている。
それこそが、即ち深淵。私はNightが上手い事を言ったので褒めるも、あまり嬉しそうじゃなかったので、悪いなと思った。
でも表現としては分かりやすいし面白い……なんて、流石に言える訳ないんだけどさ。
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